]ドラマ 【バレンタイン小説】



司狼神威16歳。
所属事務所 芸能界最大手の【ClampCab】(通称CC)
出身は沖縄だが、1年ほど前に現所属事務所の社長が修学旅行で沖縄に来た際にスカウトされ、無理やり上京させられた。
1年程徹底的に俳優業の勉強をさせられ、只今デビュー作である【]】の撮影中。
目下売り出し中の新人俳優であった。


さてさて、季節は2月。
乙女の3大イベントの1つ、バレンタインが間近に迫ったある日。
司狼神威は休憩室で頭を抱えて悩んでいた。

「もうすぐ・・・バレンタイン・・・」

そう呟いた神威は目を閉じ、腕を組み、真剣に考え事をしていた。

一応言っておくが、『今年のバレンタインは何個貰えるかな』等と考えてるわけではない。
そもそも、顔は良すぎる位良い神威だ。演技がどうあれ毎年チョコくらい大量に貰っている。

では、神威は何故悩んでいるのか?
貰う事を悩んでいないのであれば、その理由はただ一つしかあるまい。

「やっぱりチョコは露骨過ぎるよな・・・」

彼の目の前には雑誌のバレンタイン特集ページがあった。


しかし、皆さん。誤解しないで頂きたい。
バレンタインには『女性から男性へ愛の告白する』という意味のほかに、『日頃お世話になってる人に感謝を込めてお菓子等(正確にはカードや花)を贈る』という1面も持っているのだ。

神威は今現在、話題作【]】の主役を演じている。
だが、主役と言ってもこれがデビュー作である彼には実績は全く無い。
しかも、同じブラウン管に映るメンバーはかなりのオールスター。
何より、この【]】の監督している妹乃山残は今を時めく名監督だ。この業界では全ての仕事を断ってでも彼の元で演技したい!と言わせるほどの人物。
そんな大物監督直々に主役を指名してもらえたことは心の底から嬉しいのだが、如何せん神威は<新人>なのだ。
幸いNGはあまり出していないが、テストの時点でで何度もやり直しさせられることが少なくない。
そんな神威に皆嫌な顔せず付き合ってくれている。
そんな皆の優しさを有難くも思うのだが、はっきり言って肩身が狭い

そこで思いついたのが『バレンタイン』である。
日頃迷惑をかけてる分、精一杯ポイント稼ぎ感謝の気持ちを伝えようというわけだ。


だがここで問題が生じた。

(・・・何をあげればいいんだ?)

そう!神威が悩んでいたのは『何を』プレゼントするかなのだ!

本来日本のバレンタインと言えば某お菓子メーカーの陰謀で『チョコレート』を送るのが常になっている。
現に小鳥と譲刃が13日に一緒に北都に作り方を教わりながら、チョコを作って皆に差し入れしようという計画を練っていたのを神威は知っている。
ならば、それに神威も便乗して共にチョコを作ればいいのだが、好意を寄せてる少女――小鳥――と一緒にチョコレートを作るという行為ははっきり言って切ない。
それに神威にも少なからずプライドというものが存在する。
ただでさえ昔から『女みたいな顔』と言われ続けてきたのだ――まぁ〜お陰で芸能界に入れたのはいいが――、さすがに女の子っぽいことをするのは気が引ける。
お菓子作り=女の子 というつもりは無いが、やはりどこか偏見が入ってしまうのは致し方無い。


最も、そんなことを気にするまでも無くプロ顔負けのチョコレートを作ってくる男がこのドラマ関係者には3人いる。


一人は監督の助手、伊集院玲助監督。
この人は何故そちらの道に進まなかったのだと疑いたくなる程の腕の持ち主だ。
普段何気なく差し入れを作って皆にご馳走している。

――それが美味しいのなんのって!!

一部から、残監督の作品になら全ての仕事を断ってでも彼の元で演技したい!と言わせる原因も、このオプションがあるからだとさえ言われている程だ。
もう一人の監督の助手である鷹村蘇芳助監督も、本来甘いものは苦手であるにも関わらず、玲助監督のお菓子だけは美味しいと言いながら口へ運ぶ。


もう一人は大阪から出て来た芸人有栖川空汰。
気さくに誰にでも声をかけるお気楽人間。
神威にも何度か緊張をほぐしてくれたり、演技の指導をしてくれたりと、とてもお節介親切にしてくれる。

そんな彼は以前顔合わせの時、一目惚れした!!と宣言してそれ以来嵐にストーカー行為アプローチしている。

今度のバレンタインも「まっとってなぁ〜♪マイスイートハニーvvバレンタインにはわいが愛情たっぷりのチョコレートをハニーの為に作ってくるさかい♪」と本人の目の前で大声で言っていた。――即答で「いりません」と断られていたが。

何気に物事を器用にこなす空汰はお菓子作り――というか料理――もお手の物で、以前クッキーを作って嵐にプレゼントしようとして持ってきた。
が、当の本人が別の仕事で1週間海外に行っていた為その作戦は失敗に終わり、かくして【空ちゃんの愛情たっぷりラブラブクッキー】(空汰命名)は他の役者達のお腹の中へと消えていった。

密かに、今度のバレンタインに嵐から振られてまた空汰の作ったお菓子がこっちに回ってくればいいなぁ〜等と思ってる者も少なくない。


最後に謎多き大人気俳優、桜塚星史郎。
彼の経歴は謎に包まれている。有名になったのは確か彼が16歳位の頃だが、それ以前のデビュー作や学歴、出身地等は一切不明。
彼の秘密を探ろうとしたパパラッチ達が次々と不幸な目にあったらしいという伝説(?)も残る。
一説では彼は地球外生物、又は人類を超越した存在超人、超能力者、霊能者等ではないかと囁かれるほどだ。

