歌集 七

丈し子は弟の頬を手で触れて
         母似の事を誇らしく言いやる
故郷の山々深く染めゆきて
         白も極まる滝の優しさ
落ち葉踏み写真を撮る人撮られる人
         人で賑わう紅葉狩かな
振り向けど還る家無き故郷を
         恋しく思う秋の夕暮れ
落ち葉舞うお花畑の展開だ
         氷の山より連なる山は
テレビにてエイズにかかりし女の子
         勇気ある言葉で訴えおりぬ
慈しみ育み来し子が妻や子を
         殺めし人のその父母想う
愛しさと背中合わせの憎しみが
         一度に爆発野本事件
今の世は恐ろしき事多かりて
         計り知れ無き仕合せ芝居
何時までも暖かかった今の秋は
         冬山迄も彩を残せし
姉達の安否だけでも知りたくて
         電話の前で座して動けず
取り合えず命だけは大丈夫
         倒壊した姉の低き電話聞く
我だけを襲うが如く降る雪は
         被災地へ向かう車めがけて
救急車のサイレン音に追われつつ
         物資を積んで我等も走る
姪は逝きその子供等も今だまだ
         行方も知れず五日も絶ちて