法話
 

同行二人(どうぎょうににん)
         

 「虚空尽き、衆生尽き、涅槃尽きなば、我が願いも尽きなん」お大師様が高野山奥の院にご入定なさる時のお言葉です。これを分かり易く言うと、「たとえこの世の中に、一人でも迷い悩み苦しんでいる人が有る限り、その最後の一人まで救うまで、自分の誓願は終わらないのである」との永遠の救済を誓われたお言葉です。

大師信者はこのお言葉を支えとして、千二百年歩んできました。

昨年は転変地異、日本国中に台風地震が襲い多くの被害をもたらしました。

 特に昨年の新潟中越地震の猛威は私たちに強烈に自然の恐怖を植え付けました。私たちは文明の力によって武装して少々思い上がった考えをしていたようです。自然の猛威の中には私たちの力も文明も無力で有ることを知らされました。

 その報道の中で、ヘリコプタ−で一時自宅に戻りやっと持ち出してきた、亡夫の位牌に向かい「じいちゃん昨年無くなって良かったね。こんな辛い思いをしなくて」と涙を流していた老女に私たちは生きる苦しさを見ました。又母子三人が自動車ごと被害に遭い、唯一人生存し救出された皆川優太ちゃんには私たちは命の尊さを教えられました。

  私たちが今生活していると言うことは、薄い箱船に乗り、たまたま緩やかに流れているに過ぎないかもしれません。何時突風が吹き、荒波が襲うかもしれません。

 難しい理屈も言い訳も無しに唯お大師さまに手を合わす父母、祖父母 先祖代々の姿を私たちは見てきました。そして今お大師さまに手を合わせなくてはならない自分に気が付きます。

 千二百年の祈りと共に大師さまは私たちと共に歩まれておられます。

  「同行二人」とはお大師さまと共に日暮するということです。