PLACE


―精霊の国 スメリア。ここはその国の先端に位置するトウヴィル。

「なぁ、アークは?」
戦い続きである俺たちはトウヴィルでしばしの休息を取っていた。

ポコのやつに飯の時間だからアーク達を呼んで来て欲しいと言われ、しぶしぶここまで呼びに来てやったのに・・・。

「アーク?皆のとこにいるんじゃないの?」
エルクの疑問に対してククルは頭にクエスチョンマークをつけたような顔で答える。
いつものようにククルとイチャついてると思っていたアークはどうやら珍しくこの場にいないらしい。
いねぇ〜から来たんだよと言ってから「飯だとよ」とここへ来た目的を話した。

ここにいないとなると…母親のところか?

パレンシアタワーの1件からしばらく。
アークの母親はまだ寝込んでいる。アークが部屋に入っていく姿をたまに見る。

「あら、アークだったら村のほうに行くのを見ましたよ」
近くいた40代位の女の人が俺の質問に答える。この人はトウヴィルの住人でアークのこともガキの頃から知ってるらしい。
まぁ〜同じとこに住んでたんだから当然か。

「はぁ〜い♪んじゃ、エルクいってらっしゃ〜い♪」
すげぇ爽やかそうな笑顔で俺に手を振ってくるククル。
「…ククルお前が行けよ」
「早く来ないと全部食べちゃうからねぇ〜♪」
そう言うなり皆(飯)の元へ至極楽しいそうに駆けて行くククル。
鼻歌まで聞こえてきそうだ。

…アーク。一体お前はコイツのどこがいいんだよ。
っていうか本当に恋人か?恋人より飯選んだぞ…。

俺には将来ククルの尻に敷かれてるアイツの姿が見える。


何だかんだ言いつつ村までアークを探しに足を伸ばす。

トウヴィルの住民がエルクに開放され、村の復興が少しづつだけど進んでいる。
今日も金槌(かなづち)の音がどこからか聞こる。
しかしアークの姿は無い。

ほんとにどこ行ったんだよ。俺ははため息つかずにはいられない。
仕方ねぇから村の奴に聞いてみる。
ま、情報収集の基本だけどな。

「アーク?ククルのとこじゃないの?」
「ああ、さっき手伝ってくれたんだけどねぇ〜」
「さぁなぁ?昨日は会ったんだが…」
「アークは昔から大人しい子供でのぉ」

流石A級指名手配犯だよ…。足取りつかめねぇ…。
全く有力情報の無い証言に俺は再びため息を漏らす。
っていうかそろそろ腹減ってきやがったし。

その時エルクの服をグイグイと引っ張る者がいた。
「アークならあっちに行ったの僕見たよ」
子供が奥の方角をゆび指しながらエルクに話し掛けてる。
エルクはその子供に「サンキュ」と言って頭を撫で、子供がゆび指した方へ懸けて行った。


村外れのところにアイツはいた。
たぶん誰かの家だったんだろう。家っつうより小屋みたいな感じだけど。
屋根は吹っ飛んで跡形もねぇし、壁の部分はは無いに等しい。
穴が空きまくってる床の部分だけそこに何か建っていたことを物語ってる。
家具と思われる物はほとんど無く、割れた鏡の破片が隅っこに少し落ちている。

トウヴィルの他の家も、アンデルのヤロウにやられたらしく結構悲惨な状態だった。
だけどここの比では無い。

そんな原型を留めていないような場所にアークは立っていた。

「おい!アー……」
そこまで言ってエルクは最後まで口にするのをやめた。っというよりも出来なかった。

アークは何処か遠くを見ていた。
目線はその壊れた元建物に向いてたけど、アークの瞳には何も映っ無かった。

普段いっつもヘラヘラ笑って、全然頼りなくせに妙大人びていやがるアーク。
それが今のアークは今にも消えてしまいそうな程虚ろに見えた。
その虚ろな空気が普段彼が発しているオーラとはあまりにも違いすぎて別人のような気さえした。

「? エルク?どうしたのこんな所で」
視線を感じてアークがエルクに気づき振り向く。その瞳は普段の色に戻っていた。
「!?…あ…いや…。って、お前の方こそこんなとこで何やってんだよ」
急に声をかけられて少し焦ったが、それは一瞬であり直ぐにいつもの調子に戻って
探しちまったじゃねぇか。とアークに文句を言う。
自分を探していたということに気づいたアークが あ〜ごめん。と少しバツが悪そうに笑った。

アークは再び元建物だったモノに視線を向ける。
エルクもそれにつられて同じように視線を移す。

ここに何かあんのか?ただの家だか小屋だかの残骸にしか見えねぇけど。

そこにアークがさっき見せたような表情(かお)になるような要素があるとは思えなかった。
そんなことを考えていたのが伝わったのか、アークが苦笑する。

「ここ。俺の家だったんだ」
「…は?」
「去年まで、ここで母さんと暮らしてたんだ。…今はこんなだけど」

元自分の家を見つめならがらどこか遠くを見ているアークを、エルクは驚愕の目で見た。
それが本当なら…いや、本当なんだろうが。この家が原型もわからない状態までに酷く荒らされている理由が説明出来る。
だが、はっきり言って、たとえアンデルに荒らされてなくても、この家に住んでた人間がお世辞にも裕福に暮らしていたようには思えない。
元々トウヴィルの民家を見た時裕福な村とは思えなかったがこの家はそれ以上だ。

「お前…スメリアの王族なんじゃ…」
確かポコがそんなこと言ってたような気がする。
まぁ、王族のくせにこんな辺境の村に住んでた時点で不思議には思ってたが。
「はは、父さんがスメリアの皇太子だったなんて知ったのは1年位前だよ」
懐かしそうに、それでいて少し寂しそうにアークは話し続ける。
「子供の頃…父さんが家を出て行って、それからずっと母さんと2人で…」
今まで残骸を見てたアークの瞳が、空へと移る。

