路地裏を男が走っていた。
大柄で甘いマスクをしたハンサムな男だ。
筋肉も引き締まっている。
彼が走るたびに足元のヘドロが跳ねて汚れた壁に降りかかる。
走る男に驚いてネズミや虫が物陰に散った。
ネズミは目玉と人間の指が混ざったような姿で虫は体の半分が機械だった。
路地の隅には錆びて泥の浮いたガラクタが転がっている。
男がガラクタを追い越すのとおなじくらいのタイミングでガラクタがバラバラになる。
壁にも矢や火の玉がぶつかり、破片が飛び散った。
壁に生えていた触手ともツタともつかないものがもだえ苦しむ。
攻撃は空から来ていた。
空を見ると煤けたインクのような色の電線が張り巡らされている。
粘液がしたたり落ちる電線の上に馬車が飛んでいた。
青い鬼火を纏って蹄の音を鳴り響かせている。
馬車に乗った女はサディスティックな高笑いをしながら攻撃をしてきていた。
通り雨のような激しい攻撃だ。
「地獄のクイーンから逃げられると思ってるのかァ!?
走れ走れェ!五体バラバラにブチまいてやるわ!!」
女の大声に男は苦笑する。
「まいったなぁ。これじゃ死んでしまうかもしれないじゃないか」
空飛ぶ馬車から雷が落ちてきた。
男のすぐ側だ。男は転んで避けた。
目の前には廃墟の扉がある。
扉のガラスは埃と垢で曇っていた。
男は煤けた扉に手を置いた。
男の手から粘土に似たものがにじみ出てくる。
男が手を離して一歩下がると扉についた粘土は爆発した。
男は扉の残骸を乗り越えて廃墟の中に入った。
廃屋の壁はビーム光や火矢にやられて崩れていく。
男は廃墟の置くに逃げ込み誇り塗れのカウンターに座るとケータイをかけた。
「あ、もしもし小島ピンチクラッシャーズ探偵所?助けてくれません?」


第二名神高速道路をランドクルーザーが走る。
空は暗く、時折鬼火が遠くで光る。
ランクルの中には二人の男が乗っていた。
皮ジャンを着たゴロツキ風の男とスーツを着た背の高い男だった。
皮ジャンの男がハンドルを回しながら言う。
「いいか?今回の依頼の確認をするぜ。黒はすぐ忘れちまうからな。
まあどうでもいいこったが」
「いやあ、なにしろ漠然と生きておりますのでね。今日の仕事は楽しそうな物なら良いのですが」
黒と言われた男は黒瀬だ。サラリーマンのようなさわやかな感じだが
心の中に小島より大きな闇を抱えている。
彼は人を殺さざるを得ない。
性的不能だとか性癖ではないのだ。純粋に病気である。
第一彼の殺人哲学では性欲のために殺人をしてもならないし、男女のえり好みもしてもならない。
ただなんでもいいから殺したい。そういう欲求が昔からある。
だから小島のような悪党とコンビを組んでいる。そう言う男だった。
「まあそう悪かぁないな。なかなか派手な奴だ。
かいつまんで言やぁな、産業スパイの後藤ってえのがドジ踏んじまったんだ。
そいつの見た企業秘密の記憶を記憶屋で抜いてバラまいちまったら後ぁ後藤をにがしゃあいい」
ランドクルーザーの横を100キロババアが追い抜いていく。
「ふむ、妙ですな。スパイの方ならば雇い主の方に保護を求めれば良いのではありませんかねぇ」
「そこが間抜けなんだがな、後藤を雇ってた会社が一昨日潰れちまったんだよ。
で、これまた見ちまったもんが狙ってたもんよりやばい代物らしい。
だから記憶を抜いちまって交渉なりなんなりしてえんだとよ」
高速道路のオレンジ色の街灯がゆっくりと後ろに飛んでいく。
黒い空にオレンジ色の光はとてもよく映えた。
「なるほど。そうなるとそれはもうそれなりの刺客の方が来るわけですねぇ。
私はそれを止めればよろしいわけですな」
黒瀬が血に飢えた笑顔を作る。
「そういうこった。依頼人が死なねえうちに飛ばすぞ!!」
ランドクルーザーが加速する。

後藤は比較的頑丈な鉄工所に避難していた。
外からは刺客の高笑いが聞こえる。
彼女は強力な刺客だった。名前は中山美由紀。
魔女とかアマゾネスとか地獄の女王とか呼ばれてる女だ。
数々の魔物を使役する凄腕の女戦士。

