★
過去の記録・Boys 8 ペーター まだ、ヨコハマに住んでいた頃のこと。珍しいひとから電話があった。ペーター。1年ぶりくらいだろうか。ずっと音沙汰なかったのに。忘れられたと思っていた。 ★★★ ペーターとは、職場の友人、アンディーが自宅で開いたパーティーで知り合った。日本人はほんの数人しかいなかったっけ。だいぶ遅れて来たのが、ペーターだった。ワタシより、2つ、年下らしい。フェアブロンドで、いかにもヨーロッパ系。部屋に入ってきたとき。一度、バシッと目があった。ドッキ〜ン・・・。ワタシ的には、な〜んとなく、一目ぼれっぽかった感じ。なんだろか。彼は遅れて来たわけで。視線は、1対部屋の全員 ―― つまり、『いらっしゃ〜い』とか、『おせぇ〜よぉ!』とかいう、全員の視線が彼に向いていたわけだけど。彼の視線はワタシに留まった。・・・ので、目が合っちゃった。そん時は、意味不明。(えっ? ワタシ、きれい? 目を惹きました?・・・、なんてね。) 午前零時を過ぎると、みんなで輪になって、盛り上がる、っていうよりは、数人ずつくらい、ばらばらに、だんだん静かな世間話の場になって行った。そのときは。ワタシは、ジョーっていう、職場は違うけど、やっぱうちの会社の社員だったヤツとカウチでおハナシしてました。 だんだん眠くなってきて。ジョーは、カウチに座ったまま、私の頭をヒザに乗せてくれて、『泊まってっちゃえよ。』ってなことを言った。・・・・だよねぇ。今更。タクシーでヨコハマまで帰るのも、なんだしねぇ・・・。って、ジョーの膝枕でうとうとしていたら。ペーターがワタシの腕を引っ張って、立たせた。うわっ・・・。憧れのペーター。なんでしょうか。 ヤツは、黙って、ワタシの腕を掴んだまま、黙々と歩いて。普段、アンディーが書斎に使っている部屋に入ったのデス。 『あそこはウルサイから。ここで寝よう。』 あん? ぺ、ペーターと一緒に? ふたりっきりで? この部屋で? "Yes." ウレピィ〜!! 今日のワタシの運勢、ってなんだったっけ・・・。見てないよ。けど、きっと、超ラッキーな日なんだろう。『ステキな出会い!』とかっていう。『お気に入り』テレパシーが通じてしまったんだろうか。たいしておハナシはしてなかったと思うけど。 しかし・・・。呑みすぎたワタシってば。急に気分が悪くなり。 『ちょ、ちょっと待っててね。』 トイレに行きました。食ったモン、全部出てきた、って感じ。vomit したんです。すっきりして、クチをゆすいで。しばらく。巨大な洗面所の洗面台の端っこに座って、脚をプラプラしてました。吐いちゃったよぉ・・・・。ちょっと、ペーターのところには戻り難いなぁ・・・なんて考えながら。 でも、ペーターが、迎えに来ちゃいました。なにやってんの、そんなとこで、って。彼は、たぶん。ワタシが、ただ酔っ払って、ヘロヘロになってるだけだ、って思ってたのよね。でも、出るもん出しちゃった私は、ぜんぜん、ヘロヘロじゃあない。ただ・・・・。やっぱ、ねぇ・・・。臭いでしょう。 部屋に戻されてしばらくすると。ペーターが、ワタシにキスをしようとしました。避けたよ、避けた。 なんて、もったいない! でも、ワタシ、今、ゲロしました、なんて、言っていいもんかどうか。とにかく。眠いから、寝よっ! って、さっさと寝てしまいました。正確には、寝たふり。ペーターは、マジかよ、って顔してましたが。密着したかったみたいで。とりあえず、抱き合って寝る恰好になりました。しかし。スプーンです。顔を合わせて眠るわけにはいきません。臭(にお)っちゃうから。私は後ろ向き。 翌朝、電話番号を教えて帰りました。ペーターからは、何度か電話があったけど、おたがい、いろいろ用事があって、なかなかデートにまでこぎつけなかった。 一度だけ。ペーターの友人と3人で会ったかな。呑みまくって、ペーターのアパートに辿りつき、ザコ寝、っていうか。ペーターひとり、ベッドでさ。ワタシと彼の友人は床で寝かされた。なんて待遇! で、翌月、また、アンディーの家で集まりがありました。こんときは、少人数。ペーターも来た。宴もたけなわ・・・。ペーターがしたり顔で、ある、話を始めた。 どうやら、日本の『干支』に興味を持って、十二支と、更に、60年周期で、違う十二支、それぞれのキャラクター(性格など)について書かれた本をよんだらしい。ペーターの失言。 『・・・で、ボクは○ドシなんで、そこんとこ読んだら、なんか当ってるみたい。』 ホカのひとたちは、『へぇ〜・・・。』って聞いてたけど。ワタシは、『へっ・・・? そんなバカな。』って計算した。ペーターは、サバよんでた。2つ以上、年下だった。あの時の私としては、許せないほど。(今思えば。別に・・・。いいじゃん、って感じなんだけど。) そんなことで、プンプンしてたら。ペーターもプンプンしちゃって。 『トシ、って、そんなに大事? ボクはボク、でしょう?』 って言われたけど。ギクシャクしたまんま、なんもないまんま、終わった、と思っていた。 ★★★ ・・・で、そのペーターが、1年ぶりくらいに、電話してきたのよ。