日々の雑感3

小惑星ベスタを見た(2021.03.03)

 小惑星番号4のベスタがしし座にあって6等級になっている。しかもθ星の近くにあって探し易い。自宅でも先日6等の天王星が双眼鏡で見えた。ならばこのベスタも見える可能性が充分にある。今まで眼視で見たことの無い小惑星を見るチャンスである。望遠レンズでセレスか何かを撮影して移動を確認したことはあるがこの目で見たことはないのである。

 ステラナビゲータでベスタを出してθ星とベスタの周りの星の配列を頭に入れた。玄関から出て双眼鏡でレグルスからしし座の形を辿ってθに来た。そうしたらステラナビゲータにあるのとちょうど同じような明るさの星だけが見えていてそこで見た星の配列どおりになっていた。こうやってベスタを簡単に見つけることができた。薄雲があちこちにあるような空だからはっきりくっきりとはいかないが、それでも確実にそこに存在している。

 実はベスタを探す前までしし座の美しい二重星のγを見ていた。機材はここでは初登場の9cmマクストフカセグレン。1万円台なのでオモチャのつもりで買ったのだがこれが期待以上に見える。しかも超コンパクトなのでちょっと見るときに使っている。今夜もそうだ。しし座の二重星を見ていたのでベスタのことを思い出したというわけだ。双眼鏡で見つけたあとこいつでベスタを見ることにした。オリジナルのスポットファインダーを6×30のファインダーに換装してあるからこれで見るとベスタはちょっと見にくい。双眼鏡で見たあとだからぼんやりと見えるのが分かる程度である。まあそれでも導入に不自由はなく視野にベスタを捕えた。当然の如く恒星と同じようにしか見えないが、これが初めてしっかりと目で見た小惑星の光である。天文少年からの長い年月のことを考えて胸が熱くなった。この自分の眼で光を捉えるというのが今でも私には大事なことで眼視観望をやめない理由である。初めて望遠鏡を買って月や惑星や星雲・星団を見たときの感激が天文趣味の原点となっている。もちろん初めて星座を撮影したときも嬉しかったのだが。

 今夜はささやかだが記念に残る夜となった。楽しいねえ。


天王星を見た(2021.01.21)

 夕方の天頂付近に輝く火星に天王星が接近して探しやすくなっているのでちょっと見てみることにした。まず18日に双眼鏡で確認したがやっと見えるくらいの明るさだ。この光害地だし少し靄がかかっているようで5.8等と言われる天王星でも確認に手間取った。次の19日はもっと靄がひどくなり簡単には見えない。それで暗い星雲や彗星を見るときのようにいわゆる「そらし眼」で見てみると視野の端でポツンと光っているのが確認できた。とにかくここまでで天王星を間違いなく見たことになる。

 そして20日。夕方7時前に友人からメールが来て「火星の南東2度くらいにに星が見えるけどこれが天王星かな」と書いてあった。すぐに双眼鏡で確認するとこれまでで最も明瞭に輝く天王星が見えた。ここ3日で最高の透明度である。すぐにメールで「それで間違いない」と返信した。この友人も退職してから海王星や水星を見ているからこれで太陽系の惑星を全制覇したことになる。小学生から天文をやっていて60代後半でここまでたどり着いたというわけだ。

 さてそれからFC100Dを庭に出して天王星に向けてみた。こういう微妙な対象を見るときはA105MでなくやはりFC100に限る。最も綺麗に見えるのがこれである。さて148倍で見ると綺麗にまとまって見えるが明るい恒星のエアリーディスクと大きさがあまり変らない。もちろん普通の6等星はこんなに大きく見えないからこれで円盤像を確認したことにしても善いのだがどうも物足りない。そこで247倍にしてみると明らかに大きさがある。ただしシーイングが悪いのでスッキリとはいかなかった。まあこれは季節柄仕方のないことで、とにかく水色の円盤像は見た。以前にも一度天王星を見たことがあるが、そのときは低空でもっとシーイングが悪くはっきりとは見えなかった。その時に比べたらよほど良く見えたと言えるだろう。これで満足した。


