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野の花便り〜 高山・市民の森の7月の花 〜


 安部川の支流の藁科川の、そのまた支流の水見色川の上流に静岡市が管理する生活環境保全林と銘打った「高山・市民の森」があります。
 その森の7月6日に咲いていた花を研究会の皆さんと楽しんできました。

 標高717mの山頂には「星の展望台」が作られていて、夜の星空はさることながらでしょうが、眼下遥か遠くには、竜爪山から南に長々と続いて浅間神社の大岩山で終わる山並みの先に、静岡市街地のビル群が霞んでいました。

オカトラノオ
   Lysimachia barystachys

 観察路に沿った草むらにはしなやかにしなる白い尾のような花序のオカトラノオが咲いていた。
 サクラソウ科の数ある属の中でもオカトラノオ属はとりわけて多様な種から構成されていて、約120種がアジアの温帯を中心に知られている。ハマボッス、コナスビ、ヤナギトラノオなども同属である。
ヤマアジサイ
   Hydrangea macrophylla ssp.
serrata
 手入れの行き届いた杉林の林床にはヤマアジサイが大きな群落を形成していた。上記の学名のようにガクアジサイの亜種とする研究者もいるが、独立した種と見る人もいる
 地理的な変異が多い分類群で、アマチャやエゾアジサイなどはヤマアジサイの変種とされている。

 

オニルリソウ Cynoglossum asperrimum
 青い花はいろいろな分類群で目にするが、ムラサキ科の花の空色にはなぜか忘れ難い趣がある。
 その不思議な空色の小花を咲かせたオニルリソウが観察路の際にいく株も生えていた。日本全土の山間の草地と韓国に分布する越年草だが、私には初めての出会いであった。
 中部地方以西から韓国、中国、東南アジアに分布しているオオルリソウとよく似ているそうで、図鑑の記載を読むと花柄がはっきりしていて開出毛が目立つのがオニルリソウ、花柄が短く毛は立ち上がらず葉や茎に圧しつけられるように生えているのがオオルリソウだとある。

 

トモエソウ Hypericum ascyron
 急な山腹を斜めに横切る観察路の山側の草地の中にトモエソウがひときは高く巴形の金色の花を掲げていた。花の盛りは少し過ぎていた。路面から7〜8mの高みのため手持ちのまま望遠モードでシャッターを切ったので少しピントが甘くなってしまった。
オトギリソウ Hypericum erectum
 トモエソウのお仲間がすぐ近くにあった。それは草丈20cmほどのオトギリソウ。この花にまつわる鷹匠兄弟の悲劇の物語は有名ですが、薬草としては古代から利用されていた。   詳しくはこちらを:
  
 http://www5e.biglobe.ne.jp/~lycoris/kongetu.no.hana-1.html

 

コアジサイ Cardiandra hirta
 林の中の岩陰にはもう花の終わったコアジサイが茂っていた。
 関東地方以西に分布する小型のアジサイで花茎や葉柄が赤紫色をしている。花序の外側に付く装飾花はないのも特徴である。
シロバナイナモリソウ Pseudopyxis heterophylla
 イナモリソウの白花株かと思ったが、別種であった。この花も初見である。 関東地方南西部から近畿地方にかけての太平洋側に分布するアカネ科の多年草である。この画像ではわかりにくいが花糸は突出している。


ヒヨドリバナ
    Eupatrium chinense ssp.
oppositifolium
 日本全土の山地でよく目にするが、変異が大きく、形態ばかりか染色体数でも有性生殖をする2倍体から3〜4倍体が知られている。倍数体は受粉することなく種子を残すことができる。
カシワバハグマ
    
Pertya robsuta
 東北地方以南の比較的乾いた山地で目にすることの多い多年草で、草姿が独特で憶え易い。花が咲くのはもう少し後だが、その花を見るとコウヤボウキの仲間であることが納得できる。


フジウツギ
 
Buddleja japonica
 山頂に近い林の中にフジウツギが咲き残っていた。庭園に植栽されている雲南地方が原産地のニシキフジウツギ(通称ブッドレア)によく似ているが若い枝には翼が発達する点で区別できる。
 バタフライ・フラワーとも呼ばれるのは蝶が好んで集まるからだ。
 この仲間を中国では酔魚草と呼ぶように、昔から川魚を獲るときに魚毒としてこの木を利用していた。サポニンが含まれているからだろう。
ヤマホタルブクロ
 Campanula punctata ssp.
hondoensis
 切通しの斜面には、まるで提灯行列のように幾本ものヤマホタルブクロが並んでいた。
 通説では蛍狩りのときこの花を蛍籠に代用したためにこの名で呼ばれるということになっているが、深津正さんの説のように”火垂る袋”つまり提灯という意味であろう。
 里呼び名はいろいろあるが、雨っぷり花”というのも季節感があって好きだ。


