今日も何も変化のない一日。


【Everyday】



桜塚動物病院――その診察室で桜塚星史郎は患者である動物達のカルテを整理していた。
一応病院は開けているが先程来た患者を診たのを最後に今日はもうお客さんが来る気配がない。

星史郎はふとカレンダーに目をやるとあることに気づいた。

(そういえば今日は僕が生まれた日でしたね)

しかし、それに気づいたところで星史郎にはどうでもいいことだった。
いや、どうでもいいというわけではない。
こっちの業界では自分の生まれた日とはそれなりに意味を持っている。
他人に知られれば己の弱点を教えたと同じことだ。
それでもやはり星史郎が『自分の誕生日』に心を動かされることはなかった。
他人に自分の誕生日を知られないようにしている程度である。
ゆえに星史郎は誕生日にプレゼントを貰ったことも無ければ、誕生日にケーキを食べる習慣も無い。
だがそれを星史郎は悲しいとも寂しいとも思っていない。
本当にどうでもいいことなのだ。

(もっとも、おいしいケーキは食べたいですねぇ)

今度昴流君と北都ちゃんを誘っておいしいと評判のケーキ屋さんにでも行きましょうかね。などと考えながら星史郎は入院している動物達がいる部屋のドアを開けた。

星史郎が部屋に入った瞬間その場の空気が凍りつく。
先程まで騒いでた動物達が星史郎が入って来た途端大人しくなった。
動物というものは人間などよりとても敏感な生き物だ。
彼らは自分より強いものを瞬時に理解し決して逆らおうとしない。
星史郎と会った動物は大抵騒いでいたとしても大人しくなる。

彼らは本能で解っているのだ。この男は危険だと。

星史郎は病院独特の匂いの中に微かに血の匂いを感じ、普段優しそうな笑顔をする彼とは思えないような顔で笑う。
そして血が滴っている檻の前で立ち止まる。
その檻の中では一匹の動物が小さな血の海を作って息絶えていた。

「死にましたか」

そう呟くと星史郎はいつものようにその動物を処分した。
自分の身代わりに死んだ動物に心動かされることも無く。
大量に血を流して死んでいった動物に何も感じることも無く。

これが彼の日常だ。
今日もその日常が繰り返されるだけ。
普段と何一つ変わらない。


星史郎が死んだ動物の処分を終えた時、待合室に人の気配がした。
星史郎は部屋を出てそちらの方に行く。

「星〜ちゃ〜ん♪」

大音量で星史郎を呼びながら抱きついてきたのはこの病院常連さんの双子の姉。
その後ろには双子の弟がいつものように姉の行動に少し困ったような顔をして立っていた。

「星史郎さん急にすいません」
「構いませんよ。ちょうど今日はもうお客さんもいらっしゃらないようですし」

星史郎は先程息絶えていた動物の前で見せた笑顔ではなく、いつもの人の良さそうな笑顔を北都と昴流に向けた。

「今日はどうしたんですか?確かいらっしゃる予定ではなかったと思いますが・・・」
「決まってるじゃない!!パーティーをしに来たのよ!!」

星史郎の疑問を聞いた北都はバッと星史郎から離れ、自分の腰に右手を置き左足を前に出し弟が持っていたケーキボックスを左手で掲げる。

「・・・・・・・今日は何か特別な日でしたでしょうか?」

『パーティー』と北都が持っている『ケーキボックス』を見て一瞬自分の誕生日であることがバレたのかと少し驚いた顔を見せた星史郎。
だが、彼らに本当の誕生日を告げた覚えも無ければ、彼らがわざわざ自分の誕生日を調べたとも思えないと考え直し、いつものようにポーカーフェイスで笑顔を浮かべた。

「何言ってるの!今日は11月22日!【いい夫婦】の日よ!これはもう昴流と星ちゃんの為にあるような日じゃない!祝わずしてなんとするか!」
「ああ1122で【いい夫婦】ですか。うまいこと言いますね。」

