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野の花便り 〜 紅葉の愛知県民の森 〜



JR飯田線の三河槙原駅に程近い愛知県民の森は、仏法僧の声でよく知られている蓬莱寺山々地に昭和45年に設置された県民の憩いの場です。
豊川用水の水源となっている宇連川の源流域で、晩秋ともなれば深い谷の両岸の森は紅葉に燃えるのです。
この季節、ほとんどの下草はすでに枯れ、代わって夏にはあまり目立たなかったシダ植物が、その存在を主張し始めます。
間もなく枯れるものっもあれば、緑を保ったまま冬を越すものもあります。
今日はたくさんのシダたちに出会えました。
そのなかで、比較的わかり易い写真が撮れたものを紹介します。

 

1) オオモミジ Acer amoenum 
   今日であったカエデ類の中では際立って鮮やかな紅に染まった木だった。桧皮葺の小屋は緋毛氈で覆われているようだった。
    日本の固有種で、北海道中部から、太平洋側は青森県以南に、日本海側は福井県以南の低山帯に分布している。ヒロハモミジとも呼ばれる。

紅葉は一葉もおかず火の如し見事々々とわれは見惚れぬ     尾山篤二郎

紅葉見や用意かしこき傘二本      蕪村

谷川を中に隔て々こがれあひし紅葉はちりぬ同じ流れに      木下利玄
 

2) モミジバフウ Liquidamber styraciflua
   ひときわ赤く、そしてひときは大きな紅葉が散り敷いていた。拾い上げてみると形はモミジと良く似ているが、葉質がモミジらしくない。この葉の主の幹は胸高40cmほどで、棘上の突起があり、頭上の枝にはニシキギをおもわせるような翼がついていた。落ち葉に混じってころがっている小さな毬栗のようなものがこの木の実で、カエデ科の植物ではなくアルティンギア科(Altingiaceae :かつてはマンサク科に分類していた)のモミジバフウだった。 
 北アメリカの東部からグアテマラにかけて分布しているが、第3紀のころには北半球を中心に広く分布していて、氷河期にヨーロッパや北米北西部のもの絶滅し現在のような分布になったようだ。
 各地で街路樹として植栽されていて、日本では上野公園の大木が良く知られた存在である。   
 


3) ホウノキ Magnolia obovata
   暗褐色の表と灰色の裏地の長さが30cmもありそうな大きなホウノキの枯れ葉が散り敷いていた。
朴の葉の身振りも荒く落ちにけり  小泉博夫
 振り仰ぐと、梢にはまだわずかに緑もみえる葉が残っていた。
 万葉集の大伴家持の短歌にも詠われるように、古代からこの葉は食器としても利用された。
4) タカノツメ Evodiopanax innovans
   宇連川の岸辺に茂るシリブカガシの隣に、透明感のある明るい黄色に色づいた3出葉が輝いていた。タカノツメである。どこが鷹の爪かといえば、冬芽の形が似ているからだそうだ。大分には鬼の爪という里呼び名もある。東北地方から九州にわたってイモノキという名も知られているが、これは材が柔らかなことに因んだ名という。


5) アオツヅラフジ
  
Cocculus trorobus
   この蔓草は8月の末のころから白い小さな花を咲かせ、葉の緑がまだ濃い10月のうちに青く色づきだす。そして、小鳥のお目こぼしにあえば、この写真のように黄葉して散り始めるころまで目を楽しませてくれる。
 古代から親しまれていて、万葉集に詠われている“都豆良”はアオツヅラフジだと考えられている。また、大和武尊に騙し討ちされた出雲建の太刀の鞘に巻きつけられた“黒葛”もアオツヅラフジのことだという。
6) リンドウ
   Gentiana scabra var.
buerugeri
    深い谷に沿った遊歩道の際に良く育ってたくさんの蕾をつけたリンドウがあった。太陽の位置が変って直射光があたれば花開くのだろうか。
 記紀万葉の時代はこの花をなんと呼んでいたのか定かではないが、“思草”だという説もある。平安時代以降になると竜胆は頻繁に登場する。有名なのは枕草子の67段「草の花は」であろう。
     
龍胆に人里遠くなりにけり    五十嵐播水


7) ヤブコウジ Ardisia japonica
   上空のモミジのあでやかさと対照的に、林床は彩りに乏しい。そこで遠慮がちに輝いている赤い玉は、万葉の人々にも愛でられたヤブコウジの実である。
    
ゆびさきを反らせてつまむ藪柑子   山崎展宏
8) フユノハナワラビ Sceptridium ternatum
   日当たりのよい路傍の枯れ草原にフユノハナワラビの10cm足らずの胞子葉がついと立っていた。胞子嚢の集まったようすが葡萄の房を連想させるので、英語ではGrape fern (ブドウシダ)と呼ぶ。中国では解毒作用のある薬草と考えられている。


