■■■ 芽生ちゃんとプーニー・web小説 〜妖の森(あやしのもり)〜     これは彼女達の数少ない冒険の、そんな中の一つのお話…。 【登場人物紹介】 ・芽生ちゃん …このSSの主人公。本名、光神芽生(こうじん もえ)。小学5年生の11歳。代々除霊師の家系生まれの女の子。 ・プーニー  …上に同じく。芽生の式神。本当の名は光牙(コウガ)。 ・鬼     …皆さんご存知の存在。なので説明は省略。 ・妖狐のコン助…そのまんま。今回出番無し。 「それじゃ芽生ちゃん、行ってきま〜す。」 「あら、また散歩?行ってらっしゃい。」 洗濯物を干しながら、芽生がプーニーを見送る。 今日は久々に【お仕事】のなかった土曜日。 天気はこれまた暑くもなく寒くもなくと、空一面青空の気持ちの良い日だ。 こういう日に彼はよく一人で【散歩】に行く。 本来【式神】である彼は、主(あるじ)の命令以外で単独行動をする事はない。 だが、主である芽生は一切の行動を制限せず、彼には自由にさせている。 これは型に囚われる事を嫌っている、正確に言えば彼を単なる【式神】ではなく、【家族】として見ている彼女の考えからだ。 そんないつもと変わらない日が過ぎてゆくはずだった。 ところが今日は何かが違った。 「変ね、何だかとっても嫌な予感がする。」 「なんだろ、この感じ。まさかプーニーの身に何か……。」 突然言いようの無い不安が彼女を襲った。 元々歴代の中でも霊力の強い彼女は、時々予知や正夢を見る事もある。 経験上、彼女はそれを感じ取る事が出来るのだ。 そのお陰で自身が救われたり、他人を救った事もあった。 「そういえば、プーニーっていつも一人で何処へ行ってるんだろう?」 「……よし!今日はこっそり後を付けてみよう。」 まだ、彼が出かけて5分程しか経っていない。 それに彼の【霊気】を追っていけば、見つけるのは至極簡単だ。 さっそくいつもの【仕事着】に着替え、彼の後を追った。 ・・・・・・・・・・ ほどなくして、彼の姿を見つける事が出来た。 どうやらこの町の北北西の方角にある通称、【妖の森(あやしのもり)】へ向かっているようだ。 この森は昔から様々な怪奇現象が起きる事で知られている、この町では有名な場所だ。 森はかなり広く、そして森の中は昼間でも薄暗い。 在り来たりだが、当然森の中では方位磁石など役に立たない。 また【浮遊霊】などがよく見られ、更に昔は妖怪も出たというが、現在は殆どいない。 いるとすれば、妖狐の【コン助】くらいだ。 ちなみにコン助は、芽生やプーニーの友達でもある。 その他の現象として【未確認落下物】が起こる。 ある者は硬貨を、そしてある者は血塗れの肉片が空から降って来たのを見たという。 そんな訳で町の人々はよほどの事が無い限り、此処へは近寄らない。 無論、芽生達のような霊能力を持った者達でも普段は近寄る事が無い。 ・・・・・・・・・・ 彼はどんどんと奥へ進んで行く。 そして近寄ってくる浮遊霊を祓いながら芽生もその後を追った。 ……あれからどの位歩いたのだろう。 彼はある一本の大きな木の前で立ち止まった。 どうやら此処が目的地らしいが、それ以外何も無い。 しばらく様子を見ていると彼は深呼吸をし、そしてその木の後ろへ回った。 とその刹那、彼の姿が消えた。 慌てて芽生もそこへ行く。 調べて見ると、どうやら【異界】と呼ばれる場所へ繋がる入り口のようだった。 その奥に続く道は感じとしては【霊道】に似ている。 そしてその入り口には人道的に結界が張ってあるようだ。 どうやらこれは彼の仕業らしい。 さっそく結界を開け、中に入って彼を追った。 ・・・・・・・・・・ 長いトンネルのような道(?)をしばらく歩いて行くと、突然どんよりと重い霊気の漂う場所へ出た。 「何処だろう、ここは。でもどうやら【霊界】の一つのようね。やだぁ、気味悪い〜。」 そう言いながら辺りを見渡す芽生。 しかし彼の姿は何処にも無く、ただ広い空間が続いているだけだった。 「とにかく、早くプーニーを探さなくちゃ。ますますあの嫌な予感が強くなってる。」 恐怖と不安を振り払い、彼女は駆け出した。 ・・・・・・・・・・ 「グ、グォ……。」 ドサッ。 一体の【鬼】が最後の声を上げ、倒れて消えた。 