歌集 一

百日草次から次へと咲き競い
         切り花なれど楽しさ尽きず
全治まで六ヶ月との診断を
         気を遠くしてベットにて聞く
児を待ちて吾幾度か病窓に立ち
         日は暮れ果てて雨さえ降らん
秋桜の花の上なる空黄昏て
         ほのかに赤き雲一つのこる
足速に秋桜揺れる散歩道
         行き交う人の吐く息白し
退院を似酔わす言葉耳にせし
         童女の如く心ときめく
バス停に急ぐ吾子を見送りぬ
         夕闇迫る三階の窓辺
廃屋のこの素晴らしき山村を
         守る人も無く静けさも増し
重い荷を背負える我が身の幸せを
         病みてつくづく有難く思う
道祖神野菊の花に囲まれて
         道行く人々見守り立ちぬ
真白の空手着つけて検定に
         朝霧の中吾子は駆け行く
ゆさゆさと胸元揺れるコマーシャル
         見れば我が胸空しくなりぬ
空仰ぎ今日の佳き日に雨も佳し
         雪も佳しとの荷受けする朝
冬満月仕事帰りの寡婦の群れ
         明日を約して家路へ急ぐ
仄白き水平線の彼方より
         潮の香乗せて春を運び来る