シンガポールで出逢った花たち

SINGAPORE

 私たちの花追いの旅の始まりは、赤道直下の島国、シンガポールでした。最初の海外への家族旅行でした。1ドル190円の時代です。緑あふれる美しい町でした。その高温多湿の世界に咲く華麗な花々に、私たちは魅入られました。

 
 淡路島ほどの広さにもかかわらず、今やこの地域の経済にとって心臓的存在のシンガポールは、7世紀の昔から東南アジアでの重要な貿易港の一つとして繁栄してきました。世界各地の熱帯植物のこの国への集積は、1819年にこの地に商館を立てたイギリス東インド会社のラッフルズ卿がガバメント・ヒルにスパイス植物の実験園を開いたことに端を発したようです。ラッフルズさんといえば、あの巨大な花、ラフレシアを初めてヨーロッパの学会に紹介したことで有名です。1824年に英国領になってからは王立キュー植物園のバンクス卿の支援の下、世界有数の規模のシンガポール植物園が現在の位置に整備されてゆきました。そんなわけで、シンガポーリアンがガーデンシティーと自賛するこの町に行けば、さまざまな熱帯の花と出逢うことができます。
     タビビトノキの前で           街角の仮面売り


 上の写真: キョウチクトウ科プルメリア・オブトゥサPlumeria obtusa)です。市街地のいたるところで目にする美しい花木です。シンガポールでは「お寺さんの花」と呼ばれ、日本ではインドソケイともいいますので、アジアが原産地と思いがちですが、古里はカリブ海域のバハマ諸島とグレートアンチレス諸島です。16世紀、カリブ海の島々に入植したラテン系の人たちが、メディティ家の貴婦人たちが好んだという香水のフランジャパーニのような香りを放つこの花に出逢ったのが始まりで、今では世界中の熱帯の町々で栽培されています。
 サガリバナ科シロバナグスタフィアGustavia marcgraaviana)。ブラジル原産です。シンガポール植物園には数種類にグスタフィアが植栽されています。


 上の写真: オクナ科(Ochnaceae)のオクナ・キルキイ(Ochns kirkii)。モザンビークが原産地です。5枚の花びらは開くと間もなく散ってしまいますが、ガクは残り肉質になって真っ赤に色づきます。薄緑の果実もそのころには真っ黒になり、赤と黒の取り合わせが目を引き、ミッキーマウス・ツリーとも呼ばれます。
 ヒルガオ科コダチアサガオIpomoea carnea)。低木状で蔓になりません。ブラジルが原産地だそうです。


 水路を挟んでマーライオン像が見えるエリザベス・ウォーク公園や植物園のメインゲートから入って直ぐ左手に、この奇妙な木があります。高さ10mを越すほどの直立した幹から垂れ下がる枝の先に、大人の頭ほどもある丸い実を鈴なりに下げています。近づくとかすかに甘い香りが漂い、花も咲いていました。肉質で、直径は15cmにもなる大きな花でした。サガリバナ科ホウガンボクCouroupita guianensis)です。漢字で書けば「砲丸木」です。大きな丸い実にちなんだ名です。原産地はパナマからブラジルにかけての地域です。若い果肉からは清涼飲料が採れますが、熟して暗赤色になったものは悪臭を放ちます。シンガポールのホウガンボクはスリランカのペラデニア植物園から贈られた種子から育てたものだそうです。


上の写真: タデ科アサヒカズラAntigonon leptopus)。ニトベカズラとも呼ぶ。中国名は珊瑚藤。メキシコが原産だが熱帯各地で野生化していて、シンガポールでは雑草扱いだった。珊瑚色の花びらのように見えるのはガク片。肥大する地下部は食用されるそうです。
 中央マメ科チョウマメClitoria ternata)です。多くの豆の花と違って旗弁が大きく上下が逆転して咲くのが特徴。モルッカ諸島のテルナテ島からヨーロッパに運ばれたものにリンネが女性器を連想して命名したとか。インドにも分布していて、ベンガル語では
オポラジタです。古典戯曲の「シャクランター」には強い霊力をもつ草として登場します。典型的な花は明るい空色だそうです。
 ノウゼンカズラ科イエローベルStenolobium stans)。中南米原産です。