「…最初は、…父さんに会いたかっただけだったんだ」

少しの沈黙の後、アークがかろうじて聞き取れるような声で呟いた。
「…今でこそ、世界の為に戦ってるけど…。いつか、父さんに追いつきたくて…」
エルクは黙ってそれを聞いていた。
何を言えばいいのかわからなかったっと言った方が正しいかもしれない。
「結局…何も出来なかったけど…」
アークが拳を強く握っているのが見えた。

「何か残ってないかと思って来てみたんだけど、やっぱり何にも残ってなかったね」
ため息混じりで笑いながらアークがここへ来た目的を話す。
そして、元々何も無い家だったけど と呟いた。
何か残ってたら、アークは母親に渡すつもりだったのかもしれない。
未だ寝込んでる母親が、少しでも元気になるように。
「…母親…今は?」
エルクは答えが分かっていて聞いた。案の定アークは首を左右に動かした。

「俺が旅に出なければ…母さんも…トウヴィルの皆も…あんな目に合わずにすんだかもしれない」

アークの口からそんな言葉が出るとは思いもしなかったので少し驚いた。
確かにアークが――『勇者』が旅立たなければ、アークが『勇者』でなければ、
たとえ世界が破滅の道へ進んでいようが、破滅が訪れるその日までこの村は狙われることも無く平和だったかもしれない。
そんな無かった事を考えても意味が無い。それが分かっていても自分もよくそんなことを考えていた。
あるはずの無い別の未来を。


「後悔してんのか?」

俺のその問いを聞いたアークは少し目を見開いて、その後いつもみてぇにヘラヘラ笑って言った。

「まさか。
確かにこの旅で失ったモノは多いけど、旅に出たからこそ得られたモノだって沢山ある」

その後、いけしゃあしゃあと「それに旅に出たからこそエルク達にも出会えたじゃないか」と恥ずかしげも無く言いやがった。
っつーか、聞いてるこっちが馬鹿らしくなってきた。

「んじゃ何辛気くせぇ事言ってんだよ!!」
そう言ってエルクはアークの背中を蹴飛ばす。
アークが大げさに痛がり蹴られた背中をさする。
「ひどいなぁ〜。俺だってたまには感傷的になることだってあるよ」
アークが冗談とも本気ともつかないことを言い、苦笑しながらエルクを見た。

その時少し離れた所から声が聞こえた。
その声がだんだんと近づいて来る。

「アークー!!エルクー!!」
声がする方を見るとククルが少し眉をしかめながらこっちに向かってる。

「あ〜もう!2人ともこんなとこにいた!」
息を切らせながらククルが早速文句を口走る。
「エルク!!ちょっとあんたアーク呼びに行くだけでどれだけ時間かかってんのよ!!」
「あ…」
その時エルクは初めて自分はアークを呼びに来たという事を思い出した。
どうやらあれから随分時間が経っていたらしい。
「2人の分はもう皆で食べちゃったわよ〜♪」
「げ!おい何勝手に食ってんだよ!!」
「来ないのが悪いんじゃない♪」
「ああ、ご飯だったんだ。ごめん気づかなくて」
ククルとエルクの会話から現状を読み取る。
しかしその言葉はご飯のことでうな垂れてるエルクに届くことは無かった。

「うわぁ!アークなんかの話聞いてたせいで俺の飯がー!!!!」
「………」
「今ならまだ少しくらい残ってるんじゃないかしら?」
それを聞くなりエルクは顔を輝かせた。
「おし!アーク!お前まだここでククルとイチャついてろ!その間に俺がお前の分を食っててやる!」
言うなりエルクは猛スピードで神殿の方に向かう。

アークとククルに気を利かせたのか、それとも本気でご飯のことしか頭に無かったのか、それはエルク本人にしかわからない。





走り出して間も無く姿が見えない程遠くに行っているエルクを見てアークは笑いながら言った。
「エルクに全部食べられる前に俺達も戻ろうか」
それを聞いてククルもクスッと笑い「そうね」と答えた。
『もう全部食べた』と言っても実際にはちゃんと残っていることをアークは知ってる。
もしかしたら、エルクが宣言通りに自分の分まで食べ尽くしてるかもしれないが。

「エルクと何話してたの?」
不意にククルがアークの顔を覗き込む。
だがアークはにっこりと笑い、
「ひみつ」
と答えた。
「なにそれ〜」
ククルは少し頬を膨らませてアークを睨む。
それでもアークは笑って誤魔化す。



 『後悔してんのか?』

アークの中で、さきほどのエルクが再び問いかける。


――後悔なんてするはずないよ。


アークはそう考え、隣でまだ文句を言ってる恋人の顔を見る。


――ククル。 何より、君に出会うことが出来たのだから。



   END




はい!久々のアーク話です!!
エルク主役と見せかけ結局はアーククなオチです(爆)結局バカップル(笑)
エルクが食い意地張ってるのはきっと某ギャグマンガの名残…。
何気にこのネタはサイト開設前から頭にあったものです。←だったらもっと早く書けよ。
アークをエルクが迎えに行くかククルが迎えに行くかで悩みました。結局2人共迎えにこさせましたけど(笑)
アーク2でアークの家ってどうなってるんだろう?って疑問から生まれたストーリー。
ってか本当にアークの家ってどうなってんの?いや、1で壊れたからその残骸が残ってるのか知りたいんだよ。

…はっきり言ってアークが元自分の家で黄昏てる姿を書きたかっただけです(笑)


BACK