shibire

野の花便り 〜四尾連湖の秋の花〜

Autumn Flowers around the Lake Sibire

あいにく今にも降り出しそうな曇り空でしたが、草の友会の観察会に参加させていただきました。
目的地は富士山の北西部、山梨県の蛭ヶ岳の麓にある四尾連湖でした。
富士を巡る霊場の一つで、標高850mのいわゆる山上湖です。
紅葉には一足早い季節ですが、さて、どんな花に出合えるでしょうか。


シラカシ Qercus myrsinaefolia 
 秋は実りの季節ですね。駐車場の風除けに植栽されているシラカシもたわわにドングリを実らせていました。福島県以西の産地に自生する樫で静岡ではヤナギバガシとかホソバガシと呼びます。白い材はカシ類の中では最良だといいます。
オニグルミ Juglans mandchurica var. sachaliensis
 富士川に沿った52号線で見たオニグルミです。古代から食用されていて縄文時代の遺跡から出る胡桃の大部分がオニグルミだそうです。材は硬くて建材や家具などに使われ、絞れば明り取りの油が採れます。

ヤクシソウ Youngia denticulata
 この季節、山道を歩けばこの明るい優しそうな菊の花に必ず出会えるのではないでしょうか。漢字表記は薬師草で、これは茎を抱く葉が薬師如来の光背に似ているという説もあります。
フタバハギ Vicia unijuag
 ソラマメなどと同じ属の多年草で、若い柔らかなうちは食用されます。ナンテンハギとも呼ばれますが、これは葉の形が似ているからです。 

ガンクビソウ Carpesium cernuum
 ユーラシアに広く分布していて、日本の山地でもよく出合う多年草です。花茎に直角につく頭花の形が煙管の雁首を連想させることに因んだ名です。コヤブタバコともいいます。
リュウノウギク Chrysanthemum makinoi
 陽のよくあたる山道が好きな日本の小菊の一つです。茎や葉に含まれる精油成分の香りがフタバガキ科の龍脳樹(Dryobalanops sumatorensis)に含まれる龍脳(ボルネオ−ル)に似ているのでこの名がついたのだそうです。

オケラ Atractylis ovata
 私は未だ食したことはありませんが、軟毛をまとった春先の芽立ちはトトキ(ツリガネニンジン)と並ぶおいしい山菜だそうですね。雌雄異株で、これは雌株です。漢方では重用される薬草です。
センブリ Ophelia japonica
 これもよく知られた薬草ですね。熊の胆に並ぶ苦さで、胃薬として使われます。昔は里山でごく普通に採集できたのですが、今は幻に近い存在となってしまいました。

オトコヨウゾメ Vibrunum phleobotrichum
 北面した雑木林の中の小道の際では真っ赤に色づいたオトコヨウゾメの実が輝いていました。初夏に白い細かな花を咲かせる目立たない潅木です。押し葉標本をつくると、葉が真っ黒に変わるのが特徴です。
コウヤボウキ Pertya scandens
 
こちらはどちらかといえば日のよくあたる斜面が好きなキク科の低木です。南アメリカやガラパゴス諸島やセントヘレナのような海洋島には木本のキクの仲間が結構多いのですが、日本では例外的な存在です。

シロヨメナ Aster ageratoides
 図鑑によってはこの学名はノコンギクに当て、シロヨメナはその亜種 ssp. leiophyllus として扱っています。調べてみるとこの属の分類は研究者により諸説があり、実際にそれぞれの分類群を細かく検討したことのない私にはお手上げでした。
ギンリョウソウモドキ Monotropa uniflora
 つんと花が立ち上がっている銀龍草を見つけました。初めてであったものです。ギンリョウソウとは別属でシャクジョウソウに近縁のギンリョウソモドキ、別名アキノギンリョウソウだと教わりました。 

サラシナショウマ Cimicifuga simlex
 ひっそりと静まった林床のあちこちに、大きな白いボトルブラッシのようなサラシナショウマが咲いていました。シベリア東部から日本の温暖帯域に分布する美しい植物で、解熱、解毒作用のある薬草です。 
ナギナタコウジュ Elsholtzia ciliata
 今にも雨になりそうな天候になり、フラッシュなしでは手ぶれが避けられないほど暗くなってしまいました。というわけでせっかくの薄紫の花も、残念ながら白くなってしまいました。この名前は近縁種の薬草の海州香需のようで花の形が長刀に似ていることに因んだものです。