そしてスタッフの間で囁かれている別名は『スタッフ泣かせの黒皇帝』だ。
『彼を怒らせたが最後命の保障は無い』『彼にだけは何があっても逆らうな』が彼に関わる者の合言葉。
普段にっこりと笑顔を絶やさない星史郎だが、その目は笑っていないとはよくある話だ。
以前彼を怒らせたスタッフがその後どうなったかは誰も知らない

そんな彼の趣味のひとつは美味しい物巡りだ。特に甘いものには目が無い。
故によく自分でも作って日々研究をしている・・・・らしい(昴流&北都談)
美味しい物巡りをしてるせいかかなり星史郎はグルメで、作るお菓子も絶品だとか(昴流&北都談)

だが、神威は星史郎特製のお菓子を口にしたことは無い。
そもそも星史郎は基本的に昴流とその姉北都の為にしかお菓子を作ってこない
よって――ごく一部を除き――滅多に食べられるものではないのだ。
しかし、よく「今日は愛する昴流君と将来お義姉さんになる北都ちゃんの為にアプフェル・シュトルーデル※を焼いてきましたv」等と言ってるのを見かけるし、その時ちらりと見えるお菓子はどれも美味しそうだ。

最も、星史郎が作ったと思うと食べるのを躊躇してしまうが・・・

きっとバレンタインもあの星史郎のことだ、昴流と北都へとびきり美味しいお菓子を作ってくるのだろう。



「・・・昴流も何であんなのといつも一緒にいるんだか」

はっきり言って神威と星史郎の仲はお世辞にも良いとは言えなかった。

神威にとって今回バレンタインで1番感謝を表したいのは昴流だった。
昔から憧れていた俳優であり、実は所属事務所も同じなのだが相手は大物と言われてる人気俳優。あまり気安く声をかけられる相手ではない。
顔合わせの時が初めての会話だったのだが、昴流は「僕も君くらいの歳に残監督の作品でデビューいたんだ」とひよっこの新米俳優の自分に優しく声をかけてくれた。
撮影中も緊張している神威に何度もアドバイスをしてくれ、セリフ合わせにも何度も付き合って貰った。

今現在神威にとって昴流は兄のような存在となっていた。


けれど、昴流と神威には大きな、
とてつもなく大きな壁が存在する。

昴流に近づこうとすれば――その大きな壁に無理やり離れさせられ。
昴流に話しかけようとすれば――その大きな壁に声を遮断され。
昴流を賞賛の眼差しで瞳に映すだけで――その大きな壁が視界を遮る。

その壁の名は『桜塚星史郎』


昴流が星史郎の『お気に入り』ということは有名な話。
以前昴流を困らせたスタッフがその後どうなったか(以下略)


本当ならばもっと昴流の近くで演技を磨きたいのだが、
神威だって命は惜しい


こんなに皆――特にスタッフ――から恐れられてるのに関わらず、昴流は星史郎を慕っている。
デビュー当時共演者であった星史郎が色々相談に乗ってくれたのだと昴流は言っていた。

――あの星史郎が相談!?

神威も、周りにいて聞き耳を立てていた関係者も自分の耳を疑った。
一部の心がピュア(笑)な人間は『あの黒皇帝にもそんな優しいところがあったのか』と思った。
が、大半の人間は頭に『源氏物語』という古典文学を浮かべたと言う



兎にも角にも、あの黒皇帝を何とかしなければ昴流に近づくことは出来ない。
昴流の双子の姉の北都は状況を理解しているはずなのに面白がって傍観しているだけなので、協力は期待出来そうに無い。


しかしここで諦めるわけにはいかない!
一刻も早くあの『星史郎』という名の魔の手から、尊敬する昴流を助け出さなければ!――主旨変わってるぞ――。

「打倒黒皇帝星史郎だ!!」

神威は おし!と両手に握り拳を作って気合を入れた。

そして再び最初の問題――『何を』渡すか――を考え始めた。

手作りお菓子系はムリだ。他の皆も作ってくるし、神威は料理ならまだしもお菓子は作ったことが無い。
かといって本場のバレンタインのように花を贈っても微妙だ。手紙は論外。
昴流だけに渡すわけではなく、他の役者達にも配れるものがいいだろう。
やはり何か手軽な食べ物系が無難だろうか。と思い始めた時、神威の思考を一瞬で吹き飛ばす出来事が起こった






僕って『黒皇帝』なんてあだ名が付いてるんですか?初めて知りましたよ〜(にっこり)」






――バレンタイン当日に神威が小鳥達からチョコを貰えたか、昴流に感謝の気持ちを伝えることが出来たのかは皆さんのご想像にお任せしよう。


そもそもあの後、神威が無事に生きて帰って来れたかなんて知る人物は誰もいないのですから・・・




END



                           ※アプフェル・シュトルーデル=りんごの焼き菓子。
                            PAPUWA4巻でシンタロウが作ってました(爆)

〜コメント〜

ま、間に合った・・・。
何でこんな長くなってしまったんでしょう(滝汗)
ぶっちゃけ考えてた展開と違うし(爆)っていうか自分は一体何が書きたかったんだ?
そもそもバレンタインネタなのに当日の話無しかよ!?いっそのことバレンタインでなくてもよかった気がする(笑)
まぁ〜小ネタだからこんなんでいいか(マテ)
個人的には神威VS星史郎が書けたんで満足(笑)
何気に気に入ってるのは神威(あと昴流他)の所属事務所の名前(笑)

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