大きな雷が落ちて鉄工所の屋根が壊れる。
「あはははははチュコマカ逃げおってぇ!!
楽に死ねると思うなよぉおお!?」
屋根の破れ目からプテラノドンににた鳥に乗った美由紀が乗り込んでくる。
彼女は大剣を振りかざしながら後藤に襲い掛かってきた。
「まいったなぁ。これは、大ピンチってやつなんだな。わはは、困った」
彼女の剣が後藤の首をはねる寸前ミカン大の爆弾粘土を後藤が投げつける。
後藤の出した爆弾は彼女の剣に当たり剣を砕け散らせた。
剣の破片が飛んでくる。
美由紀は別の魔物を盾にして防御した。
後藤は足裏で爆発させる。足裏の爆弾はブースターと同じ効果があるのだ。
後藤はそのまま勢いをつけて後ろに飛びのく。
「いやあ、危ない危ない。首を跳ねられたら生きていけないもんね」
後藤はゆっくりと後ろに下がっていく。軽口を叩きながらだが彼はかなり疲れていた。
「よくもやってくれたな。この剣高かったんだぞコラァ!!やっておしまい!」
後藤の周りに魔方陣が浮き出て魔物が出てくる。
小さい恐竜のようなもの、骸骨のようなものなどかなり数が多かった。
後藤が息切れしている。
「いやー、参ったな。これはもう駄目かも」
後藤が爆弾を手に構えた。
魔物がゆっくりと迫ってくる。

その時轟音を立てて鉄工所の壁が崩れた。
壁を突き破って現れたのは小島のランクルだった。
「よお悪ぃな。待たせちまったか?」
小島と黒瀬が車から飛び出る。
「遅いですよ探偵さん。死ぬところだったじゃないですかナハハハハ」
小島と黒瀬が後藤を守るために囲む。
「いやあすいませんねえ。なにしろタカツキには来た事がないのですよ」
黒瀬は背中の鞘から脇差を抜き放った。
両手に持って腕慣らしに軽く振る。
「チッ小物が…全員叩き潰して良し!!」
美由紀が叫んだ。
小島はトカレフとショットガンを構えた。
「OK、ショウタイムだ!!」

三人の周りには数十の骸骨とトカゲに似た四つんばいの魔物、子牛ほどもある蜘蛛が取り囲む。
トカゲが高い声で吼えた。
爪を振り回して飛び掛ってくる。
小島はショットガンを振り回すとトカゲを殴り倒す。
さらにトカゲにスラグ弾を二発打ち込んだ。
それをきっかけにトカゲが何匹か小島に飛び掛った。
また30cmほどの蜘蛛が這って来る。
時折毒液を噴出して汚い床を溶かした。
小島はトカレフでトカゲの頭を打ち抜く。
トカゲは全て正確に急所を打ち抜かれていた。
倒れるトカゲを踏みつけて小島はジャンプする。
空中でトカレフをリロードすると素早く蜘蛛を撃ち殺した。
着地して死にかけのトカゲの頭と心臓に9mmパラベラムを打ち込む。
踏み台にされマットレスにされて銃弾を打ち込まれてトカゲは死んだ。
死んだトカゲを盾にした小島は背中からマシンガンを取り出す。
トンプソンM1A1。往年の名銃だ。
小島は魔物を避け、トカゲを盾にしながら
マシンガンで弾をばら撒いた。
魔物は足元に撃たれる弾丸に怯む。
中には足を打たれて動けないものもいた。
「ヒャハー!タノチィー!!タノチー!!」
黒瀬は奇声を上げながら脇差を振り回す。
骸骨が斧や剣を振り回して襲い掛かってくる。
黒瀬はそれを軽々と舞うように避けると素早く近づき首を次々に切り落としていった。
蜘蛛が黒瀬の後ろに回り込んで蟷螂に似た腕を振り上げる。
それをかすめ見た小島がショットガンを撃つ。
蜘蛛の鎌は両手とも根元から吹き飛ばされた。
「のぼせ過ぎんなよ相棒」
身軽に魔物から距離を開けながら応戦する小島が言った。
「いやあ、助かりますなぁ。つい興奮するのは私の悪い癖でわーいタノチィー!!」
鎌を失った蜘蛛が毒液を吐き出す。
黒瀬はジャンプしてそれを避けた。
黒瀬は蜘蛛の背中に着地すると蜘蛛の首を切り落とし背中を滅多刺しにした。
黒瀬は蜘蛛の心臓を抉り出すと骸骨の頭に投げつける。
骸骨は頭を砕かれてふらふらしているところを後藤に爆破される。
「くそー疲れてきたぞ。すこしやすませてくれないかな」
後藤は足を爆発させて天井まで飛び上がった。
彼は鉄骨の上で休みながら魔物に爆弾を投げつける。
やがて黒瀬は骸骨の最期の一体の首を落とした。
小島がその骸骨の間接を銃弾で砕き、後藤が爆破して完全に粉々になった。
「ハン、たいしたショーだったぜ。なかなか楽しめたな。
次は主役の出番か?それともこれで閉幕だってのか?」
小島が美由紀にトカレフをつきつける。
「この役立たず共め…この借りは近いうちに必ず返してやるわ!
1000倍返しでな!」
美由紀は馬車に乗る。
馬車は空高く飛んでいき、やがて見えなくなった。
「ふうむ、1000倍ですか。それは食べがいがありそうですな」
黒瀬は脇差の血を振って刀を納める。