今更アクロマート屈折?〜ビクセンA105MUを買った(2020.12.29)

 最近、新しい望遠鏡を買った。これが何と今更のアクロマート屈折である。現行で出ている商品であるから時代遅れとまでは言わないが、昔ながらの商品であるとは言えるだろう。機材歴のページでも書いたが私は長焦点アクロマートが好きである。昔欲しくて買えなかったので未だその未練を引きずっているのだろう。わざわざレンズを買って6cmF15の細長い望遠鏡を作ったほどである。安いし良く見えるしそもそもカッコイイ、良い点がたくさんある。子供向けは別として現在の国産アクロマートのちゃんとした望遠鏡はビクセンとスコープテックでしか発売されていないが良い商品が多いと思っている。

 そこでまず私は国産唯一の10cmアクロマートA105Mに目をつけた。10cm屈折と言えば私はFC100Dを持っている。見え方に不満はない。ものすごく良く見える。しかも軽い。ミューロン180を持っていても主力機は気軽に持ち出せるFC100Dである。しかし不満もあった。軽いことの引き換えに見た目が貧相なのである。買って初めて見たときこれが本当に10cm屈折か、と驚いた。昔あこがれた10cm屈折とは似ても似つかない。

 そこで昔ながらの設計思想が残っているであろうA105Mを見てみたくなった。これも焦点距離1000ミリでF9.5であるから長焦点とは言えない。中国製にはもっと長いしかもアポクロマートを謳う鏡筒もあるが、昔ながらということで国産品に拘る。古くはA102Mで105Mは比較的新しい製品だがそんなに変らないだろう。ついに買ってしまった。当然だがアポクロマートの半値以下の価格であった。

 届いて箱から姿を現した鏡筒を見て嬉しくなった。これだよ。これが10cm屈折の貫禄というものだ。こうじゃなくちゃ。1980年代あたりだと焦点距離は1300mmあったからもっと立派だったのだろうが、今でも充分立派である。これを見た友人も同じ感想で性能を気にしなきゃ俺もこっちを選ぶと言っていた。FC100Dより重いのは当たり前だがミューロン180よりは軽いから運ぶ苦労は何もない。

 さて問題の見え味、特に色収差の出方が気になるところであるがこれはやはり目立つと言わざるを得ない。覗いた経験のある4cmF20、6cmF15、8cmF11.2に比べたら10.5cmF9.5は圧倒的に不利なのは分かりきったことである。月しかじっくり見られてないのでそれで話をする。明縁にはっきりとした紫色のにじみがまとわりついて目立っている。しかし月の外側なので月面を見るのに影響はない。小さなクレーターや谷の見え方であるが、これが実に良く見える。FC100Dで見えるものは全部見えていて170倍くらいで見ると気分が良かった。違いはクレーターの中の暗部が真っ黒でなくうすーく紫の光が散らばっていることである。真っ黒に見えるFC100Dよりは像のスッキリ感は落ちる。しかしクレーターの輪郭はシャープに見えるから別に問題なし。月に関する限り分解能はアクロマートもフローライトも見えるものは同じ。見え方がちょっと違うだけである。月の眼視観測だけやりたい人はA105Mでも充分だと思う。木星なんかだと細い縞の見え方に差が出るかもしれないが今は確認できない。

 そしてくだらないと思う人もいるかもしれないが、接眼レンズから目を離して目の前にそびえる鏡筒を見てると嬉しくなる。でかい鏡筒がなんとも頼もしい。俺は10cm屈折を除いているのだという喜びにひたることができる。FC100Dは小さいのでこうはいかない(同じ短くてもミューロンくらいでかければ別だ)。逆に言うとこれよりずっと小さいのにこれより綺麗に見えるものを作る技術の進歩もすごいわけだが。

