メタボリックシンドロームとはなんでしょう?

死亡原因として動脈硬化に基づく虚血性心疾患、脳血管障害が大変問題になっている。動脈硬化性疾患の背景にはいろいろなリスクがあるといわれている。LDLを下げると動脈硬化や虚血性心疾患が予防できることがわかってきたが、LDLをかなり下げても虚血性心疾患を予防しきれないことがある。動脈硬化は血管壁にコレステロールがたまることははっきりしておりこれはLDLであるがこれだけを一生懸命下げてもまだ十分ではない。以下に述べるリスクファクターが関連しあって虚血性心疾患の発症をふやしていくのだという認識からメタボリックシンドロームという言葉が出てきた。単にリスクの羅列でなく軽症の疾患の関連が原因で全体として患者さんをみていく必要があるのだろう。インスリン抵抗性をあげる肥満、中性脂肪(TG)やリスクが確立している高血圧、糖尿病、糖尿病境界型、低HDL、微量アルブミン尿などの軽症疾患の重なりが臓器疾患をおこしてきてその終末像が虚血性疾患ではないかと思われる。LDL以外の脂質代謝異常(高TG 150mg/dl以上,低HDL 40mg/dl以下)、糖代謝異常、血圧の異常(130/85mmHg以上)、肥満(BMIが25以上で、ウエスト周囲径が男性で85cm以上、女性で90cmを内臓肥満という)をメタボリックシンドロームと言っていいのではないか。25〜26%の人がメタボリックシンドロームに該当し、その方たちの12%程度が10年後虚血性心疾患を発症している。メタボリックシンドロームに該当しない方たちの発症率は1.6%くらいなので約10倍のリスクになる。診断項目の3つが重なっている方たちはかなりのハイリスクであると考える必要がある。しかし治療となるとどの程度の症状で介入するか、食事療法や運動療法を行うことでLDLを低下させる治療と同じくらい虚血性心疾患を予防できるのかは難しい問題があると思われる。やはり生活療法、生活習慣病の改善がメインで体重を減らすことで血圧も下がり、脂質代謝異常も改善し、耐糖能異常も改善してくる。

LDL T-Cho HDL TG / 5 (LDL 140mg/dl 未満)(Friedewaldの式)

近年の研究により、LDL(低比重リポ蛋白)は動脈硬化発症に関連があることがほぼ解明されている。LDLを低下させることで動脈硬化の発症が予防できることがわかり、LDL−Cの意義が確立されている。
総コレステロール値、トリグリセリド(TG)、HDL−Cの値の測定値が有ればLDLは計算できますので、高脂血症の管理には十分ある。
血清コレステロールは、VLDL(超低比重リポ蛋白)、LDL(低比重リポ蛋白)、HDL(高比重リポ蛋白)に含まれるコレステロールで成り立っている。よって総コレステロールからHDLとVLDLのコレステロールを引けばLDLのコレステロールが計算される。通常血清トリグリセリドははとんど全てVLDLに存在し、VLDLにおいてトリグリセリドとコレステロールの比は約1:5である。したがって、血清トリグリセリドの1/5がVLDLのコレステロールであると推測されるのでこれを引く。トリグリセリドが400mg/dl以上になると一部のトリグリセリドはLDLにも分布するのでこの式は使えない。300mg/dl以下の場合は計算式による数値はほとんど直接測定した数値と異なることはない。


     リン脂質:日常の病気とはあまり関係なく肝臓の病気(閉塞性黄疸)で高値になる。

     遊離脂肪酸:通常の病気で測定されることは多くなく、内分泌代謝疾患の状態の把握に参考にされる。

     酸化LDL:動脈壁にLDLが蓄積酸化されて動脈硬化発症の原因となる。動脈硬化発症の予測因子。

     レムナント:リポ蛋白の一種で、食事や肝臓由来のリポ蛋白が分解される途中のリポ蛋白。
            カイロミクロンやVLDLなどトリグリセライドの多いリポ蛋白は、酵素によりLDLへ分解される
            が処理機構が悪いと中間物質のレムナント(VLDLレムナント、カイロミクロンレムナント)が
            増える。レムナントが高いと動脈硬化が起こりやすい。

     リポ蛋白(a):1960年代に虚血性心疾患を起こす人に特殊なリポ蛋白が存在することが明らかにされた。
             遺伝子が解明され血液を固めやすい構造をしていることがわかった。50mg/dl以上は高値で、
             治療としてはニコチン酸が低下させる。