「そいじゃあ行くぜ。ネタとやらを使わなきゃならねえんだろ?」
小島が車のドアを開けた。
小島は後藤に手招きする。
「いやー助かりましたよ。強いんだねぇわははは」
3人が車に乗るとランクルはライトをつけて走り出す。
夜の街にテールランプが赤く光っていた。

チンピラ3人を乗せたランクルが名神高速を走っていく。
周りを走る車はいない、深夜だからだろうか。
真っ暗な闇をライトが照らしていく。
「ああ、ったく骨が折れたぜ。弾代がえれえことになっちまったな。
まあいつものこったが、あんた、金ぇ持ってんのか?」
小島がタバコに火をつける。
煙草の先が赤く光った、ぼんやりとした光だ。
ゆっくりと煙が漂う。
「いやー、それを言われると弱い。貯金をはたいても30万あるかわからないんですよ」
後藤は傷の手当てをしている。
彼は大方回復してきていた。妄念師のはしくれなのだ、そのくらいはできる。
「まあそんだけありゃあ、9パラの金にゃああるな。まあ有り金全部出せたぁ言わねえ。
そのネタとやらで交渉しちゃあどうだ?金は俺らに回して、手前はタイなりハワイなりいきゃあいい。
ほとぼりが冷めるまでな」
ランクルはトンネルに入る。
管のような形をしたトンネルだ。
所々にある照明は鯨の目玉に似ている。
「そうですな。それほど拘るのでしょうから相手は大企業の方なのでしょうし。
他の同業の方に保護を求めてはいかがしょう」
黒瀬はハムをかじっていた。
暴れると体力を使うのだ。
「いやーははは。なんだか全部きまっちゃって悪いなぁ。あ、行き先はサンノミヤ地下の25番街ね」
後藤はジュースを飲んでいる。
もうすぐトンネル出口だ。
「ハッんなもん一度言やあ解るってもんだ。あの女が来ねえうちに飛ばすぞ!」
トンネルを抜けた。空はやや青みががかっていた。
星が銀色に輝いている。
「いやあ、それがですねぇ、もう来ておられのようですよ」