 金銭的余裕があればEDやフローライトのアポクロマートを買ったほうが良いに決まってるがアクロマートというだけで購入候補から外すのももったいないことである。圧倒的に安い価格でこれだけ見えたらお得ではないだろうか。

(2021年7月追記)

 やっと木星と土星が見られるようになったのでA105Mで覗いた感想を書く。結論から言うと予想以上に良く見えて驚いた、というのが正直なところである。月での色収差の出方からしてもっと不鮮明になるのではないか、と思っていたがそんなことはない。さすがに木星は明るいので周囲に薄く紫の光が拡散しているが、木星像そのものはくっきりとしているので観望の邪魔にはならない。縞模様のコントラストも屈折らしく明瞭である。FC100Dに比べると細い縞の部分はちょっと見にくいかなという気はするが、並べて比較したわけではない。これはこれで10cm屈折の木星像として不満のないものである。残念ながら大赤斑は出ていなかったのでそこは評価保留、赤く色がついて見えるかも気になるところである。FC100Dだと条件によっては黒い斑点としか見えないことがある。ついでに書くとBKP130ではつねに赤く見えるのでここは集光力の差が明瞭に出ている。

 次に土星だがカッシーニの空隙ははっきり見える。本体の縞模様は見えることは見えるが、FC100Dに比べると少し薄い。だが初めてこれを見た人を充分満足させる見え方であると思う。土星は木星より暗いので色収差は全く気にならない。

 木星と土星に関しては眼視だけならこの10cmアクロマートで充分だと思う。価格がこれだけ安くてこれだけ見えれば買って損したということはない。これまでにも二重星などいくつか観てきたがこれらも充分楽しめる。天体写真の流行が屈折の短焦点アポを必要としたわけだが、眼視で楽しむなら別に昔のような望遠鏡でもまだまだ役に立つのだろう。


木星と土星の超大接近を見に行った(2020.12.21)

 ほとんど400年ぶりという木星と土星の大接近が起こった。ケプラーの説ではこのような現象がベツレヘムの星の正体という事になっているが、むろん異論・反論も多い。いずれにせよこのような希少な現象が自分の生涯で起こるという事は幸運なことであるので是非とも見なければならない。

 残念ながら西空に低く我が家の近くでは見られないので公園に行くことに決めていて、いつもの二人の友人とも一緒に見ようと約束がしてあった。実は前日に一人でカメラと三脚をかついで家の近所からギリギリ見えるところに行った。道端であるのでゆっくりしていられない。300mm望遠レンズでさっさと数枚の固定撮影をしただけだがガリレオ衛星まではっきり写った。土星の環は判然としないが楕円形には写っていた。これは望遠レンズの固定撮影で許容できる露出時間の目安を知るためでもあったので目的は果たした。公園までは赤道儀を持っていくことは不可能なので固定撮影でやるしかないのである。もっとも最もやりたいのは撮影でなく、望遠鏡の視野で木星の縞模様と土星の環をこの眼で同時に見るということである。写真だけでなく眼視も未だに私にとっては天文の重要な柱である。

 さて最接近の1日は朝から快晴で期待は盛り上がる。午後4時を過ぎた頃家の前の路地に3人が揃った。私は自転車で、友人たちはクルマで観測場所へ向かった。知り合いの家が公園の近くにあるのでそこに友人の車を停めさせてもらえることになっている。さっき頼んだばかりだ。

 先に私一人が公園に着いた。既に太陽は沈んでおり目の前は綺麗な薄明の空である。ここまで全く雲がない空が続いており観望には全く支障がないので嬉しくなった。久しぶりに好条件の空の下での観測会である。まず夕暮れの風景を一枚撮ってからFS60CBを組み立て、2倍エクステンダーとカメラを取り付けた。南の少し高いところに上弦近い月があるのでそれでピントを合わせた。友人も到着し各々が機材の組み立てを始めた。天気も好く風もないのでみんな喜んでいた。

