クライメート・ゾーン   平尾 博
 初めての植物を手にしたとき、それが最低どの位の温度なら耐えられるだろうかという事が分かれば大変に助かる。

 そういう見当をつけるための指針がある。多分、園芸の本家イギリスで考えられたと思うが“各気候帯の年平均最低気温の範囲”という表である。右図の通り。(Index of Garden Plantsより引用)

 この書物で例えばHaworthiaの項を見るとZ9と記されているのでハゥオルティアは‐6.6から-1.2℃なら大丈夫という見当がつけられる。但し、これはあくまで目安で、同じ属であっても耐寒力は種ごとに違うのはご承知の通り。
<ゾーン番号表>
1 -45.5℃以下
2 -45.5〜-40.1℃
3 -40 〜-34.5℃
4 -34.4〜-28.9℃
5 -28.8〜-23.4℃
6 -23.3〜-17.8℃
7 -17.7〜-12.3℃
8 -12.2〜-6.7℃
9 -6.6〜-1.2℃
10 -1.1〜+4.4℃
11 +4.4℃以上
 私達の身近な多肉植物の属を幾つか拾って見るとGasteria、Crassula、Pachypodium、メセンのLampranthus、GlottiphyllumあたりはすべてZ9の表示である。

 グロッチフィルムの宝録などは-15℃まで耐えるとの報告もあるので個々の種、品種についてのデータは実験によるしかない。

 この表にならって日本各地のクライメート・ゾーンというのがある。飯島健太郎・近藤三雄:カラー図説“多肉植物”(ソフトサイエンス社)によればゾーン番号4〜11のうち6〜11を夫々abに分け、それぞれの地域の代表的地名を挙げている。下記の通り。

著者の自宅庭に地植えされたアガベ。横浜市栄区では越冬可能。
  ゾーン 該当地域
6a -23.3〜-20.6℃ 岩見沢、釧路
6b -20.6〜-17.8℃ 網走、留萌、札幌
7a -17.8〜-15.0℃ 函館、稚内、大館、軽井沢、高山
7b -15.0〜-12.2℃ 小樽、青森、盛岡、長野、松本
8a -12.2〜-9.4℃ 室蘭、秋田、山形、宇都宮、甲府
8b -9.4〜-6.7℃ 酒田、仙台、水戸、富士、都城
9a -6.7〜-3.9℃ 新潟、千葉、東京、横浜、岡山、高知
9b -3.9〜-1.1℃ 浜松、和歌山、下関、徳島、佐世保、鹿児島
10a -1.1〜+1.7℃ 指宿、伊豆大島
10b +1.7〜+4.4℃ 屋久島
11a +4.4〜+7.2℃ 久米島、名護
11b +7.2℃以上 宮古島、石垣島、西表島、那覇
 思い当る所もあり、意外に思う地域もありではなかろうか。冬の寒さは年によって違うから暖冬続きで油断していると、何年かに一度の寒波で手痛い目に遭うことにもなりかねない。
 上の表の9a地域に住んでいる私は裁培品の一部を戸外で作っている。過去色々試行錯誤をした結果栽培環境は次の4通りである。
<耐寒性>
 人生の大半を南関東で過ごした私にとって、竜舌蘭がそこら辺に生えている光景は別に珍しい事ではなかった。当然この植物は関東一円なら何処でも育つものと思っていた。勿論竜舌蘭の耐寒性を調べて見る気もなかった。

 ある時、北関東の人から竜舌は利根川の北では戸外では駄目と言われ、はじめて竜舌の耐寒限界に思い至ったのである。

 寒さに強いと思っている植物を戸外で育てよう考える方は自宅の最低温度、立地条件等を先ず考慮する必要がある。

 そういう時、クライメート・ゾーンの表が参考になるが、最低気温は年によって違うことを心得ておかねばならない。
 0℃以下の1℃の違いは10℃〜20℃近辺における1℃の違いより遥かに重大である。

 JR立川駅構内の単刺団扇の巨木。電車の通過に支障が無い様毎年伐採される。少なくとも35年以上は自生しているが、いつ何故植えられたかは不明。JR中央線下り電車の進行方向右側。駅構内に入ってすぐの白い建物について直立している。
 暖冬といわれる冬が何年か続いていて我々もそれに馴れてしまっているが、以前はもっと寒かった。20年位前、逗子にいた頃、竜舌、吹上などのアガベを土手に植えたことがある。北風の当る、日照も余りよくない立地条件ではあったが、竜舌はそれまで見た事もない程 の凍害を受けた。暖地の印象がある湘南の地も北関東並みの寒さに見舞われた例である。 私は裁培品を自分の立地に合わせて次の4通りに管理している。

@周年温室(フレーム)に収容
A温暖期は戸外に出し、軒下の雨の当らない所に並べる
B温暖期は戸外に出し雨ざらし状態におく
C周年戸外で雨ざらし(鉢植えと地植え)

時節柄、Cの内容を紹介しよう。
<アガベ>アトロビレンス、竜舌、黒竜舌、リーガルブルー、吹上、乱れ雪、笹吹雪、吉祥天、ダシリリオン・ロンギシムムほか1種。
<ノリナ>とっくりらん
<メセン>麗晃、照波、宝録、短剣、紫晃星 ランプランタス、デロスペルマ
<センペルビブム>全種
<セダム>日本原産キリンソウ、タイトゴメ、マンネングサ、ベンケイソウ、ツメレンゲ、イワレンゲ、薄化粧、レフレクスムほか2〜3種。
<グラプトぺタルム>朧月及びその交配種、ポーツラカ・ギリエシー
<カクタス>大丸盆ほか2種。

著者の戸外植えの植物。手前が吹上、後方にユッカが見られる。
夏越しの為。温室を出た植物達。
 概略上記の通り。アガベ各種は耐寒力は一様ではない。外観が似ていても耐寒力には差がある。最終的には1種1種テストするしかない。
 とっくりらんは寒さ厳しい年は葉先がかなり傷んだ。メセンの宝録は−15℃にも耐える由(信州の人の話)。
 センペルビブムは巻絹以下の小型種に注意。凍死はしないが縮み過ぎて回復がおくれる。キリンソウの仲間は地上部が枯れ、越冬芽で冬を過ごす。
 ポーツラカ・ギリエシーは地上部は完全に枯れ、こぼれ芽が越冬。カランコエの錦蝶の仲間も本体は寒さに弱いがこぼれ芽は越冬する。
 以上のほか、地植えは無理でも鉢植えで冬の間断水すれば越冬可能なエケベリアとかハオルチア、ガステリアも何種かある。
 リトプスやコノフィツムを戸外棚下で越冬実験したことがあるが、越冬可能な事を確かめた以外は殆どメリットがない。(小鉢だから栽培室内で何の邪魔にもならない)リトプスは相当な耐寒力がある。アメリカの報告では日輪玉系は−17℃とか。私の体験した各種は大体以上の通りである。

毎年可憐な花を咲かせるP.ギリエシー。後方は照波。
栽培中のセンペルビブム