ノコンギク  Aster microcephalus var. ovatus
 ノコンギクはシロヨメナなどと同種とする図鑑もありますが、最近の核型や遺伝子の研究ではヨメナの仲間のユウガギクとシロヨメナを含むシオン類との交雑の産物だという説が有力のようです。それにしてもこの仲間の分類は難しいですね。 
トネアザミ Cirsium nipponicum var. incomptum
 沢沿いの薄暗い小道で見た小柄のアザミです。光量不足で発育不全のトネアザミのようです。

アキノキリンソウ Solidago virga-aurea var. asiatica
 ユーラシア大陸に広く分布する種の極東型。別名はアワダチソウ。北米原産の帰化植物セイタカアワダチソウと同じ属です。秋の山道をにぎわす花の一つですね。
キノタムラソウ Salvia japonica
 湖畔の石垣から空色の長い花穂を伸ばしてアキノタムラソウが咲いていました。マクロで迫ってみると思いのほかたくさんの繊毛が花冠に生えていました。日本産のサルビアの1種です。

マハッカ Rabdosia inflexa
 手入れされ明るくなっているた登山道の林縁にはヤマハッカが群生していました。葉の形がミント類に似ているのでこの名で呼ばれるのですが、薄荷の香りはしません。
メナモミ Siegesbeckia pubescens
 なぜか帰化植物のような気がするキク科の多年草ですが、北海道から九州まで普通に生えている土着の植物として扱われています。ヘラ状の総包片には粘毛が生えていますが、これは近くを通りかかった動物に付着して種子を運んでもらうためと考えられます。

シオデ Smilax reparia var. ussuriensis
 湖を巡る道の際で大きく育ったシオデがありました。果実は未だ青かったのですが、やがて黒く熟します。春の若い芽は山菜として利用されています。属名からわらるようにサルトリイバラの仲間です。
ツリバナ Euonymus oxyphyllus
 擂り鉢状に湖を取りまく尾根の斜面は未だ緑が勝っていたが、とろどころでツリバナの実が赤く弾けていた。潅木ですが材は硬くて細工用に利用されています。これは現代では用無しですが、アタマジラミの駆除に使われたこともありました。

セキヤノアキチョウジ Rabdisia effusa
 四尾連湖は周囲2km足らずのささやかな湖ですが水深は中央部で10mほどあり、澄んだ水をたたえています。よく晴れた日であれば青い湖面が楽しめるとのことですが、生憎の曇天でいささか陰鬱な風情でした。
 その湖畔には淡い空色の花穂揺らしたセキヤノアキチョウジが茂っていました。私にとってはこの花も初めてのものでした。
 日本全土に広く分布するヤマハッカと同じ属ですが、こちらの分布は狭く、関東地方と中部地方に限られています。愛知県以西にはアキチョウジ(R. longituba)が分布しますが、豊橋市付近では両種が混在する場所があります。
 和名の由来は東海道の箱根の関所付近に多く生えていたため、関所の番屋、つまり“関屋のアキチョウジ”である。これは牧野富太郎さんの命名で、その経緯は明治31年の『植物学雑誌』に発表されています。

センボンヤリ Leibnitzia anandria
 センボンヤリは極東に広く分布するキク科の多年草で、里山から低山帯の道を歩けば探すまでもなく目に付く存在です。しかし、春と秋とではまるで別種のような印象を与える植物でもあります。
 直立する花茎が10cm前後で、その先端に直径1.5cmほどの白い頭花を咲かせる春の姿には親しんでいましたが、見るたびに、これがどうして千本槍なのだろう?といぶかしく思っていました。
 ところが、今回その秋の姿に接することができて、なるほど!と納得しました。
 秋のセンボンヤリは50cm以上にもなる花茎を5本も6本も立て、しかも槍の穂先のようにとがった頭花をつけていました。なるほど“千本槍”でした。しかもこの頭花は閉鎖花で開くことはありません。
 左の画像の毛槍の先のようなものは春の花が実った種子の集まりです。

このページのトップへ     目次へ戻る