Taste of India

第16話 「ノンベジタリアンの実態」&「ノンベジ・カレーの醍醐味とは」


ノンベジタリアンの実態

 ベジタリアンのカレーについて語ったからには、ノンベジ・カレーにも言及せねば、片手落ちというものだ。

  ノンベジタリアンを「非菜食主義者」とするのはいい。が、そうすると、この人たちは毎食肉や魚ばかり食べているように考えがちだが、やはり実状はまるで異なる。
 インドの平均的ノンベジ庶民の食事スタイルは基本的に野菜、穀類、豆類中心で、ベジタリアンの人々とほぼ同じようなものである。つまりは毎食が菜食中心。ただし週に一から数回程度、肉や魚を使った料理が食卓に華を添える。その程度のささやかさだ。日本人のように焼き肉やステーキをモリモリという感じとはぜんぜん違う。ふつうはベジタリアンだが、たまには肉や魚も食べますよという実直さが、インドの庶民派ノンベジタリアンの食生活である。

 そんな中、積極的に肉料理に取り組んでいるのがイスラーム教徒(ムスリム)の人々だ。
 プロのインド料理の世界でも、肉料理のスペシャリストにはムスリムの人が多い。庶民レベルでも、肉料理のディープさではヒンドゥの人たちはムスリムに遠く及ばないと思う。羊の脳味噌をタラの白子のような絶妙な味わいのカレーにしたり、新鮮なマトンのレバーを焼き鳥風の串刺しにして炭火でジューシーにローストしたり、骨つき鶏モモ肉をスパイシーな「フライド・チキン」に仕上げたりと、肉料理のバリエーション、食べる量、回数、すべてムスリムがヒンドゥを圧倒している。

 肉を食べる宗教といえば、キリスト教の人々も負けてはいない。
 たとえば、胡椒をはじめとするスパイスの一大集産地として有名な南インド、ケララ州のコーチン周辺にはキリスト教徒が多い。彼らの得意料理として名高いのは「ビーフ・カレー」、あるいは「ビーフ・チリ・フライ」と呼ばれる炒めものなどである(もっとも、どちらも食べた感じはマトンと区別がつかないが)。

 ケララと同じく、アラビア湾に面した楽園ゴア州も、旧ポルトガル領であったことが影響してキリスト教文化の濃厚な地だが、ここではスパイスと酢で豚肉をマリネしてから煮込むカレー「ポーク・ビンダルー」が名物のひとつである。豚の内臓や血までを使うカレー「ソルポテル」もあるし、カレーではないが、いわゆるチョリソーによく似たスパイシーな「ゴア・ソーセージ」もたいへんおいしい。


ノンベジ・カレーの醍醐味とは

 われわれ日本人が観光ツアーでインドを訪れた場合、行く先々でスパイスを駆使したさまざまな肉や魚のカレーに遭遇できる。スパイス免疫のないインドカレー初心者には、野菜や豆のベジ・カレーよりノンベジ・カレーの方が、タンパク質とアミノ酸のうまみを強調したわかりやすい味つけで、むしろ親しみやすいのであろう。

 菜食カレーの最大の魅力が豆類も含めた素材のバリエーションと調理法の広さだとすれば、ノンベジ・カレー、とくに肉カレーの醍醐味とはズバリ味つけ、調味の妙だと思う。

 うずらや鳩、鴨などのちょっと変わった家禽類、ほかにも特例的に牛や豚など、多少選択の余地はあるものの、インドの肉料理といえばチキンかマトン(といっても、実際はほとんど羊ではなく、やぎの肉だが)、そしてそれらの内臓類が素材のレパートリーのほぼすべて。素材の多彩さだけでいったら、肉カレーは野菜や豆カレーの充実ぶりにとても太刀打ちできない。
 ところが、ちょっと視点を変えてみると様相が一変する。チキン・カレーひとつをとっても各地域、各レストランや食堂、各家庭でじつにさまざまなレシピの変化があるのだ。ズバリこれがインド肉カレーの魅力である。

 チキン・カレーのつくり方において考えられる味のベースは、ざっと次のようなものか。
・よく炒めたたまねぎとヨーグルト
・よく炒めたたまねぎとトマト
・よく炒めたたまねぎにトマトとヨーグルトをミックス
・揚げたまねぎとヨーグルト
・揚げたまねぎとトマト
・揚げたまねぎにヨーグルト、そこにトマトを少しプラス
・揚げたまねぎにヨーグルト、さらにカシューナッツ、アーモンド、けしの実など
・揚げたまねぎにトマト、さらにカシューナッツ、アーモンド、けしの実など
・ゆでてからミキサーにかけたたまねぎとヨーグルト、トマトなど
・生たまねぎ、ヨーグルト、トマトなどでチキンをマリネし、そのまますべてを炒め煮込み(たまねぎ単体を炒めも、揚げもしない)
・たまねぎは使わず、トマト、あるいはヨーグルトをベースにする
・炒めたまねぎとヨーグルト、ココナッツミルク
・炒めたまねぎとトマト、ココナッツミルク
・炒めたまねぎとトマト、タマリンド
・炒めたまねぎと香菜、青唐辛子など
・そのほか

 材料の切り方や配合バランス(たとえばたまねぎをスライスにするか、みじん切りにするかでも、できあがりは異なってくるし、加える水の量でも風味の違うものができる)や使用するスパイスを考慮すれば、さらに多岐な分類も可能だが、基本的なつくり方だけ挙げても、このくらいにはなる。日本のカレー本だと「炒めたまねぎにトマトをベース」ばかりが出てくるが、それはチキン・カレーのレシピの一面にすぎないわけだ。

トップページへ戻る