リポ蛋白はトリグリセリドやコレステロールエステルを運ぶ粒子である。それらは食事から吸収されたものか肝臓でつくられたものである。リポ蛋白にはトリグリセリドを多く含むカイロミクロン、VLDLやコレステロールを多く含むLDL(悪玉コレステロール)またHDL(善玉コレステロール)などがある。

食事のほうからの話として、食事中のコレステロール含有量はたかだか300−400mgであるが、肉の脂身や魚の油には大量に含まれ1日50−60g摂取している。これは小腸でいったん分解され小腸粘膜細胞でもう一度トリグリセライドに構成されカイロミクロンというリポ蛋白につくりかえられ、血中を流れる間に血管表面のLPLという酵素により一部分解され遊離脂肪酸となり筋肉などでエネルギー源として利用される。その後肝臓に運ばれる。
肝臓ではトリグリセリドを主体としてコレステロールも多いリポ蛋白(VLDL)を合成して血中にもどしLPLという酵素により遊離脂肪酸に分解されトリグリセリドを失いコレステロールの含有比率が多くなりレムナントからLDLといわれるようになりそのコレステロールはほとんどの細胞の表面にあるLDL受容体から細胞内にとりこまれ、肝臓では胆汁酸のもととなり、副腎ではステロイドホルモンとなり、それ以外の細胞でも細胞の構造物となって利用されている。
一般的高コレステロール血症は生活習慣でありコレステロールの過剰摂取や動物性脂肪に多い飽和脂肪酸過剰摂取で細胞のLDL受容体の働きが悪くなるため細胞のLDL取り込みが悪くなりおきると言われている。 高脂血症になりやすい人は遺伝が関与していると思われるが、食事中のコレステロールを多くしてもまったくに血中のコレステロールが上がらない非反応型の人と、反応型の人は卵1個を食べても血中コレステロールが上がってしまう人がいる。


高トリグリセライド血症は食事由来のものと、肝臓での合成由来のものがある。食事で大量にトリグリセライドを摂取すると動脈硬化をすすめるカイロミクロンレムナントが蓄積してくる。肝臓ではレムナントの脂肪や肝臓自体で合成された脂肪を利用して、トリグリセリドを主体とするが食事由来のカイロミクロンよりコレステロールの多いVLDLというリポ蛋白が合成され血液に溶け込んでくる。VLDLが上昇する疾患には原因は不明であるが、家族性高トリグリセリド血症という疾患もある。原因としてはアルコール、カロリーの過剰摂取(体重のコントロール)が重要である。糖尿病や痛風についても体重の適正化が重要である。トリグリセリドが500mg/dl未満くらいの中等度の高トリグリセリド血症の場合は、糖質の摂取が多いことが明らかにされている。トリグリセリドが脂肪であるからと脂肪摂取を減らすとその代わり糖質摂取が増しますます高トリグリセリド血症が悪化することがある。トリグリセリドが500mg/dlを越えるときは急性膵炎など発症することがある。食事中のトリグリセリド過剰が原因のことが多く、薬の効果はあまり強くなく、食事のトリグリセリド(牛肉や豚肉の脂やバター、チーズなど)を減らす必要がある。脂肪の摂取カロリーを10%くらいに制限する。1800kcal摂取する人は180kcalしか脂肪を摂取できないことになり脂肪は1gが9kcalであるので1日に20gしか摂取できないことになる。通常は脂肪摂取は30%といわれるので1/3程度になる。

HDL−Cは主要な蛋白であるアポ蛋白A-Tは肝臓や小腸で合成されこれにコレステロールやリン脂質が結合して円盤状の原始型HDLになる。原始型HDLの表面のコレステロールはLCATという酵素により疎水性のコレステロールエステルになりHDLの内部に入り蓄られHDLは球形の成熟HDLとなる。この蓄えられたコレステロールはVLDLやLDLにわたされ肝臓などの細胞(LDL受容体の60%は肝臓にある。)に取り込まれる。通常コレステロールは肝臓から分泌されて末梢細胞へ運搬されるが、このコレステロールのながれは逆になるため、コレステロール逆転送系と呼ばれる。 この系を活性化することで動脈硬化が予防できるのではといわれている。

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日医雑誌 第131巻 
2004.01.15

     メタボリックシンドロームの管理

対談: 山田信博 寺本民生

高脂血症テキスト

      寺本民生 丸山千寿子 著