元々、僕の御主人は違う人だった。
ある時、ひょんなことから、僕は別の人にお世話されることになった。
理由は分からない。でも、前の御主人は僕を嫌っていたわけではない……と思う。
食事は勿論、お風呂に入れてくれたり、撫でてくれたり、話しかけてくれたり。
僕も御主人のことが好きだった。でも、新しい御主人はそれにも増して優しかった。




僕は『エルクさん』という人の家に住むことになった。
その人はあまり家に帰って来なかったが、代わりに『ビビガさん』というちょっと変わった人がよく僕の世話をしてくれた。
そして、『エルクさん』と一緒にいた人。
『リーザさん』という人。
思えば、この人との出会いが僕を大きく変えた。




この人は誰よりも優しく、そして不思議な人だった。
『リーザさん』は僕の言葉を理解した。僕はこの人の言葉が分かった。
僕は『リーザさん』から色んなことを聴いた。

『エルクさん』『リーザさん』という名前を聴いたのが最初だった。
そして、僕の名前も聴いた。僕の名前は『エルクさん』がつけたという。
『リーザさん』は、もっと可愛い名前がいい、と反対したらしいが、僕は嬉しかった。
僕にも、僕だけの『名前』が与えられたから。
前の御主人も僕に名前をつけてくれたと『リーザさん』は言ったが、僕にとっては『エルクさん』がつけてくれたのが最初の名前だ。

他に、僕は色んなことを聴いた。
『エルクさん』は『リーザさん』の命の恩人であること。
『パンディット』という魔物と共に逃げ出してきたこと。
『シュウさん』はちょっと怖そうに見えるけど、本当は優しいこと。
『エルクさん』と『シュウさん』は『ハンター』という職業であること。
『エルクさん』は『リーザさん』にとって、特別な存在であること。
好き嫌いのこと、町のこと、今日の夕飯、その他色々な他愛もないこと。
『リーザさん』は僕の知らないことをたくさん知っていた。




ある日、僕は久し振りに来てくれた『リーザさん』と会話していた。
















人間っていいよね。



何でそう思うの?



人間は、僕の出来ないことがたくさん出来るから。



例えば?



頭がいいし、二本足で歩けるし、話が出来るし、字が書けるし、他にもたくさん出来るから。



……。



どうしたの?



貴方は、人間が羨ましい?



うん。僕も人間みたいに色んなことがしたい。



そう……。










……何で?



えっ?



何で、そんなに悲しそうな顔をするの?










……人間は、貴方の出来ないことがたくさん出来るわ。でも……。



でも?













……人間は、貴方に出来ることが、出来ないの……。












え?














その後、『リーザさん』は無理に笑って見せた。
でも、凄く悲しそうだった。

以来、僕のところに『リーザさん』達が来ることは極端に少なくなった。














そしてある日。

世界が、崩壊した。














何があったのかは分からない。けど、世界が滅茶苦茶になった。
正確には、そう分かったのはもっと後のことだけど。



『エルクさん』の家も崩れ、僕はその瓦礫の中にいた。
瓦礫の隙間を縫って何とか外に出ると、外は凄いことになっていた。
僕が以前見たものは無かった。
木は生気を失ってそこに立ち尽くすのみだった。
建物は崩れ落ち、火と煙に包まれ、原形を留めていなかった。
人間は何か叫びながら逃げ惑い、呻きながら地を這っていた。

僕は走っていた。
何から逃げているのか分からなかった。いや、僕は逃げていたのか。それも分からない。
しかし、走らずにはいられなかった。
走らなければ、何かに飲み込まれる気がした。

走り疲れた僕は、その辺の荷車に飛び乗って眠った。目が覚めたとき、僕は見知らぬ土地にいた。
人間は疲れた表情で、俯きながらどこかに向かって歩いていた。
どこに行くつもりなのかは分からない。でも、僕は理由を知りたいとは思わなかった。
人間も、恐らく僕と同じことを考えていると思ったから。
その時の人間は、僕が羨んでいたものとはかけ離れた姿をしていた。



世界が崩壊したと何となく思ったのは、そんな旅の途中だった。









いや、崩壊したのは世界ではない。

人間の心だ。



少なくとも、僕にはそう見えた。





崩壊した人間は、僕の目に醜く映った。








何で、崩壊したのだろう?
人間は何でも出来るはずなのに。
僕より、ずっと凄いはずなのに。










人間って、不思議だ。



闇の中に光を見出して。

光を闇に帰して。



狭間の美学は、僕には到底理解出来そうにない。










僕はある男の人に拾われた。
無論、言葉は分からない。でも、僕のことを大切にしてくれているのは分かる。
しつこいくらいに僕を撫で、抱き締め、かまってくれる。
僕のことを『アーティ』とよく呼ぶから、この人は僕に『アーティ』という名前をつけたようだ。
僕は偽りの名前で呼ばれるのは嫌だったが、この人は『リーザさん』ではない。それに、この人は僕を大切にしてくれる。
だから、僕は今『アーティ』として生きている。









『リーザさん』達は、無事だろうか。
『リーザさん』達は、崩壊していないだろうか。
俯いて歩いてはいないだろうか。

落ち着いた後、僕が思うことはそれだけだった。








『リーザさん』に会いたい。
会って、僕の名前を呼んで欲しい。
それに、聴きたいことがある。




人間は何でも出来ると、人間だから何でも出来ると、そう思っていた僕に衝撃を与えたあの言葉。




『リーザさん』が寂しそうな顔をしたから、思わず止めてしまったけど。
















あの時聴きそびれた答え、『リーザさん』なら分かってるから……。




管理人みっちィ〜より

茶太郎キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!

ムタ様!!!!!あなた様は神様です!!!!!!!\(≧▽≦)/
いつもチャットでお世話になってるのにこんな素敵な茶太郎小説まで貰っちゃって!!
私は幸せ者です!!!
茶太郎・・・。お前はこんなこと考えてたんだね。ジーンときちゃいましたよ!!
嗚呼!こんな素敵な小説を私なんぞが貰っていいのでしょうか?(汗)

ムタ様!!本当にありがとうございます!!



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