そしてその傍らにはいつもとは似つかない、【変身】した姿の彼がいた。 「はぁ、はぁ。」 少し呼吸を整える。 「……これで、この辺の強い奴は片付いた。奴らはこのぼくが必ず根絶やしにしてやる。芽生ちゃんの為に……。」 実は彼、散歩と称して暇を見つけてはこうして、芽生にこっそり隠れて鬼を倒していたのだ。 すべては主である彼女のため、そして以前自分が犯してしまった大きな失敗を繰り返さない為に……。 そんな事を思っている時だった。 「!!」 ゴスッ!!! 「ギャンッ!!」 彼が悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ。 「チッ、かわしやがったか。」 なんと、他に隠れていた鬼が彼の隙をみて奇襲を掛けてきたのだ。 「ゆ、油断した。……まだもう一匹、いたのか……。」 息が絶え絶えになる。 すんでの所で攻撃の直撃は避けた為、致命傷にはならなかったものの傷は深かった。 傷口からはダラダラと、大量の血が流れ出ている。 「礼を言うぜ、【鬼殺しの式神】さんよ。」 鬼は手に持っている武器を肩に乗せながら話し続ける。 「お前の噂を聞いてから俺はこの計画を立て、お前がさっきの奴を倒すこの時をずっと待っていた。  そして後は、お前を殺せばこの俺が【霊界(ここ)】の主だ。」 プーニーが言い返す。 「……なんだ、さっき倒したのより弱い奴か。……なら、楽勝だな。」 「なんとでもほざけ。今のお前ならこの俺でも倒せる。」 そう鬼が言い返すと、お互いに臨戦態勢に入る。 「一つ聞きたい。なぜ、ここの主になろうとする?」 「他の弱い奴らを殺し、そしてその魂を食らうためさ。そして俺は更に強くなる。」 「なるほど。ただ強さを求め、本能のままに動いている愚かな奴か。」 次の瞬間、戦いが始まった。 いくら変身して本来の力を全開に出しているとはいえ、重症を負った今の状態の彼では分が悪い。 それに先程の戦闘の疲労も残っている。 攻撃を避ける度に足元がふらつき、倒れそうになる。 しかしなんとか踏ん張り、反撃に出てはみるものの、簡単に攻撃をかわされてしまう。 そんなのが幾度となく繰り返された。 しかしついに、 ドカッ!! 「ウワーッ!」 もう一撃を食らってしまい、変身も解けてしまった。 「ぅう……。」 「どうやら、終わりのようだな。」 もう体が動かない、ここまでか……。 そう思いながら、朦朧(もうろう)とした意識の中で彼が呟く。 「芽生ちゃん、ごめんなさい、約束破って。……きっとこれがその罰なんだね。」 「あばよ。」 鬼が彼を目掛けて最後の一撃を振り下ろした! 「さよなら、芽生ちゃん……。【また一人ぼっち】にしてごめんね……。」 覚悟を決め、目をつむったその時だった! ガキーンッ! 「!?」 一瞬なにが起きたのか分からなかった。 奴の攻撃が来ない、……おかしい。 いや待て、誰かが自分の前にいる。 彼はつむっていた目を、恐る恐る少し開けてみた。 「なんだ、お前は!?」 鬼が自分の攻撃を受け止めている【誰か】に問いただす。 「わたしは光神芽生。この式神の主よ!」 「芽生、ちゃん……!?」 一瞬我が目を疑う。 だがその声と容姿と霊気からして、間違いなく彼女だった。 お互い武器を交えたまま、鍔迫り合いの状態で話を続ける。 「なぜその主が、たかが式神一匹を助けようとする?所詮やつらなど、手駒に過ぎんのだろう?」 「確かに普通はそうかもしれない。でも、この子はわたしにとってかけがえのない【家族】なのよ!」 「……何を馬鹿な。」 「……馬鹿はあなたよ。」 プーニーが力を振り絞って声を出そうとしたその時、 「光牙っ!!」 突然、怒り口調で芽生が彼を呼んだ。 鬼も突然の事に少々驚く。 そして驚きながらも返事をする彼。 「はっ、はいっ!!」 久しぶりに本当の名で呼ばれた。 「あれほど鬼退治は止めなさいと言ったのに、なぜ約束を破ったの?答えなさいっ!!」 「そ、それは……。」 言葉に詰まる。 「答えなさいっ!!光牙っ!!」 これほど本気で怒っている彼女を今まで見た事がなかった。 その事に驚いているのと、薄れている意識のせいで中々言葉が出ない。 だが力を振り絞って言葉をだす。 「……す、すいません。」 