 それから木星が見え始めるまで少し待たされた。金星ならもうとっくに見えている頃だがやはり木星はずっと暗いのだ。やっと見え出したので望遠鏡の視野に入れて撮影開始。焦点距離が710mmでAPS-Cのカメラだから1000mm以上に相当する。あっという間に動いてしまうからISOを使ったことのない3200まで上げて短い時間でシャッターを切るとそれなりの像が写った。木星は露出オーバーになるが衛星の写りは悪い。土星も環はそれほどはっきりしないがまあ仕方ない。赤道儀を使った拡大撮影ができない時点で写真はそこそこのもので良いと思っていたのだ。

 それよりも重要なのはこの眼で見ることだ。カメラとTリングを外し接眼筒、天頂プリズム、アッベオルソ6mmをつければ118倍の眼視用となる。6cm屈折にはまあ適合した倍率でちょうどいい。これで木星と土星を見た。おおーこれか!と声が出た。面白い風景だねえ、こりゃ。太陽系の奥行きまで感じ取れそう(むろん錯覚だが)な奇観である。ただし低空だけあってシーイングは悪く鮮やかな像とまではいえない。縞模様はぼやけているし環の詳細も明瞭でない。それでもこれは紛れも無く木星と土星であるから感動は変らない。子供の頃にこれを偶然見たとしたらびっくり仰天するだろう。ともかくも面白いものがゆっくり見られて満足した。

 それからはお互いの望遠鏡を見比べあったり、ついでに月も覗かせてもらったりした。友人の一人は夜から飲み屋の商売があるので先に帰った。残りの私たちも少し話をしてから帰ることにした。良い条件の下で観測会は大成功に終わった。

 私たち三人は50年以上昔に一緒に流星群や日食を観測し同じ中学の天文部にいた。就職で連絡が途絶えたがリタイア後、また一緒に天文をやるようになった。星空は50年経っても同じものがそこにあることも含めて天文趣味って良いものだとしみじみ思う。


今回の火星準大接近(2020.10.25)

 準大接近と言われた今年の火星は大接近の一昨年より模様が良く見えて絶好の楽しみとなった。少し前から惑星用のCMOSカメラを買っていて、それで木星や土星を撮像していたのでその方法を火星に向けることができた。残念ながらミューロン180は小さな赤道儀には搭載できないのでFC100を使うしかなかったがフローライト屈折の像はカセグレン系よりコントラストの豊かな像を見せてくれた。

 10月上旬は天気が悪かったが、たまに晴れた日はシーイングが良く、2回ほどなかなか良好な画像が得られた。それは子供や若い頃、夢に描いていたような火星像だった。もちろん昔は他人のスケッチで見るしかなく、いつかは自分もこのような火星を見てみたいと思っていた。スカイルック210もそのために買ったつもりだったが、時期の巡り合わせが悪く結果は残せなかった。それから40年以上もたって小さな10cm屈折で、スケッチではなくデジタル画像でその火星像を手にすることが出来た。大袈裟に言うと、私の天文人生の中でもウエスト彗星の写真などと並んで記念碑的な作品だと思っている(あくまで私の中で、ということで名人が雑誌に載せているような惑星写真に比べたらお粗末なものだが)。

 その一方で、一昨年の大接近に備えて買ったミューロンは出番が少なくなってしまった。ミューロンで眼視観望するよりFC100Dで撮像したほうがはるかに詳細で正確な火星像が得られるのではどうしようもない。まあそれでも毎回の撮像は疲れるので晴れが多くなりそうな後半戦では合間の日の眼視観望もやるつもりでいる。


部分日食の観測・その2(2020.06.21)