 学生のころから、熱帯に行く機会があったらぜひ出逢ってみたいと願っていた植物の一つが、このカエンボク火炎木Spathodea campanulata)です。西アフリカが原産のノウゼンカズラ科の高木です。花の色は真紅に近いものから薄いオレンジ色のものまでさまざまです。世界各地の熱帯圏で植栽されています。ラッパ状の花の形から、アフリカン・チューリップ・ツリーともいいます。照りつける太陽を浴びて梢遥かに咲く花は、まさに火炎です。この火の色が花粉媒介者の太陽鳥を呼び寄せます。蕾の中には水が溜まっているので、water-cups の名もあります。材にはニンニク臭があり、ガボンなどでは悪霊を封じ込める魔力があると信じられ、部族の妖術師が使う呪杖を作るそうです。


 上の写真: ノウゼンカズラ科ヒメノウゼンカズラTecomaria capensis)。種小名からもわかるように南アフリカが原産の地。1820年ごろインド洋に面したバサーストでW. Burchellが種子を採集してヨーロッパへ導入したのが始まりで、世界中で栽培されるようになりました。先年訪れたユカタン半島の民家の庭先でも、コスタリカの豪邸の庭園でも、色鮮やかに咲いていました。原産地ではサンバード類がポリネーターですが、中南米ではそれに代わってハチドリたちが訪花していました。
 中央アカネ科コンロンカ属のムッサエンダ・フィリッピカMussaenda philippica) の突然変異種の一つ、ドナ・オーロラDona Aurora)。70年ほど前、フィリピンのマキリング山で発見されたものです。九州南部から台湾にかけて分布するコンロンカに近縁の植物です。
 はドナ・オーロラとアフリカ原産の
ヒゴロモコンロンカ (M. erythrophylla)と のF1に、もう一度ヒゴロモコンロンカを交配して作られたという園芸品種、ロセア(Rosea)。


 上の写真: アカネ科コバノサンタンカIxora coccinea)。マレー半島からインドにかけての熱帯が原産地。属名のイクソラはインド、マラバー地方の女神に因んだもの。育種家によりさまざまな品種が作られています。濃い緑色の葉と真紅の花のコントラストがいかにも熱帯的で、「ジャングルの炎」とも呼ばれます。
 キントラノオ科(Malpighiaceae) のコウシュンカズラTristellateia australasiae)。オーストラリアから東南アジアの熱帯が原産地です。日本では西表島の海岸やマングローブ林に自生しています。


 上の写真: 左トゥルネラ科(Turneraceae)のカバイロトゥルネラTurnera aurantiaca)。この科は主に中南米に分布し、アフリカ南部・マダガスカルなどにも見られる。
 中央キョウチクトウ科キダチベニノウゼンTabebuia rosea)。中米が原産地で、エル・サルバドルの国花。
 ショウガ科フクジンソウCostus speciosus)。東南アジアが原産だが、純白の花がみごとで、世界中で栽培されている。


 上の写真: フウチョウソウ科(Capparidaceae)のマライケーパーCapparis micracantha)です。東南アジアが原産地。ピクルスにするケーパーC. spinosa)は地中海地方からインド西部に自生しています。
 ビワモドキ科(Dilleniaceae)のシンポーDillenia suffruticosa)です。マレー半島からインドネシアにかけてふつうに見られ、大きな葉は物を包むのに利用されています。


 上の写真: ミソハギ科オオバナサルスベリLagerstroemia speciosa)。街路樹としてあちこちで植栽されています。東南アジアからオーストラリアにかけて分布しています。材が硬いので家具や建材に使われ、インドでは塩水に強い性質を利用してボートやカヌーを作ります。また、樹皮は下剤に、葉は湿布として使う地域が多いそうです。ブンゴルとも呼ばれていました。
 中左シソ科ネコノヒゲOrthosiphon aristatus)。和名はマレー語のミサイ・クチンの直訳。ピンと張り出した白い花糸と花柱からの連想でしょう。日本では園芸植物として大切に扱われますが、シンガポールでは雑草状態でした。インドネシアでは有名な民間薬で、さまざまな腎臓病に効能があるそうです。利尿剤にするジャワ・ティーはこの草の葉です。
 中右キツネノマゴ科マルバルリハナガサモドキPseuderanthemum reticulatum var. ovarifolium)。ポリネシア諸島が原産地といいます。黄色の新葉が美しく、庭園に植えられています。
 