彼本来の口調で答える。 「わたしは【あの時】の罪を……。」 そこまで言い掛けた所で芽生が言う。 「!!……まだ、こだわってるの?もう、あれは済んだ事よ。それにあれは、あなたのせいなんかじゃないでしょ!」 いつの間にか半泣きになっていた彼女が言い続ける。 「お願い、またわたしを一人にしようとしないで……。お願い……。あんなのはもう嫌よ……。」 その言葉を聞いて、今まで自分のしてきた事を思い返す。 そうだ、確かにこんな事をしてて自分が死んでしまっては、また彼女を悲しませてしまう。 いくら状況が【あの時】と違いにしろ……。 そう思うと、途端に怖くなった。 自分を本当に大切にしてくれる彼女を悲しませる事がどんなにいけない事か、今再び気付かされた彼だった。 「……でも、無事で良かった。」 再び優しい口調に戻って話しかける芽生。 「……芽生……ちゃん。」 それを聞いて安心する彼だった。 「……少し待っててね。今こいつを倒すからね。」 そういって彼に言葉をかける、だが今度は返事がない。 「プ、プーニー?」 返事が無いのを不審に思い、芽生は先程の体制のままなんとか横目で彼を見た。 その彼のありさまをみて驚いた。 よく見ると深い傷を負っており、そこからたくさん血が出ている。 かなり重症のようだった。 このままではまずいっ! 早くケリを付けなければ。 そう思い彼女は鬼の武器を押し払い、斬りかかっていった。 「やあぁーっ!」 「フンッ!」 激しい戦いが続く。 いくら霊力が強くてもまだ戦闘経験の少ない、ましてこんなに激しい戦闘をした事があまりない彼女とって、 これは厳しい戦いだった。 しかも唯一頼れる相方である彼は今、瀕死の状態。 ……とにかくここは自分一人でやるしかない。 機会を伺い、攻撃を繰り出す。 だが交わされ、反撃が来る。 またそれを交わす。 とにかく長期戦をしてては、彼の命が危ない。 そんな思いが、尚更焦りを生み、彼女の行動力と判断力を鈍らせる。  とにかく早くケリを……。 だがそんな時ふと、我に返る。  ……いえ、落ち着くのよ、わたし。  そう、焦ってはダメ。  まだ何か手があるはず。何か……。  そうだ!!あれを使えば! 彼女がとある事を思い付く。  でも、あれは……。  それにもし失敗したら、二人とも助からない。 一瞬ためらう。  ううん、プーニーの命が掛かってるんだもの。  一か八かそれに掛けてみるしかない。 覚悟は決まった。 そして思い付いた【それ】に望みを賭け、反撃に出る! 「このぉっ!」 「その程度か?食らえ!!」 「しまった!!」 一瞬出遅れたその隙を突かれて、反撃を受けてしまった。 しかし辛うじてその攻撃を受け止める。 「くっ!」 「そろそろ終わりにするか。」 そう言い放つ鬼。 だが、笑みを浮かべながら彼女が言った。 「……掛かったわね。」 「っ!?」 鬼がほんの少し油断するこの機会を待っていたのだ。 次の瞬間、芽生が力を込めると彼女の体が凄まじい量の霊気で包まれる。 その時、プーニーが再び目を開け、そしてその様子を見た彼はハッと思った。 「!!も、芽生ちゃん!ま、まさかあの禁じ技を使う気なの?だ、だめだよ、それは使っちゃ……。」 だがそう思っても声が出ない。 更に霊気をまとう彼女。 そしてその霊気がやがて鬼をも包み込む。 「なっ、なにぃ!?か、体が動かない……!!」 焦る鬼。 「あなたのような者は、この技で完全に消してあげる。覚悟なさいっ!!」 そして、渾身の力を込めた一撃を彼女は鬼にぶつけた! 「はあーーーっ!!……たああああぁぁあっ!!!」 物凄い量の霊気が鬼を襲う! 「があーっ!体が砕け散っていくっ!た、助けてくれ!あっ、がっ、があああああぁっ!!!」 ……断末魔を上げ、ついに鬼は消滅した。 「光神家に伝わる、禁じ手の奥義の味はどうだったかしら?この技を受けて、無事な奴なんていないのよ。」 息を荒げながら更に呟き続ける。 「もっともこの技は禁じ手だけあって、使った者はその霊力を殆ど失ってしまうんだけどね。」 霊力を失う事はただそれを失うだけでなく、自分の式神が見えなくなり、そして使役も出来なくなってしまう。 それゆえこの技は代々、禁じ手の技となっていたのだ。 そして失った霊力は二度と戻らない。 