 昨年末の部分日食に続く今回の日食は梅雨時なので天候は期待できなかったがその通りとなった。前回と違って家の前で見られるのは大きな救いである。天候が悪くてもぼやっと待っていればいい。3時半頃から友人と一緒に準備を始めた。

 日食開始時刻を少し過ぎたあたりで待望の雲間が来た。すかさず連写するが、雲の隙間が小さくなかなか太陽の全体が写らない。何とか1枚まあまあの写真が撮れた。太陽の下のほうがはっきりと欠けている。だが太陽は直ぐに姿を隠してしまった。

 それからはずっと待機時間が続く。友人が私の天文年鑑を見ながら色々質問してきたりするので退屈はしない。そして1時間ばかりして最大食分の付近になった頃、奇跡的に太陽の光が差してきた。これも連写するが先ほどと同じく太陽の全体が見えるショットがなかなか撮れない。が、今回の雲間は比較的長く続いたので数枚はモノにできた。もうこれだけで満足である。

 その後は犬の散歩で来た近所のお婆ちゃんや、たまたま通りかかった写真好きらしい若者にデジカメのモニタで欠けた太陽の姿を見せてあげたりしていた。
友人は商売をしていて社交的だから、こういう客人の相手は上手である。天文のほうはあまり上達しないがまあ得手不得手は人それぞれ。個性の違う人間が子供の頃から天文趣味でつながっていて、歳をとった今でも一緒にやれているというのはありがたい事である。

 けっきょくその後は雲は動かなかったが、欠け始めと最大食分の頃の太陽を写すことができたので充分だ。5時過ぎに終了した。


自作6cm屈折でダブルダブルスターを観た(2020.05.11)

 庭に出てみるとヴェガがそこそこの高さまで上がっていた。これまで2回ほど挑戦した自作6cm屈折によること座の四重星ε通称ダブルダブルスターを見ることにした。過去2回ではこと座が姿を現したばかりの低空だったので、シーイングのためか分離には失敗していた。今夜はだいぶ上まで昇ってきたので何とかなるかもしれないと期待した。

 軽い経緯台に長焦点アクロマート6cmF15を載せた。スターベースで買ったアリガタを付けているから取り外しは簡単である。街灯のLED光がもの凄く邪魔であるが仕方ない。とりあえずK25mm36倍でεを捉え、そこからOr6mm150倍に変えた。6cmで150倍は昔の基準ならやや過剰倍率であるが、現代の精密技術で作られたであろう6cmなら全く問題ない。このことは月や木星で確認済みである。

 さてεを観る。一見してあまりはっきりしない。しかしシーイングが良くなるとこれが分離して見えるじゃないか!かすかにであるが二つの星の間にそれぞれはっきりとした暗線がある。ただしこれが四重星であることを知らない人が見て、すぐにわかるかと言われればそれは疑問だ。それくらいギリギリの見え方である。

 しかしとにもかくにも自作6cmで分離することが分かったので満足した。星の乏しい空の下で小さな望遠鏡で楽しむのもいいもんだ。枯淡の境地(?)かな。


 自作6cm屈折でM13を観た(2020.04.15)

 下で書いたように自作の望遠鏡にファインダーを取り付けたから観望できる対象がだいぶ拡大された。そうは言っても光害の激しい空だから対象の限界はある。いま見える二重星をいくつか観てその見え方を確認して楽しむとやることが無くなった。先日そのような星見をしたとき少し低い空だったがヘルクレス座が登ってきていたので、M13でも見てやろうかと思った。

 肉眼では星座の形がはっきりしないのでいつものように双眼鏡で星座を確認しその方向にファインダーを向け、そこからM13のありそうな場所へと鏡筒を動かしていく。K25mmのアイピースで36倍とまずまずの倍率だ。少し探したが見つかった。