「地獄の女王から逃げられると思うなよォオオオオオオ!!
この美由紀の辞書に敗北の項は無いわぁ!!」
名神高速の横に空飛ぶ馬車が走っていた。
馬は青い鬼火を纏って馬車は刺や髑髏の模様を輝かせている。
「チッこりねえ姉ちゃんだ。だがこういうなぁ嫌いじゃねえぜ!!」
小島は運転を黒瀬に任せて後部座席に移動した。
「後藤さん、あんたそこにあるバカでかいライフルもってきてくれ」
後藤は収納部分に一杯積み込まれた銃器の中を探す。
後藤が持ってきたのは1,5mほどある筒のようなマシンガンだった。
「これですかね?こりゃでっかいや。なははは」
ブローニングM2重機関銃。50口径のライフル弾を打ち出す最大級のマシンガンだ。
小島は天窓を開けた。
美由紀に向かってM2機関銃を構える。
「来な!地獄の女王が!」
美由紀は馬車の天上に立っている。
仁王立ちで立つ彼女は赤い瓶を取り出した。
中身は血と魔術用具だ。
彼女がそれを叩き割ると中から怪鳥が飛び出した。
1、5m前後ほどの大きさをしている。真っ赤な血でできた鳥だ。
五体の怪鳥はそれぞれ鷹や蝙蝠の形を模している。
怪鳥たちは美由紀に魔力を与えられて次々と分裂していった。
「ふむ、第二ラウンド開始ですな」
道路は白い石造りのものにかわっていく。
まるで西洋の武勇伝のような姿だった。
「いくぞコラァ!!」
怪鳥が一斉に飛び掛る。
「ハン、まずいエサの時間だぜ!!」
小島が機関銃で弾をバラまく。
小島の前にいた怪鳥たちは銃弾を受けてはじけ飛んだ。
「いやあ、僕もやっといたほうがいいのかな?」
後藤が鳥と馬車に爆弾を投げていく。
「そんなチャチなものでふせげると思ってるのか?今度は私もいるんだぞ!!」
美由紀か魔法を唱える。
見る間に彼女の周りに雷と炎が集まっていった。
「消し炭になるがいい!!」
何度も雷と炎が打ち込まれる。
黒瀬は巧みな運転で避けて行った。
「ふうむ、これはまずいですねぇ、あの魔物だけでもなんとかなりませんか」
「ハッ。俺を誰だと思ってやがるんだ?あの女にゃあ及ばねえが、俺もデビルサマナーだ!」
小島は皮ジャンから木の札を二枚取り出した。
小島が呪文を唱える。
札からは魔物が沢山出てくる。
雷を纏った金色のイタチと空飛ぶザリガニだ。
イタチは雷を操り、ザリガニの鋏は素晴らしい切れ味をもっている。
「行きな!」
ランクルの窓から小島の使い魔が飛び出していった。
魔物たちは激しく戦う。
怪鳥は小島たちに構う余裕がなくなっていた。
イタチは怪鳥を黒コゲにし、ザリガニは怪鳥を切り裂きながらかじり付く。
怪鳥は小島の魔物を生きたまま丸呑みにしていた。
「おのれ、やるじゃないかどピンチラめ!だが私は絶対に負けるわけにはいかないのよ!
女王だからな!!」
激しい雷がランクルを直撃した。
「ハハハハ!!口先だけのチンピラめ!見たかァ!!ははは…何ぃ!?」
雷を受けたランクルは煙となって消え、もう一台ランクルがあった。
雷を受けたのは小島が使い間で作り出した偽者だったのだ。
「こいつで、デッドエンドだ!!」
ランクルの天窓から小島がロケットランチャーを構えいる。
「バカな!こんなバカなァああああ!!絶対に次は…うおおおおっ」
RPG7のロケット弾が火を噴いて飛んでいき、馬車ごと美由紀を粉砕した。
馬車は炎を上げながら墜落していく。
小島は席にもどると煙草に火をつけた。
美味しそうに吸ってゆっくりと煙を吐く。
「たいした女だったぜ。クイーン」
ハンドルを握る黒瀬がため息を吐く。
「いやあヒヤヒヤしましたよ。タイヤが擦り切れてしまいましたな」
黒瀬が手首を揉み解す。
かなり集中して運転していたのだ。
「んじゃ急ぎましょ。皆さんやっぱり強いなぁ」
後藤が暢気に残りのジュースを飲む。
「手前がやる気ねえだけだ」
小島が煙を吐く
「ありゃ、よく言われるんですよそれ」
ランクルは夜の高速道路を走っていく。もう夜明けだ。