「芽生ちゃん、芽生ちゃん!!ぼくが見える?ねえ、ぼくの声が聞こえる?答えてよ……。」 泣きながらプーニーが力一杯、彼女に向かって叫ぶ。 しかし、返答がない。  まさか、やっぱり霊力が……。 そんな不安が彼をよぎった。 だがしばらくして彼女が一息ついて答えた。 「大丈夫よ、プーニー。ちゃんと聞こえてるし、ちゃんと見えてるわよ。」 そういって微笑みながら彼女が振り向く。 「えっ!ほんとうなの?ほんとに、ほんと?」 「もう、本当よっ!ほらっ!」 「わっ!」 プーニーに歩み寄り、彼を抱き抱える芽生。 「ほんとだ。でもどうして?あの技を使ったのに……。」 その時だった。 ピキッ!ピキッ!パキンッ! 「あっ!」 彼女の仕事着についていた【霊珠(レイズ)】が二つとも音を立てて割れた。 「まさか、この霊珠に貯めてある霊力を使ったの!?」 「まあね。これを使ってわたしの霊力の消耗を最小限に抑えてみたの。  とっさの思い付きでやってみたんだけど、上手くいって良かったわ♪」 少しホッとした顔でそう彼女が言う。 「……すごいや、芽生ちゃん。」 驚いた。 まさかこんな反則技、いや、方法があったなんて。 でもこういう事は霊珠というものを扱える彼女ならではの方法だ。 彼は改めて自分の主が彼女であることを誇りに、そして嬉しく思った。 「えへへ。ありがとう、プーニー。でも霊珠二つも使っちゃった。また作るのが大変ね。」 笑いながら彼女はそう言った。 彼もそれにつられて笑った。 ・・・・・・・・・・ 少しの沈黙の後、プーニーが喋りだした。 「あ、あの、芽生ちゃん。」 「ん?なあに?」 「ごめんなさい。」 「もういいわよ。今回は許してあげる。だけどもう二度とこんなことはしないって、約束してね?」 「……うん、ありがとう。」 その言葉を聞いて安心と疲れのせいか、突然眠気が彼を襲ってきた。 「……芽生ちゃん。」 「なあに?」 「ぼく、眠くなってきちゃった。このまま眠ってもいい?」 「ええ、もちろん良いわよ。ゆっくりお休みなさい。」 「……うん。」 そういうが早いか、寝息を立てて彼は眠りについた。 そして、それを優しい微笑で見つめながら、彼女達は帰路に着いた。 -- 終わり -- えー、初SSです。 なんか色々読み難かったりするかもしてませんが、最後までお読み下さりありがとうございます。m(_ _)m 改めて自分で読み返すとハズカシー! キャー! もっと国語とかの勉強しておけばよかった……。 それにしても話が重いですよね、それによくあるパターンだし。 その他もこんなのばっかりです。 まあ、明るいのもあるんですけどね。 このSSですが、彼女達の秘密とかの設定を織り交ぜながら書いてみました。 そしてお読み下さった方の中には、何となくすっきりしない部分があるなとお思いの方もいらっしゃるかと思います。 それについてはまた、SSとして気が向いた時と時間が出来た時に書いてみます。 今は【GHOSTSTREAM】なんてものがあるので、そっちでやってもいいのですが、 私自身、あまり興味もありませんし、それにこうやって文章にするより手間も掛かります。 あと、シェルの関係もありましてSTREAM化は見送りました。 また今後もそうする事はありません。 ごめんなさい。 まあ、期待している方はいないでしょうけどね。 うちのゴーストは超マイナーなので。(^^; 最後に補足。 このSSは依頼者さんの所へ来る前の話となっています。 それとSS中のプーニーの怪我の事ですが、芽生が側に来てくれたお陰で、すごい勢いで回復してます。(^^; どういう事かと言うと、 ・彼ら式神は、常に主からの霊波動を受けていないと、自分の霊力が無くなっていく。 ・霊力が無くなっても死ぬ事は無いが、動けなくなり、怪我をした場合それが治り難くなる、と色々不都合が起きる。  という設定になっています。 本当はこういうのを文中に入れたかったのですが、ムリでした。 ま、所詮わたしの実力はこんなものですから……。_| ̄|○ ちなみに設定の一部は某除霊師の漫画からのパク(ry。 とにかく改めて最後までお読み下さり、ありがとうございました。 それでは、また。 2005年2月24日 唯原陽幸