 おお!意外とはっきり見えるじゃないか。さすがはM13である。光害にも負けず小口径望遠鏡の視野で明瞭な姿を見せている。6cmであるので背景の空があまり明るくならないのも良いのだろう。FC100だともっとバックの光を邪魔だと感じるのだが、これだとそういうことは全くない。FS60ではM13を見ることなど思いもよらなかったので、これが初めて6cmで見たM13の像にもなるわけだ。

 小口径のそれも自作の望遠鏡ではっきり見えたのでとても嬉しかった。


自作望遠鏡にファインダーを取り付け(2020.03.21)

 「機材歴」のページで紹介してあるとおり数年前に6cmの屈折望遠鏡を自作した。当時は短焦点のフローライトアポも2本持っていて、実用としてはこれを使って充分に楽しんでいたのだが、ただ一つだけ不満があった。それは「筒が短くて子供の頃に憧れた望遠鏡の姿とは違う」ということである。それで自分で作ってみようと思ったわけである。そしたらこれが思いのほか上手くできて素晴らしい見え味となった。昔よくあった長焦点6cmアクロマートとはこんなに良く見えるものだったのかとあらためて思い知らされた。ただしファインダーが照門式の覗き穴だったので月と木星・土星しか見ていない。他の天体は肉眼ではろくに見えないので諦めていた。いつもは10cmアポが主力機でまれに気が向いた時比較の為に月や木星を見てみるという程度の稼働率となった。

 ところが作ってから何年も経ったつい最近、ニューイカルスで春の二重星をいくつか見ているときに、ふいに自作6cmで見てみたいという思いが出てきた。月や惑星で無類の切れ味を見せるあれが二重星をどのように見せてくれるか気になった。それで対物レンズを買ったS社にファインダーを注文することとあいなった。

 届いた日に早速取り付けてその夜にしし座γを見た。そして覗いて驚いた。回折環がほとんど見えない。しかもエアリーディスクはぎゅっと凝縮したかのようにまとまっている。同じアクロマートでもニューイカルスだと回折環がはっきり見え、それはそれで気持ちよいのだが二重星の分離に邪魔になることは事実である。
それがこの望遠鏡では違う。今風の言葉でいうとストレール比がほとんど1ということだろう。回折環の無い星が密接して並んでいるので倍率を下げてもはっきり分離する。やはりこの国産対物レンズは凄いねえ。そしてアクロマートは長焦点に限る。

 そして細長い望遠鏡への郷愁はかくも強い。細長い望遠鏡はカッコいいもんね。


 

部分日食の観測(2019.12.26)

 今日は部分日食の日だが天気予報はずっと雨マークだった。ところが起きてみると薄日が差しており昼過ぎになってもまだ太陽の姿が見えたりする。これは諦めなくてもいいのではないか、そう思って急いで準備をした。家の周囲では見えないので公園に行くつもりでいたので、友人にもそう連絡してあった。先に公園に行ってるよ、とメールをしてから2時前に家を出た。

 冬のせいかいつもは子供で賑わっている公園に人は少ない。あまりギャラリーがいても面倒だからこれでいい。ベンチの一つの前に場所をとって望遠鏡の組み立てを始めた。良い天気だったらここで連続撮影をするつもりだったが、この天気では不可能なので雲間を狙っての通常の拡大撮影に変えた。FS60CBに2倍のエクステンダーをつけてデジカメをつける。しかしここへきて急に雲が厚くなり全天ベタ曇り。太陽が顔を出せるような隙間はどこにもない。まあのんびり待ってりゃいいや、という気持ちでベンチに座る。(何か昔のカレイ釣りの日記みたいですな)

ほどなく友人の一人が来る。もう一人は自宅でやるとのこと。この曇り空ではわざわざこっちまで来る気は起きないのも当然か。この友人も太陽用オペラグラスとスマホを持って来ただけで、ほとんど手ぶらみたいなものである。ちょっとでも見えたら満足なのだろう、それは私も同じである。まして写真が1枚でも撮れればもう大成功だと思っている。