ヒルガオ科ギンヨウアサガオArgyreia nervosa)。インド原産で熱帯地域で栽培されています。若い葉や芽は野菜として利用でき、根は強壮剤やリュウマチ薬とするそうです。


 上の写真: 中央ショウガ科オオヤマショウガZingiber spectabile)。マレーシア、スマトラ島が原産地で、テプス・タナと呼ばれています。。大きなものでは5mにもなる巨大なショウガのような茎葉の根元に、松毬上の花穂をのせた30〜50cmほどの花茎をだします。典型的なものは左の写真のように黄色の花穂ですが、中央のように真っ赤になるものもあります。
 ゴマノハグサ科ハナチョウジRusselia equisetifolmis)。メキシコが原産の地です。種小名が示すように、花がなければスギナのような姿です。ファウンテン・プラントの名前があるように水辺が似合う花です。


 上の写真: マメ科ティピンアソカSaraca thipingensis)。花は枝先にも咲くが、太い幹から直接咲く幹生花の方が目立ちます。花びらのように見えるのはガク片です。仏教の三大聖花の一つの無憂樹(アソカ、Sacara indica)の仲間です。原産地はマレー半島です。花の後の実は美しい紫に色づきます。
 キョウチクトウ科アリアケカズラAllamanda cathartica)。ガイアナからブラジルにかけてが原産の地ですが、各地の熱帯・亜熱帯で栽培され、フェンスやパーゴラなどに這わせて鑑賞しています。


 上の写真: 左キク科アメリカハマグルマWedelia trilobata)。南アメリカ原産。グラウンドカバーとして庭に植えられたものが各地で野生化しています。日本のハマグルマやネコノシタの仲間です。
 ショウガ科トーチジンジャーNicolaia elatior)。すっと伸びた、杖のような花茎の上に、ドキッとするほどの赤くて大きな花が咲きます。インドネシアが原産地で、世界の温室で人気の高い植物です。花の色が薄い桃色のものをマレーシアではカンタンと呼んで、若い花を刻んで麺類の薬味にします。ミョウガのような香りとさっぱりとした酸味があります。切花としても売られていて、フィジーなどではお墓に飾ります。


 上の写真: ベニノキ科(Bixaceae)のベニノキBixa orellana)の花と果実です。書物の上だけで知っていたこの有名な植物に、初めてシンガポール植物園でであったときは感激でした。中南米が原産地で、1科、1属、1種です。野生のものは樹高が10mに達します。種皮にビクシンというオレンジ色の色素が含まれ、アマゾンやオリノコ川流域のインディオたちがボディペインティングの染料として利用してきました。呪術的な意味での化粧というだけでなく、紫外線から肌を守る効果もあるようです。アンナット(annatto)という名が一般的ですが、英語名はリップ・スティック・ツリー、つまり「紅の木」です。一つの実の中に20〜50個の種子があり、これを集めて熱湯につけると、ビクシンが外種皮から溶け出し、容器の底に沈殿します。


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参考文献

1)岩月邦男・他、監修:植物の世界、朝日新聞社 2)Everard, B. & Morley, D.: Wild Flowers of the World., Exter Books, 1983. 3) Perry, F.: Flowers of the World, Optimum Books, 1981. 4) Jones, D. T.,: Flora of Malaysia Illustrated, Oxford Univ. Press, 1993. 5) Lötschert, W. & Beese, G.: Tropical Plants, Collins, 1983. 6) Tinsley, B.: Singapore Green, Times Books International, 1983. 7) 坂崎信之・他:熱帯花木植栽辞典、アボック社、1998

左の写真はココヤシ(Cocos nucifera)の林。