小島たちは夜明けのサンノミヤ地下街にたどり着いた。
地下街は妖しい身なりをした人々で賑わっている。
サンノミヤ地下街は入り口はガードレール下にある。
しかしその先は延々と地下へと潜っている。
1番街から37番街まであって全長数キロ。
別の地下街にもつながっている場所もある。
奥に行けば行くほどディープな非合法品が売っている現代のクーロンだ。
25番街に足を踏み入れるとそこはアジアだった。
お香の煙が立ちこめ、店先には妖しい雑貨があふれていた。
路上には菓子売りが商売をしている。
ござをひいてその上に商品を載せて声を張り上げていた。
その横では老人が集まっている。
皆のんびりと茶を飲んでいる。
和やかなに雑談をしていた。
足元は黒ずんだコンクリート。
汚水やヘドロで湿気ている。
「ああ。ったくここぁ全然変わっちゃいねえな。リンじいさん、元気かい?」
色落ちした椅子に老人が座っていた。
「おう、小島坊。相変わらずやんちゃじゃのう」
老人が応じる。猿のような小柄な老人だった。
「そこそこな。じいさんも耄碌すんじゃねえぞ」
小島が手を振って別れる。
「ところでこの辺ではありませんでしたかねぇ。彼のお店は」
黒瀬が天井を這いまわる配管を見ながら歩く。
「そうそう、このへんの団子がおいしい辺りでしたよ。あ、皆さんもどーぞ」
後藤がゴマ団子を配った。
目の前にはピンクのネオンサインが点滅する派手な店があった。
ドアも真っ赤な革張りでまるでヌードバーのようだ。
「ああ、ここだぜ。ったくあいつと会うなぁ疲れんだよな」
トリックスターと書かれた店のドアを開ける。
真っ白な壁をした広い店だった。
「おいピエロ野郎。いねえのか?手前のかくれんぼに付き合ってる暇なんざぁ無えんだ。
早く出て来い、ハーレー!!」
小島が壁を叩く。雪のように白い壁だ。
「ハァーイヤッホー小島ちゃん。そんなに慌てちゃベッドで嫌われるぜボーイ!」
天井に男が張り付いていた。
今店の主ハーレーだった。
鳥のくちばしのような鉤鼻の仮面をしている。
「ふむ、すいませんがそこから下りていただくと助かるのですが」
黒瀬が白黒模様の床を歩きながら彼に近づく。
「ハイハイ今おりますよ殺し屋ちゃん。今日は何人ヤッちゃった?
その短くてぶっといポン刀でクザクザクザク♪」
道化姿の男は壁を歩いていく。
床に下りると卑猥な仕草で踊った。
「アレ?その筋肉メンはどこのどなた?
お客さんならチョーお勉強しちゃうよ?
こういうところは初めて?」
ハーレーはのけぞって下卑た大笑いする。
小島がそれをさえぎると
簡潔にハーレーに事情を説明する。
ハーレーが途中途中で茶々を入れるのでかなり時間がかかった。
「いやー、なんかすごいんですねえ。で、ここ記憶屋だってきいたんだけど具体的にどうするの?」
後藤が店を見回す。
「ハイいい質問!ここはね、俺様ちゃんの能力JOKERで記憶を抜いたり出したりハハハン♪な場所なわけ。解る!?最も出し入れできるのは記憶だけじゃないけどね!」
ハーレーが道化服の中からトランプを出す。
真っ赤なロングコートのような道化服だった。
ハーレーはトランプを放り投げと
トランプがはじけて中からダッチワイフが飛び出した。
「こういうこと!おっとこれはあとでしまっとくからね!大事な大事な夜の相棒だからさ!
じゃあここの椅子にすわってよ!ダイジョーブ!悪い様にはしないからさ!ハーレー信用して!」
ハーレーがトランプを投げた。
今度は白い寝椅子が飛び出た。
「はいはいわかりましたよハーレーさん。こうでいいのかなあ?」
後藤が寝椅子に座る。
「そうイイ感じ!最高!…で!アン・ドウ・トロワ!はい出来上がり!」
ハーレーが後藤の頭を撫でる。
ハーレーの手には新しいトランプがあった。
後藤の見た記憶に関する絵柄が書いてある。
「オーケーご苦労さん、相変わらずいい仕事してんな。金ぁここに置いとくぜ。
悪いがゆっくりしてる暇ぁ無えんだよ」
小島が財布から何枚か万札を床に置いた。
机に置こうにも家具が何も無かったからだ。
「バイバイ!最高!愛してる!じゃあねー!!」
小島たちはどっと疲れてハーレーの店を出た。