 2時半頃の日食開始は相変わらずのベタ曇りだったが、十分くらいして西の空に雲が薄くなって明るく輝いている部分が見えてきた。あれがこっちまで来れば撮影できる可能性はあるだろう。そう思ってベンチで友人とお喋りしながら待っていた。そしてその時がついに来た。友人の話を「ちょっと待って」と遮って望遠鏡のところへ行くとすぐに輝く太陽が姿を現した。友人はすぐにオペラグラスで欠けた太陽を確認した。しかし私の望遠鏡の視野にはなかなか入らない。1000mmを超える望遠レンスと同等の視野の狭さなので導入はむずかしい。

 友人の周りに親子連れが来てオペラグラスを見せてもらったらしく、欠けた太陽に感動する声が聞こえた。そしてついに太陽をとらえた!雲がフィルターの役目をしているので、バーダープラネタリウムのD3.8撮影用フィルターはつけていなかった。そこから10分ほどの間に雲間から見え隠れする太陽を何枚か撮影することができた。先ほどの親子連れが今度はこちらに来た。5歳くらいの坊やが望遠鏡やカメラにとても興味をもったらしくずっとくっついている。デジカメのモニターに写った太陽を見せてあげたらとても喜んでくれた。これで少しでも天文に興味を持った子供になってくれると嬉しいね。なお友人はスマホをマニュアル露出にして欠けた太陽をそれなりに捉え私のカメラのモニターに映った太陽をこれまたスマホで撮影して喜んでいた。これは安上がりでお得な日食観測だ。

 太陽が再び雲に隠れ親子連れが帰ったあともしばらくベンチに座っていたが、雲の色がどんどん濃い灰色になってきた。これはもう駄目だ、雨に降られたらたまらない、そう考えて撤収を決めた。観測終了。しかし当初の天気予想から見たらこれは満足すべき成果だ。友人とも「大成功だね」と言って公園を出た。


 

 

球状星団M3を久しぶりに観た(2019.04..05)

  ここのところ晴れても白く濁った夜空が続いたが、風が吹いたせいで透明度4くらいの空になった。久しぶりにミューロン180を庭に出した。月も惑星も無い空なので球状星団M3を見てみることにした。問題は微光星がファインダーですら見えないのでたどり着けるかどうかだ。ミューロン180は焦点距離が2160mmあるから、手持ちの中で一番長い40mmのアイピースを使っても50倍を超えてしまう。昔の80倍に比べたらよほどマシだが、低倍率とは言いがたい。ファインダーがあることだけが昔よりよほど有利な点なのでこれを頼りにするしかない。

 あらためて星図でM3の位置を確認した。近くに6等星と7等星で作る小さな三角形があるので、これを目印にすることにした。まずアームトゥルスをファインダーの視野に入れ、そこから大きく上へ振ってコル・カロリを入れる。それで2つの星の中間あたりまで戻って、この三角形を探した。どうやらそれらしいものを捕まえたのでM3のあるらしき辺りへミューロンを向けた。

 接眼部を覗きながら鏡筒を動かすと入って来た。懐かしいM3。中学生の頃4cmで見て以来だ。冩眞は一度撮ったことがあるが眼視ではまだ2度目。空が明るくなってしまったせいか、見え方は期待ほどではない。かつてスカイルックでM13を見たときは相当の迫力でブツブツが見えたが、それには到底及ばない。ほぼぼんやりとした彗星状である。倍率を上げても見え方は変わらなかった。それでも50年ぶりにこの目で見たのであるから感慨深さはそれなりにあった。昔の位置から数mしか離れていない同じ庭で昔と同じ天体を見ている。庭の景色も周囲の建物も変わっているが、あの時のことがまざまざと思い出された。なんだかんだで数十分は眺めていたと思う。そのあと牛飼い座の二重星、ハーシェルが全天で最も美しいというプリケルマも見て今夜の観望は終了した。

 今夜は良い夜になった。気分もスッキリした。