9) ハリガネワラビ Thelypteris japonica
   夏緑性のシダの中では枯れるのが早い種類の一つである。葉柄が硬くて鱗片の散ったものは赤銅色をしているのでこの名があるのであろうが、ぽきりと折れるところはあまり針金らしくない。若い葉はヤワラシダと紛らわしい。
10) シシガシラ Blechnum japonicum
    種小名からもわかるように日本固有の常緑性のシダである。茶色に変色した葉は胞子を飛ばした後の実葉である。この森には驚くほど多くのシシガシラが生えていた。初めての見る光景であった。

 

11) ハシゴシダ
   
Thelypteris glanduligera
    対生した羽片の段々の並び方が梯子を連想させるからというのが名の由来のようだ。この写真は杉林の林縁で日当たりが少ない場所の株だが、日のよく当たる石垣などに生えるものとは大違いである。
12) ヒメワラビ
   Therypteris torresiana var.
clavata
    この夏緑性の大型のシダもいたるところで目にする。葉質が柔らかで、肉眼ではよくわからないが細かな毛が生えているので優しい触感である。ヒメワラビ(姫蕨)と呼ばれるゆえんであろう。


 

13) ヤマホソバイヌワラビ
   
Athyrium X pseudo-spinenscens Serizawa
   イヌワラビ属の分類は熱血のシダ命人間以外にとっては、あの曼荼羅を理解する以上に難しい、と私は思う。
 このシダもチラッと見たときはホソバイヌワラビだが近寄ってしげしげ見るとヤマイヌワラビかなとも思える。実体は両種の雑種ということのようだ。
14) イワガネソウ Coniogramme japonica
    この常緑性のシダはヤポニカという種小名ながら、日本だけでなく中国、韓国やインドシナ半島にまで分布している。同属のイワガネゼンマイと大変良く似ているが、羽片の脈が網目状になっていて区別できる。
 もっとも、両種の雑種のイヌイワガネゼンマイというのがあるので迷うケースもある。


15) キヨスミヒメワラビ Ctenitis maximowicziana
    関東以西、中国、台湾に分布している常緑性のシダで、和名は発見地の千葉県清澄山に因んだものである。シラガシダの名もあるが、これは芽立ちのときに真っ白な鱗片がよく目立つからである。    
16) コバノイシカグマ Dennstaedtia scabra
    かつては東海地方では比較的に珍しいシダだったが、近年はごく普通に目にするようになった。和名は‘葉の小さなイシカグマ’という意味だがイシカグマは別属、フモトシダ属(Microlepia)の1種である。


17) イワヒメワラビ Hypolepis punctata
    コバノイシカグマ同様、あるいはそれ以上に分布を広げている暖地性のシダである。静岡県では茶畑にはびこって有害雑草となっている。
18) マルバベニシダ Dryopteris fuscipes
    ベニシダ類の分類も一筋縄ではいかないものだが、このマルバベニシダは比較的わかりやすい。もっとも中国にはそっくりな別種がある。


19) ミヤマイタチシダ Dryopteris sabaei
    暖帯北部から温帯に分布していて、落葉広葉樹林下で目にすることが多い。葉柄やうじ羽軸が赤みを帯び、鱗片も赤褐色である。
20) ナンカイイタチシダ Dryopteris varia
    このシダの名を憶えたのは足摺岬での伊藤洋先生の分類学実習のときであった。肉厚で重量感のある姿が印象的だった。


21) ナライシダ Arachnioides borealis
    日本では3種のナライシダ類が認識されていて、その区別は必ずしも容易ではないが、これは2倍体のホソバナライシダと思われる。4倍体のほうはナンゴクナライシダである。ナライは長野県の奈良井のことである。山形にはアカコゴミという名もある。
22) オオキジノオ Plagiogyria euphlebia
    雉の尾羽をつぶさに観察したことはないが、キジノオシダというのはこのシダの羽片の並び方が雉の尾の縞模様に似ているからといわれている。暖地性の常緑のシダで、中国からヒマラヤにも分布している。和歌山やクマモトデは‘山鳥隠し’とも呼ぶ。


23) トウゲシバ Lycopodium serratum     24) ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum
 これらヒカゲノカズラ科のメンバーは古生代に陸上に進出した最初の維管束植物の血を色濃く残して今も生き続けている、いわば生きている化石的シダ植物である。
 トウゲシバの葉の形には地理的な変異があっていくつかの変種に分類されることもあるが、どうやらクライン的なもののようだ。峠芝と書くが特に峠に多いというわけではない。それで、一説には仏塔に似ているので‘塔形芝;トウギョウシバ’と呼び、変じてトウゲシバになったともいう。
 ヒカゲノカズラは古代から呪術の道具に使われていたこともあって、たくさんの里呼び名がある。中池敏之さんの「シダ植物の方言小事典」には147もの呼び名が収録されている。ウサギノネドコ、キツネノエリマキ、サルノハチマキ、タヌキノマエダレ、などなど動物の名の付くものが多い。静岡にはヤマバーサンノフンドシという品のない名もあるが、これはやはり静岡にあるヤババーサンノフシド(山婆さんの臥所)に由来するものと考えたい。

 

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