Taste of India

第19話 主食についてA〜米の食べ方


 お米はインド亜大陸全土で食べられる。

 チャパティなどの小麦パンを口にする機会の比較的多い北インドでも、お米は食べる。とくに、カルカッタ(コルカタ)のあるベンガル地方や、ボンベイ(ムンバイ)のあるマハラーシュトラ州などでは米飯をガンガンたいらげている。「インドの主食は北は小麦、南は米」というのは、間違いとはいわないまでも、きわめてラフな説明だと痛感する。
 
 とはいっても、圧倒的にお米好きなのはやはり南インドの人々である。
 彼らはお米をそのままご飯として食べるほか、米を挽いて粉にしてから(実際には、水に漬けてから石臼などで挽き、ドロリとしたペーストにする)、同じく要領でドロドロにすりつぶしたダールと混ぜ、さらに常温に一晩放置することで発酵させた生地を、蒸したり(「イドゥリ」という、ほのかに酸味のある蒸しパンになる)、クレープ状に鉄板上で焼いたりして(こちらは「ドーサ」という軽食だ)食べる。いわばお米のパンケーキ類である。チャパティやプーリなど小麦粉パンは発酵させないのに、わざわざお米の生地を自然発酵させるのがおもしろい。

 南インドの人々は、お米の生地からビーフンのような米の麺をつくる。乾燥麺を水で戻してゆでたりするのではなく、練った生地をところてんの突き出しみたいなもので押し出し、それを蒸すのがふつうの調理法だ。イディヤパンなどという名前で、カレーをかけたり、ココナッツミルクの甘い「たれ」にひたしたりして食べる。もちろん箸は使わず、右手指を使う。
 
 米を挽かずとも、粒のまま蒸してそれを押して乾燥させた「押し米」などというものもある。南インドでアワルAVAL、北ではポハPOHAと呼ばれる食品だ。さっと水に通してからスパイスや香味野菜と炒め、やはりカレーなどをかけたりするのが南インド流の食べ方のひとつ、「アワル・ウプマ」である。

 西部インドなども含め、場所によっては、お米を原料に、本来は小麦全粒粉であるはずのチャパティをつくったりもする。上新粉に塩少々を加え、水で練った生地を薄く丸くのばし、油をひかない鉄板で焼けば、日本でも同じようなものができるはずだ。

 加工法や調理法のバリエーションのほか、お米自体の種類や品種にもいろいろある。が、炊き上がりはどれもパラリとしている。長粒タイプのインディカ種があくまで主流だが、中には日本の米並みに丸いものや(それでもやはりインディカ種だ)、南インドのケララ地方には粒が大きく赤みを帯びた「赤米」もある。

 ご飯の炊き方についても、炊くというよりはたっぷりのお湯でゆでてから少し蒸す、いわゆる湯とり法的なやり方が従来は主体だった。しかしながら近年では、大都市部中心に炊飯器も少しずつ普及してきている。

 白いご飯以外のメニューとしては、ノンベジなら骨付きのマトンやチキン、菜食では野菜を使った「ビリヤニ(ビールヤーニー)」や「プラオ(プラウ)」などと呼ばれる「炊き込みご飯」がポピュラーだろう。もともとはペルシャや中近東が発祥だろうが、今やインドの津々浦々でさまざまなビリヤニやプラオが食べられる。魚の切り身やエビのビリヤニもあるし、南インドの野菜ビリヤニでは「揚げたパン」を具材のひとつにしていることもある。

 いったんふつうに炊いた白いご飯に、炒めた野菜や挽き割り豆、スパイス類をミックスしたり、さらにはレモンやヨーグルト、トマト、なす、ココナッツ、ごま、ギーなどをそれぞれ混ぜて食べたりする「ミックス・ライス」のメニューも、南インドを中心に多くのバリエーションがある。

 カレーとご飯を混ぜて、小鍋でサッと煮立てた雑炊やおじやのような料理、あるいはカレーのお茶漬け的なメニューも南インドに行けばある。インド全体を見回しても、ご飯とダール(緑豆などの各種挽き割り豆)をトロトロに煮込んだ「おかゆ」が家庭料理として存在する。

 小麦粉同様、あるいはそれ以上に調理方法にさまざまな工夫があるのが、インド料理の醍醐味のひとつである。

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