[綴化―セッカー石化]     平尾 博
SHIFT さんから書き込みQ&A (4月26日の掲示板から転記)
 はじめまして。「NHK出版 サボテンと多肉植物 ポケット事典」を持っているのですが、実は以前から疑問に思っていることがあって、教えて頂きたく書き込みいたします。「綴化」と書いて「セッカ」と読むのは何故でしょうか?
 この漢字をATOKなどの仮名漢字変換を使って書いていると、どうしても疑問に思うことがあります。ATOKでは「綴」の文字は「テイ」「テツ」の音読みしかないようです。このため「セッカ」と打ち込んでも「綴化」に変換することが出来ず、いつも「テツカ」とキータイプして「綴化」の文字に変換しています。私は「テッカ」と読んでいたのですが、サボテン店などでは「セッカ」と読まれているようなので以前から疑問に思っていました。なぜそのように読んでいるのか他所のBBSでも聞いてみたことがあるのですが、明快な回答は得ることが出来ませんでした。平尾先生の書かれた「ポケット事典」には「セッカ」の文字が多数書かれているので(それがNHK 出版であったのでなおさら疑問が沸いた次第)、やはり書かれた方に聞いてみるのが一番良いかと思い、大変失礼な質問かもしれませんが、教えてください。m(_ _)m
 これは私自身が勝手に思っていることですが、植物学で言う成長点の「帯化」は「石化」ともいいます。しかし「石化」の文字はサボテン業界ではモンストローサに使ってきたため、成長点が帯状になることを、読みは「セッカ」とするけれども、文字で書くときは「綴化」を当てているのではないかと思うのですが。--- 「当て字説」 ----実際のところどうなんでしょうか?
SHIFTさんの質問に対するお答え
最初に「綴化」と書いて「セッカ」と読むのは何故か?簡単に言えば昔、'誰かがそう読んで、後の人が間違いに気づいていながら訂正しないまま、現在に至っているから'がその答えです。
 私がサボテンを始めた子供の頃から「綴化」と書いて「セッカ」と読んでいました。仰せの通り正しくは「テッカ」であって「セッカ」という読みはありません。昭和の初期に私達の先輩の書かれた文章の中にそれはちゃんと指摘してあり、サボテン界では「セッカ」と読む間違いが定着してしまったという意味の記述があります。その当時からサボテン関係の多くの人が「テッカ」が正しいのだが、ま、逆らう事もないか、という感じで「セッカ」と呼びならわして来たのです。
 1930年代、サボテン界をリードした光兆園がありました。インテリの香りのするスマートな営業家でした。その光兆園が発行していた会報で「綴化」と書いて「ツヅレカ」と読む事を提唱し、一部の業者、趣味家はこれに同調して「ツヅレカ」と言ったこともありましたが、大勢は変らず、又、長続きしませんでした。会話の中では「石化」にも通ずる「セッカ」を避けて「ツヅレカ」と言う人もいました。そして「石化」のほうを「イシカ」または「獅子化(シシカ)」という例には、現在でも時折出会います。

綴化 レブチア・マルソネリ綴化 Rebutia marsoneri f. crist
(花アルバム サボテン・誠文堂新光社)

石化=獅子化 金獅子 Cereus variabilis var.aureispinus f. monst(園芸百科・学習研究社)
 私を含めて、サボテン関係の出版物で「綴化」を語るとき"サボテン界"ではとことわって「セッカ」と呼ぶのが慣例のようになっています。言うまでもなく「綴化」は生長「点」が「線」になるもので植物学では帯化というのが正式のようです。例えば、ある用語集では、帯化(タイカ)奇形の一種、多くの場合、棒状になる、茎に見られるほか、葉柄や花などにも現われる。との説明があります。柿の枝、サツマイモのつるなど…。
 帯化と石化はイコールという説もあるようですが、御指摘のように「石化」は植物体の各所に生長点を生じてコブ状を呈するもの、サボテンで言えば岩石獅子、金獅子などで、サボテン界では「獅子化」「シシカ」という呼び名が生まれました。以上お答え申し上げます。
(写真は平尾博著書より転載)