歌集 九

一、二、三 リズムに乗って歩く夕暮れ
         五十キロハイクも後もう少し
吹雪く中少しだけ風が収まれば
         ほんわか穏やか春の如し
カトコトと木枯らし吹きて眠れざる
         夜半しきりに娘を想う
心病む姪のことを想う夜
         夢でも良いから亡母に逢いたく
六年前癌の手術を受けたりし
         病院横目に寒の夜歩く
午後の九時ライトを点して田を梳きし
         田植え準備に忙しき農夫
蛙鳴き絣模様の早苗田に
         夕闇迫る道の辺を歩く
公園をジョギングしたり歩いたり
         老若問わず満ち足りた笑顔
風薫る伊佐名護山に佇みて
         代わる代わるシャッターを押す
さわさわと若葉の薫る風吹きて
         蕗採る吾の頬をくすぐる
在る無しの風に百合の香匂ひ来る
         学童通う山端の径
笹百合の優しき香り立ち込めし
         仏間に活けしたった一輪が
公園の至る所の落ちつつじ
         集めて孫は飾して遊ぶ
色取りの紫陽花の花土手に咲く
         住む人も無き平家の里に
三日だけ雨よ降るなと祈りつつ
         梅五十キロを引き上げて干す
炎天下朝な夕なに顔を見て
         三日三晩の梅干しも終わる