今更アクロマート屈折?〜ビクセンA105MUを買った(2020.12.29)
最近、新しい望遠鏡を買った。これが何と今更のアクロマート屈折である。現行で出ている商品であるから時代遅れとまでは言わないが、昔ながらの商品であるとは言えるだろう。機材歴のページでも書いたが私は長焦点アクロマートが好きである。昔欲しくて買えなかったので未だその未練を引きずっているのだろう。わざわざレンズを買って6cmF15の細長い望遠鏡を作ったほどである。安いし良く見えるしそもそもカッコイイ、良い点がたくさんある。子供向けは別として現在の国産アクロマートのちゃんとした望遠鏡はビクセンとスコープテックでしか発売されていないが良い商品が多いと思っている。
そこでまず私は国産唯一の10cmアクロマートA105Mに目をつけた。10cm屈折と言えば私はFC100Dを持っている。見え方に不満はない。ものすごく良く見える。しかも軽い。ミューロン180を持っていても主力機は気軽に持ち出せるFC100Dである。しかし不満もあった。軽いことの引き換えに見た目が貧相なのである。買って初めて見たときこれが本当に10cm屈折か、と驚いた。昔あこがれた10cm屈折とは似ても似つかない。
そこで昔ながらの設計思想が残っているであろうA105Mを見てみたくなった。これも焦点距離1000ミリでF9.5であるから長焦点とは言えない。中国製にはもっと長いしかもアポクロマートを謳う鏡筒もあるが、昔ながらということで国産品に拘る。古くはA102Mで105Mは比較的新しい製品だがそんなに変らないだろう。ついに買ってしまった。当然だがアポクロマートの半値以下の価格であった。
届いて箱から姿を現した鏡筒を見て嬉しくなった。これだよ。これが10cm屈折の貫禄というものだ。こうじゃなくちゃ。1980年代あたりだと焦点距離は1300mmあったからもっと立派だったのだろうが、今でも充分立派である。これを見た友人も同じ感想で性能を気にしなきゃ俺もこっちを選ぶと言っていた。FC100Dより重いのは当たり前だがミューロン180よりは軽いから運ぶ苦労は何もない。
さて問題の見え味、特に色収差の出方が気になるところであるがこれはやはり目立つと言わざるを得ない。覗いた経験のある4cmF20、6cmF15、8cmF11.2に比べたら10.5cmF9.5は圧倒的に不利なのは分かりきったことである。月しかじっくり見られてないのでそれで話をする。明縁にはっきりとした紫色のにじみがまとわりついて目立っている。しかし月の外側なので月面を見るのに影響はない。小さなクレーターや谷の見え方であるが、これが実に良く見える。FC100Dで見えるものは全部見えていて170倍くらいで見ると気分が良かった。違いはクレーターの中の暗部が真っ黒でなくうすーく紫の光が散らばっていることである。真っ黒に見えるFC100Dよりは像のスッキリ感は落ちる。しかしクレーターの輪郭はシャープに見えるから別に問題なし。月に関する限り分解能はアクロマートもフローライトも見えるものは同じ。見え方がちょっと違うだけである。月の眼視観測だけやりたい人はA105Mでも充分だと思う。木星なんかだと細い縞の見え方に差が出るかもしれないが今は確認できない。
そしてくだらないと思う人もいるかもしれないが、接眼レンズから目を離して目の前にそびえる鏡筒を見てると嬉しくなる。でかい鏡筒がなんとも頼もしい。俺は10cm屈折を除いているのだという喜びにひたることができる。FC100Dは小さいのでこうはいかない(同じ短くてもミューロンくらいでかければ別だ)。逆に言うとこれよりずっと小さいのにこれより綺麗に見えるものを作る技術の進歩もすごいわけだが。
金銭的余裕があればEDやフローライトのアポクロマートを買ったほうが良いに決まってるがアクロマートというだけで購入候補から外すのももったいないことである。圧倒的に安い価格でこれだけ見えたらお得ではないだろうか。
(2021年7月追記)
やっと木星と土星が見られるようになったのでA105Mで覗いた感想を書く。結論から言うと予想以上に良く見えて驚いた、というのが正直なところである。月での色収差の出方からしてもっと不鮮明になるのではないか、と思っていたがそんなことはない。さすがに木星は明るいので周囲に薄く紫の光が拡散しているが、木星像そのものはくっきりとしているので観望の邪魔にはならない。縞模様のコントラストも屈折らしく明瞭である。FC100Dに比べると細い縞の部分はちょっと見にくいかなという気はするが、並べて比較したわけではない。これはこれで10cm屈折の木星像として不満のないものである。残念ながら大赤斑は出ていなかったのでそこは評価保留、赤く色がついて見えるかも気になるところである。FC100Dだと条件によっては黒い斑点としか見えないことがある。ついでに書くとBKP130ではつねに赤く見えるのでここは集光力の差が明瞭に出ている。
次に土星だがカッシーニの空隙ははっきり見える。本体の縞模様は見えることは見えるが、FC100Dに比べると少し薄い。だが初めてこれを見た人を充分満足させる見え方であると思う。土星は木星より暗いので色収差は全く気にならない。
木星と土星に関しては眼視だけならこの10cmアクロマートで充分だと思う。価格がこれだけ安くてこれだけ見えれば買って損したということはない。これまでにも二重星などいくつか観てきたがこれらも充分楽しめる。天体写真の流行が屈折の短焦点アポを必要としたわけだが、眼視で楽しむなら別に昔のような望遠鏡でもまだまだ役に立つのだろう。
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