キス・クロダイ

シ  ロ  ギ   ス

 
普通キスと言えば投げ釣りのまず第一番の人気ターゲットだ。しかあし!私はキスが好きではない。何故ならまず第一に私の釣り場で釣れるキスは小さいからである。どんなに大きくても25cmを超えることはない。雑誌の記事によると夜釣りでは28cmくらいのが釣れるらしいが、前に書いたように私は夜釣りをしないから、そんなキスにはお目にかかったことが無い。

第二にここでは高い竿を買って遠くまで飛ばせる釣り師ほど、でかいキスを釣っているということである。金持ちしか釣れない魚なんてのに好感が持てる訳が無い。遠くまで飛ばせるというのは、確かに一つの技術として認めるが、それ以前に何万円もする高価な竿が必要であるというのではお話にならない。私もときどき高級な竿が欲しくなることはあるが、それで釣れるのがキスだというのでは二の足を踏んでしまう。

まあ、そうは言っても私は投げ釣りが好きだし、キスしか釣れない季節というのがけっこうあるから、全くキス釣りをしないという訳ではない。ただそのときは釣法も何もあったものじゃない。ただひたすら遠くへ投げるだけである。それにカレイ釣りと違ってこの時期はエサ取りが多く、のんびりしているとあっという間にエサが取られてしまう。とても忙しい釣りだ。のんびりできないなんてのは嫌なので、あまり釣りをしなくなってしまうのもこの季節である。カレイが釣れなくなってアジが釣れるまでの長い期間は釣行の回数が大幅に減ってしまう。

なぜ世の中にこんなに多くのキス好きが居るのか、未だに理解できないでいる。おそらく永久に理解できないと思う。

ただ、最近ひそかな楽しみをみつけた。近くの漁港へ行くと小さいがキスが釣れるのである。ここへ来るときはコンパクトな竿一本持って気楽な気分だ。あまり本気にならず戯れるのなら小さなキスが相手でもけっこう楽しい。これからはここへ来る機会が増えるだろう。

ク  ロ  ダ   イ

釣りを始めた人間なら一度は釣ってみたいと憧れるのがクロダイである。私もその例にもれず、むしょうにクロダイを釣りたかった時期があった。もう何年前になるのだろう。ヘチ竿の安いやつを買ってクロダイを狙い始めた。今は立入禁止になってしまったが、当時クロダイの好釣り場と言われた堤防があった。真夏の夕方になると毎日のようにそこへ通ってクロを狙った。しかしいくら通ってもクロダイは釣れなかった。他人が釣るのは何度も見たが自分には釣れなかった。アタリすら無かった。

これは道具が悪いと思った私は次に1万6千円の短竿を買った。前の竿よりもう少し竿先の柔らかいもので、これならクロダイの食い込みがいいだろうと考えた。そしてその竿を持って、再び同じ堤防へ足繁く通った。堤防の先端であるから身の回りはほとんど海である。実に気持ちの良い場所で、釣れなくてもここにいるだけで気分が良かった。そうかと思えばいきなりの土砂降りに遭って、堤防の上の景色がすべて灰色に霞んで見えたこともある。この堤防の上で経験したこと全てがいまでも懐かしい。しかしクロダイは釣れなかった。どのくらい釣れなかったと思う?三年間だ!三年間もの間、釣れないクロダイ釣りに通わせたのはいったい何だったのか。あの頃の感情は今では忘れてしまった。そして釣れぬままこの堤防が立入り禁止になってしまった。

それでも私はまだクロダイを諦めなかった。噂で聞いていた場所があって、そこは私のホームグラウンドのすぐ近くである。やはり夏休みの夕方、磯竿をもってそこに出かけた。しかしその日は風が強く、竿が風に煽られてうまく釣りができない。これはもっと軽い竿が必要だと考えた私は当時出始めたばかりの「落とし込み竿」を2万数千円で買った。クロダイ1枚を上げるのに、いったいいくら金を使ったことか。

ある年の8月の上旬、いつものようにその場所へ出ていった。釣りを始めて間もなく竿先に「コツン」という小さなアタリがあった。私は反射的に手首を返して合わせた。魚は急に沖に向かって走り出したので、私はボラかと思った。慎重にやりとりしながら寄せてくるとなんとクロダイではないか。隣に居たおじいさんにタモ入れしてもらい、クロダイは地面に横たわった。クロダイ釣りを始めて4年目にして遂に生まれて初めてのクロダイをものにしたのだった。夢のような心地だった。

その年はそれ1枚で終わりその後もう1枚追加したが、その後はまた全く釣れなくなってしまった。そしてこの岸壁のほとんどにテトラが入ってしまい、釣る場所が大幅に狭められてしまった。その後も夏のほとんどを費やしてクロを狙いに通ったが、相変わらず全く釣れなかった。いまでは私にはクロダイは釣れないのだと諦めている。

ここまで書いて来たことでお分かりだと思うが、私のクロダイ釣りはヘチ釣りもしくは落とし込みである。針の他はガンダマ一つというシンプルな仕掛けで魚と勝負するというスタイルは、ものすごく粋なものである。それにここの海は内湾だからコマセを使うのは感心しない。コマセによって海洋汚染が進むことは間違い無い。私はそういう釣りはしたくないしやめてもらいたい。

今のところはクロダイは全く狙う気がしなくなってしまったが、また何年かしたら気が変わることもあるだろう。

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