2000/05/23 Vol.5 「太郎の夢」
だけど、俺は、ペルーに行って野球をしなければならないんだ。
もしあいつに会えなくても、俺はやらなければならない。
たとえサチが、俺のペルー遠征の夢を嫌って、二度と帰ってこないとしても。
夢というのは、こういうものなのでしょうか。男の生き方というのは、こういうものなのでしょうか。
男は、何を大事にして生きていけばいいのか。
太郎の考え方に感動したセリフです。
KIDのミュージカル「ペルーの野球」のクライマックスのシーン。
ペルーで野球をやることを夢見ている太郎(恭兵さん)。
それを理解できない妻のサチ(坪田さん)。
どうしてペルーに行きたがるのか?
その理由は、こうでした。
太郎が転校した小学校のクラスに、ケンカのいちばん強いやつがいた。
太郎は、クラス全員に自分の存在を知らしめるため、ケンカをし、勝つ。
太郎は、その子が今まで持っていたものを全部奪った。
休み時間に何をして遊ぶかを決める権利、誰を仲間に入れるか決める権利、
そして、その子のいちばん大切にしていたクラスの野球チームを丸ごとかっさらった。
その子はチームから離れ、太郎たちが野球をしているときは、
校舎の壁にボールをぶつけて、一人ぼっちでキャッチボールをしていた。
太郎はそのとき、声をかけてあげればよかったと思った。
ある日、太郎がヒットを打って1塁ベースに駆け込んだとき、
その子が涙をこらえて太郎たちのゲームを見ている姿が目に入った。
次に、太郎が盗塁をして、2塁ベースにすべりこんだとき、もうその子はそこにはいなかった。
次の日、その子は一家でペルーに移住することになってしまった。
あの子はきっと最後の別れの野球をやりたかったのだ。
そう思うと、太郎は、何か途方もない失敗、
一生とりかえしがつかないことをしてしまったと思った。
先生に手を引かれて出ていったその子に向かって、思わず叫んだ。
「おーい、ペルーで野球をやろうぜ!」
その子は、ふりかえってしばらく太郎を見つめると、
一瞬笑顔になり、見えなくなった・・・・
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