歌集 三

お母さん愛しているよ私もよ
         電話の向こうの夫の声聞けば
柚子の実が凍てつく雪の上に落つ
         黄色き色がただ美しく
托鉢の大師の祖母と僧の影
         雪降る中を重なり歩む
テレビより密入国と映るたび
         務むる吾子思ひてやまず
老い人の小言を日毎に聞き居れば
         我が老ふ事も哀しく思ひぬ
ぽつぽつと児童が通る農道に
         青田を渡る爽やかな風
子供等と膝突き合わせワープロの
         手ほどき受けし夫の横顔
早苗田は絣モンペの遠き日の
         開拓姿に思ひを馳せる
梅漬けの梅を貰いて厨に置けば
         その香居間にも漂ひ来たる
長雨の続きし田園の稲よりも
         我が物顔に稗の群生
陽も落ちて次々ゴールを目差す子の
         五十キロハイクの重き足取り
霧深き歩道を渡る子供等の列
         頭を下げる仕草可愛いく
かさこそと紅葉に栃の葉落ちる音
         木陰に佇ちて優しく聞けり
但馬路を夫と二人でドライブし
         私の心も染まる秋色
雪が降る雪が降るぞと地響きを
         立てて雷鳴り響くなり