カキノハグサ Polygara reinii
 花が終わって縦縞のあるつるりとしたキャンデーのような実をつけたヒメハギ科のカキノハグサがいく株もあった。
 東海道から近畿地方までの山地に分布しているが、かつてはもっと広範囲に自生していたのであろうか。民間ではこの根を痰切りに薬用していたという。
トウゲシバ Lycopodium serratum
 胞子嚢ではなく、海老の尻尾のような形の無性芽をたくさんつけたトウゲシバを見た。
 小葉の幅や鋸葉に地理的な変異があって、ホソバトウゲシバ、ヒロハトウゲシバ、オニトウゲシバと区別することもあるが、温帯から熱帯にわたるクラインと考えてあえて区別しない研究者もいる。


マルミノヤマゴボウ Phytolacca japonica
 星の展望台に近い林の中でマルミノヤマゴボウが咲いていた。これも初めての出会い。日本土着の種だが、いまや絶滅危惧種だそうだ。中国由来の薬草のヤマゴボウと違って、10個前後の心皮は癒合して凹凸はあるが一塊となっている。帰化植物のアメリカヤマゴボウも似ているが、こちらは花穂が垂れ下がる。
                     陸商色濃く染めて遠目にも草枯野辺のしるくぞ赤き    岡 麓
 陸商とはヤマゴボウの根を乾燥させた利尿作用のある生薬の名で、ヤマゴボウそのものも指すが、岡麓の詠んだ陸商は草紅葉した野辺に生えているところからみるとマルミノヤマゴボウないしはアメリカヤマゴボウかもしれない。


ノリウツギ Hydrangea paniculata
 高山の山頂は一部伐採されて草原となっているが、その縁に大きなノリウツギに木があって花の盛りだった。この木は有用樹で、樹皮に糊質が含まれるので古代から和紙のつなぎに利用されていて、これが和名の由来でもある。またノリウツギの材は大変硬いのでアイヌの人たちは鮭や鱒を突く銛の柄に利用し、ラスパニまたはオプサと呼んでいる。硬いので燃えにくく、火箸としても使われた。静岡県掛川市伊尻の村落ではこの枝の皮をむき火葬場で骨を拾う箸を作った。
 ニレ、カミニレ、キタモ、サナノキなど、里呼び名も多いが、北海道での呼び名のサビタが通りがよい。原六朗作曲・大倉芳郎作詞で伊藤久男が歌った、あのロマンチックな『サビタの花』のおかげであろう。
    逝く夏を惜しむ心に走り出づ
             湖近くサビタの花は散りをり   太田絢子
 
シンミズヒキ Antenoron neofiliforme
 中国・韓国にも分布し、日本でも東北地方以南の山地に広く分布するということだが、私は初見であった。花穂はまだ出ていなかったが、鈍い光沢のある大きな葉が美しかった。
 ミズヒキと似てはいるが毛がほとんどなく茎が中空だから区別は難しくないとのことであった。
 中国では短毛金銭草と呼んで、全草を薬用している。細菌感染による炎症や止血に処方される。
『サビタの花』
カラマツ林遠い道/雲の行方を見つめてる/サビタの花よ白い花/誰を待つのかメノコの胸に/ほのかに咲いたサビタの花よ
いとしの君はほろほろと/楡の並木をどこへ行く/花かげ白く月の宵/待てどはかないメノコの恋は/悲しく咲いたサビタの花よ


トチバニンジン Panax japonicum
 朝鮮人参によく似ていて葉の形がトチノキのそれのようだからトチバニンジンと呼ばれるウコギ科の日本特産種である。
 チョウセンニンジンと違って根は竹のような節があり、竹節人参の名で痰切や健胃に使われた。
 花は小さくて青白く目立たないものの、秋に熟す実はルビーのように赤く熟して美しい。個体によっては実の上半分が真っ黒で光沢があり、これもみごとである。
キバナノショウキラン Yoania amagiensis
 水源の森にある“高山の池”へ降りてゆく途中、杉林の中の道の横でキバナノショウキランに出会えた。
 日本特産の腐生ランの一つで、属名のYouania は本草学者の宇田川榕庵に因んでロシアの植物学者マキシモビッチが命名したものである。
 池には桧枝岐から移植したというミズバショウが生き残っていて、見上げる水辺の杉の大木の枝にはモリアオガエルの泡だった卵塊がいくつも下がっていた。


<出合ったシダ類>

トウゲシバ、ゼンマイ、カニクサ、ウラジロ、イヌシダ、コバノイシカグマ、フモトシダ、ホラシノブ、イワヒメワラビ、ワラビ、オオバノイノモトソウ、タチシノブ、イヌガンソク、イノデ、オクマワラビ、トウゴクシダ、ベニシダ、オオベニシダ、ゲジゲジシダ、キヨスミヒメワラビ、ハシゴシダ、ハリガネワラビ、ヤワラシダ、ヒメワラビ、ミドリヒメワラビ、ホシダ、ヘビノネゴザ、ヤマイヌワラビ、イヌワラビ、ヌリワラビ、キヨタキシダ、セイタカシケシダ、トラノオシダ、ノキシノブ etc。 


ヌリワラビ Diplazium mesosorum オオベニシダ Dryopteris hondoensis

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