サンノミヤ駅前広場はもう早朝だった。
小鳥がやかましく飛び回る。
朝を告げる妖精や天使が歌を歌っていた。
澄んだ奇麗な歌声だった。
「やれやれ今度なぁ疲れちまったな。いつものこったが」
小島がベンチに座っている。
朝食のスニッカーズを齧っていた。
スポーツ飲料も飲んでいる。
「いやあ、すがすがしい朝ですねぇ。これで終わればいいのですが」
黒瀬もファーストフードを齧っていた。
「いやー疲れたなぁ。ご苦労様!」
少し離れた椅子に後藤も座っていた。
大あくびをしている。
彼らに黒尽くめの男が近づいてきた。
皮膚が全て板金加工されている。
「後藤さんか。ナカタケミカルの使いの鈴木だ。
よく来てくれたな。合言葉は覚えているか」
後藤が立ち上がった。
「三月兎は?」
「ケンタッキーが好き」
合言葉はあっていた。
これでようやく一件楽着になるのだ。
「君たちが彼を護衛してくれたのか。礼を言う。
約束の謝礼だ。彼の分から差し引いた」
鈴木は黒コートから分厚い封筒を取り出す。
「ハッお互い仕事ってもんだぜ。ハードだけどな」
小島は札束を受け取って皮ジャンに締まった。
「違いない。お互い苦労する。では後藤さん、車に乗るんだ。
チケットは用意してある。保護も万全だ」
広場前の道路に車が乗りつける。
「いやーいりいろありがとうございました。じゃあお元気で!」
後藤が手を振る。
その笑顔が凍りついた。
広場の少し先に美由紀がいたのだ。
荒い息をついている。
「じ、地獄のクイーンをおなめでないよ…ケリは!まだ!ついていないわぁ!!」
馬に乗って突進してくる。
鋭い大剣を振りかざしていた。
「ったくたいした女だな。グレート」
小島のトカレフが馬の両目を潰す。
美由紀は止まらない。
5mほどの距離に来ていた。
「ヒャハー!!」
黒瀬が跳ねる。
馬の首を落とそうと脇差を振る。
脇差は美由紀に防御され、黒瀬は心臓を刺された。
黒瀬が倒れ付す。
黒瀬は背広から包丁を取り出すと馬の足を切り落とす。
黒瀬が血を吐いた。
美由紀が剣を振りかざして後藤と向かい合う。
「決着を、つけるぞ。後藤おおおお!!」
美由紀の右腕から雷が出る。
「うわっと」
後藤は爆弾でジャンプして雷を避ける。
避けたその先には美由紀の使い魔がいた。
血の怪鳥だった。
後藤の体に何本も嘴が突き刺さる。
後藤は怪鳥を爆破して着地した。
着地した先には美由紀が叫びながら剣を振りかがしていた。
後藤も観念して拳を叩きつける。
剣と拳が交差した。
剣は後藤の肩に突き刺さった。
拳は手先の爆弾が爆発した。
美由紀がゆっくりと倒れる。
美由紀は右肩の骨が見ていた。
出血も酷い。
後藤に刺さった剣は折れていた。
肩に爆弾を出して剣をたたき折ったのだ。
傷も浅かったようだ。後藤は剣を引き抜いて座り込む。
「つ、疲れた。すごい人だなあ…鈴木さん、行きましょう。
小島さんありがとう。あ、そうだ黒瀬さんは?」
黒瀬はゆっくりと立ち上がった。
「いえ、たいしたことはありませんな。殺人鬼にとって心臓を突かれたり弾丸を打ち込まれるのは
毎日のことですから」
「そりゃ良かった。それじゃあ僕はもういこれでありがとうございました」
後藤が車に乗り込む。
「すまない。何もできなかったな。協力感謝する」
鈴木が会釈すると車はどこへともなく走り去って行った。
黒瀬は服の乱れを直すと美由紀に近づく。
小島もそれに継いだ。
「殺せ…情けも屈辱も要らん…早く殺せ!私は、誇り高き女王…」
「ハン、一度負けたくらいで何いってやがんだ。女王だってんなら立ち上がってみろ」
小島が美由紀の傷に薬をかける。
魔術で作られた特効薬だ。
あというまに傷がふさがる。
美由紀は一命を取り留めた。
「フン…この借りは必ず返す。チンピラ。名前は?」
「小島勝一さ。クイーン」
「黒瀬礼二と申します。またいずれお会いいたしましょう」
「そうか。じゃあな」
美由紀は馬の傷を治すと乗り込んで走り去っていった。
傷だらけの女王もまた街の中と消えていったのだ。
あとはピンチクラッシャーズの二人が残された。
「さてと、帰りましょうか」
黒瀬が車のドアを開けた。
「ああ。楽しかったな」
小島が乗り込む。
「ええ、面白かったですねぇ」
大きなアイドリング音を立ててボロボロのランドクルーザーが道を走り出す。
朝焼けが真っ赤に燃えていた。
また今日も一日が始まるのだ。
この混沌の世界での。



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