なんか、居候先の友人が、彼女を連れ込んで、追い出されたから、泊めてくれって。利用しやがって、このやろう。でも。もう、近くの駅まで来ちゃってたのよ。終電は出たあとで。・・・とかなんとか。仕方ないから、泊めてやることにした。ベッドはひとつしかないのに。 私んちは、初めてだからね。駅まで、迎えに行ってやったさ。こんな夜更けに、ったく・・・。 ペーターは。1年間連絡しなかったのは、怒ってたからじゃなくて。アパート引き払って、一度ドイツに帰ってたこともあるけど。電子手帳のディスプレイが(踏んづけてしまったそうだ)読めなくなって、ワタシと連絡取れなくなったからだ、と言った。 じゃ、なんで、今日は電話できたん? って聞くと。 『そう。それなんだけど。今居候してるトモダチの部屋でずっと預かってもらってた荷物を って、ポケットから、1年前の、あの紙切れが出てきた。ふ〜ん・・・。 ビール飲んで、ちょっと話してから。歯を磨くんで、洗面所に行って戻ってくると。ヤツは勝手にワタシのベッドに入っていた。 『ペーター! あんたは、床で寝るの!』 ワタシが泊りにいったときは、ベッドにいれてくれなかったくせに・・・・。 『どうして? 大丈夫、ふたり寝れるよ。』 ・・・・。あんたが決めることじゃあ、ない、って思うんだけど。ベッドから追い出せそうもないし。ワタシがなんで、床で寝なくちゃなんないんだ、って思って。一緒に寝ることになった。 ペーターは。また、手を出してきた。しかし・・・。ホントはワタシ、って、かなり悪運につきまとわれてるみたいで。こんときは。ゲロ、じゃなくて。でも、やっぱ臭い。生理のいっちゃん、ヒドイときで、分厚いナプキンもしてたのさ。だめ、ペーター。早く寝なさい。 『・・・・。アナタ、って。不思議な人だね。なんでダメなの?』 うっせぇ。とにかく。早く寝ろ! 翌朝。ワタシは勤めがあるので(そう、平日だったんだよ、これが。)さっさとペーターに帰ってもらうことにした。シャワーは使わせてあげたけど。 ペーターは、その日、大阪に行く、という。なんでも事業を始める、とかで。その取引先になるかもしれない会社を訪ねて。一週間ほどの予定で。 『どんなシゴト?』 『う〜ん・・・。薬品の卸、っていうか。ドイツのクスリ、日本で売れそうでしょ?』 『へぇ・・・。成功したら。ペーターは社長さん?』 『ふ・・・。そうだネ。これ、ボクのペイジャーの番号。ホテルはまだ予約してないから。』 そういって、ペーターは帰っていった。 電話してね、って言われても。ペイジャーだと、あっちからかけてもらうことになるし。 『もしもし〜? 別に。用事ない。声が聞きたかっただけぇ〜。』 なんて用件で呼び出せないだろう。結局、ワタシからは連絡してない。もともと。ワタシは執拗に♂を追いかけるタイプでもないし。こんなのは言い訳で、たぶん。ケイタイの番号だったとしても、ワタシから掛ける事なんて、なかっただろうけど。 あっちからも電話はそれ以降なかった。ふん。利用するだけしちゃってさ、なんて思って。忘れることにした。 ★★★ 3年後、くらいか。ワタシはその頃、付き合っていたヒトと婚約した。彼と自由が丘の、小さいバーで飲んでいたら。いきなり、誰かがワタシの背中を、すごい勢いで叩いた。振り返ると。 ペ、ペーター?? まだ、日本にいたの? それにしても。こんな、田舎のちっさい店で。ものすごい偶然。 『元気?』 『うん・・・。ペーターは?』 『元気だよ。・・・アナタ。電話くれなかったよね。』 『はっ? ペーターだってくれなかったじゃない。』 『だって。アナタが電話してくれないから。かけたら悪いのかな、って思って。』 『・・・・。ページャーなんかに、用事もなくかけられないでしょう?』 『呼び出してくれたらよかったのに。』 ペーターが、ちろちろ、ワタシの彼を見るもんだから。とりあえず。ふたりを紹介した。男どもは、握手してた。 『ペーター。私たち、結婚するの。』 『・・・ふ〜ん。そうなの。おめでとう。・・・じゃ、元気でね。』 それ以来、このペーターとは会っていない。もちろん。 ★★★ ウチの会社と取引のある別会社に転職したアンディーが、出張でやって来た。ウチの会社へ。ものすごい、久しぶり。彼は、会議が終わると、ささっとワタシを捜して、私の職場まで、挨拶に来た。 久しぶりだねぇ・・・、なんて話をしてから。ふと。気になって、尋ねてみた。 『そういえば・・・。ペーター、って、今でも会ってるの? 元気にしてる?』 『あれ? 知らなかったの? あいつ。インターポールに指名手配されてて。こないだ、 はぁ〜〜〜〜〜〜っ??? な、なんで? 『麻薬の取引してたらしいよ。』 うげぇ〜〜〜〜〜っ・・・。そういえば。事業を始める、って言ってた。ドイツのクスリ、って・・・。麻薬のことだったの??? とんでもないヤツに引っかかるところだったのね・・・。いつも、何かが邪魔をして、彼とは親密な付き合いができなかった。ワタシって運が悪い、って思っていたけど。いや。運が良かったんです。ものすごく。 |