と星史郎は納得したと言わんばかりに右手の拳で左手をポンッと叩く。
そして「確かにそれは昴流君との愛を確かめるべく外せない記念日ですね〜」と思慮深く言う。

「ちょ、ちょっと二人とも何言ってるんですか!」

そんな二人のやり取りを真っ赤になりながら昴流が抗議したことは言うまでもない。

「と、まぁ半分冗談な話は置いといて、さっき昴流が京都の皇本家から帰ってきたのよ」
「そういえばここ最近はご実家の方に戻られてたんでしたね」

星史郎は数日前に聞いた話を思い出す。
より深く思い出してみると更なる疑問が浮ぶ。

「・・・あれ?お帰りは確か明後日ではなかったですか?」
「はい。でも今回は思っていたより早く仕事が終ったので」
「だから昴流お仕事お疲れ様パーティーよ♪ご馳走は無いけどこの北都ちゃんが特製ケーキを焼いてきてあげたわv」

ついでに美味しい紅茶も入れてあげましょう♪と張り切って3時のおやつの準備の取りかかかる北都。
ケーキボックスから取り出されたケーキはとても美味しそうだった。
星史郎はその北都ちゃん特製ケーキを眺めながらにっこり微笑む。

「ちょうど美味しいケーキが食べたかったところなんですよ。北都ちゃんどうもありがとうございます」

北都に礼を言った後、昴流君もお仕事お疲れ様でした。と労った。
北都がケーキと紅茶の用意を済ませると、昴流が何かを思い出し急に慌てだした。
何事かと思いそちらの方を見ると昴流が鞄から何かの箱を取り出していた。

「すいません。渡すの忘れてました!これお土産です」

お口に合うといいんですが・・・と少し不安そうな顔をして昴流は取り出した箱を星史郎に渡す。
それに対する星史郎はとても嬉しそうに微笑む。

「これはどうもお気遣いありがとうございます。あ!生八橋ですね♪僕大好きです」

笑顔の星史郎にそう言われて少し照れながら昴流は「あ、よかった」とホッと胸を撫で下ろした。

「はぁ〜い。そこ!実の姉の目の前でイチャつくんじゃい!私も混ぜなさい!」
「北都ちゃん何言ってるの!!」

北都の言葉にやっぱり真っ赤になりながら抗議する昴流。
さらにそれを茶化す北都。
それを見て楽しそうに笑う星史郎。

11月22日。
星史郎は美味しいケーキと紅茶を味わいながら賑やかな双子の姉弟と楽しい時間を過ごした。
そう、それが彼らにとって普段と何も変わらない日常の光景。
双子の姉弟にとっても。星史郎にとっても。


そして、今日も何も変化のない一日。


END



星史郎さん!!30代がけっぷち39歳のお誕生日おめでとうございますv

動物愛護の方ごめんなさい。
星史郎さん誕生日なのにこんな小説でごめんなさい。
元祖ヤオイ小説でごめんなさい(ヤマ無し。オチ無し。意味無し)
【変化のない一日】といいつつ微妙にいつもと違うよvというのを表したかったのですが・・・無理でした。
個人的には東京BABYLON時代はこんな誕生日を過ごしたのではないかと・・・(笑)
私には珍しくタイムリーでUP出来ましたねvテスト2日前ですが(爆)
北都ちゃんの特製ケーキ=バースデーケーキ。
昴流のお土産の生八橋=プレゼントみたな?(笑)

ちなみに・・・何故生八橋なのか?
それは管理人が京都=生八橋と考えてるからであります(笑)
そして私は生八橋大好きです!!皆様京都へ行ったら是非管理人へ生八橋のお土産を!!
あ、それから星史郎さんが生八橋好きかどうかなんて知りませんので(笑)

あ、それから・・・22日限定で無駄にフリーでした
(誰も欲しくねぇ〜よ)


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