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私は花が好きです |
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そっと目をつむり、モンスーンのさなかの日本の山村を思い描いてみてください。そこはまさに緑一色の世界です。そしてその緑の世界を彩るのは白い6月の花です。日本の初夏は、白い花の季節なのです。日ごとに深まる緑の中で、あるものは吹き渡る薫風にさんざめきながら、人目を奪う鮮やかさで咲き、またあるものは五月雨にそぼ濡れて、白く煙るように咲くのです。 私たち日本人は、こうした四季折々の花に、遠い昔からさまざまな思いを寄せてきました。「道の辺の壱師の花のいちしろく人皆知りぬ我が恋ふ妻は」と詠った万葉の歌人にとって、壱師花は美しい妻の象徴でした。「愁ひつつ岡にのぼれば花いばら」と詠んだ蕪村にとってのノイバラは、郷里毛馬村への郷愁と感傷でした。そして「また立ちかへる水無月の/嘆きを誰に語るべき/沙羅のみず枝に花さけば/かなしき人の目ぞ見ゆる」と記す芥川龍之介にとっての沙羅の純白の花は、心寄せる麗しい女性の化身でした。 |

quote from :Fleagle, J.G. 1999: Primate Adaptation and Evolution,Academic
Press
南アフリカのスワルトクランスで発掘された化石データから再構築されたロブスタス猿人たちの生活
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ではわたしたちの遥かなる祖先、やっと2本の足で歩き始めた猿人オーストラロピテクスと花との出会いは、どんなものだったのでしょう。 |
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| スパソディア Spathodea campanulata | バオバブ Adansonia digitata quote from a website |
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ところが、3万年ほど前までヨーロッパから西アジアにかけて生活していたネアンデルタール人になると、単に食料としてだけではなく、なにかそれ以上のものとして花を認識していたようです。 |
“真実の宮殿の奉仕者”だったセンネジェム(Sennedjem) の墳墓の壁画
quote from: Scott-James, A., Desmond, R. & F. Wood: The British Museum
Book of Flowers (1989)
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ほぼ3万年前、寒冷地適応型の筋骨たくましいハンター、ネアンデルタール人は忽然と姿を消し、現代人型のホモ・サピエンスただ一種が地球全域に分布を広げました。ホモ・サピエンスは先行し絶滅した人類がなし得なかったことをやりとげました。 この時代以降、人類と植物との関係は大層複雑になっていきます。 農耕をする人々は定住します。定住するためには家屋が必要です。石や煉瓦を家の素材にした文明も多いのですが、樹木やヤシの仲間が多い地域では、これを使って雨風をしのぎ危険な動物から身を守りました。これも人と植物の関わりの一つの例です。 |
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| ベニノキ Bixa orellana | ベニノキ Bixa orellana |
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| ベニノキの色素でお化粧したブラジル・パラ州のカヤポ族の子供たち | Diego Riveraが描いた、薬草を調合するアステカ族のシャーマン(部分) |
| quote from: Michael L., et al. , Plants, People, and Culture, Sci. Amer. Library (1997) | |
これまで述べてきたような、実利実用的な植物と人とのかかわりとは別に、すでに遠い昔ネアンデルタールの人々がしていたような、人の心と植物とのかかわりがあります。つまり、世界のほとんどの民族が生者と死者、あるいは神々と人との間に花を置く習慣を持つのです。 日本人にとってのスギやマツがそうであるように、巨木を神の依り代と考える民族も珍しくありません。それは精霊の住処でもあります。西アフリカのサバンナに生活するモシ族は彼らの居住区をイリ、野獣や精霊の住む荒野をウェオゴをと呼びますが、このウェオゴを根城とするキンキルシという精霊がイリに生えるバオバブやプスガ(アカテツ科のPouteria の1種)などの大木にやって来ると信じています。 |
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それだけではりません。人類の文化が発展するにつれ、植物は美術工芸の世界にも、さらに文芸の世界にも、さまざま意味を持ったシンボルとして登場するようになります。 このように、衣食住にかかわる文化のみならず、芸術も宗教も、そして文学も科学も、植物とその花の存在を無視しては語りえないといえましょう。 一つ一つの植物には、それぞれ一つずつの、人間とのかかわりの物語があります。それぞれの物語は長短とりどりですが、すべてを語れば、それは『千夜一夜物語』よりも遥かに長い話になるでしょう。 このホームページ『草と木と花の博物誌』はそんな長いお話の一章になればと思っています。 |
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