いつもの待ち合わせ場所。
少し離れて、君を探す。
もう約束のの時間はとっくに過ぎているけれど。
突然の夕立と、それでもやまない蝉の声と。
包まれて、立ち尽くす。
今日の花火大会の為か、浴衣を着た人達が時折通り過ぎる。
だけどその中に君はいない。
夏になってからは、短く切ったジーンズにTシャツ姿だった君。
今日もその格好で来るって言っていたのに。

待ち合わせの場所から少し離れて。
「・・・帰ろうか」
ちゃんと探せば、そこにいるのかも知れない。
そんな考えも打ち消して、呟く。
あんな事があったんだから、来るはずが無いと決め付けて。
結局、悪いのは自分だったんだと気付いて。

諦めて、その場所を後にする。
乗ってきた自転車を押しながら、雨に打たれて歩く道の途中。
ふと、今更のように気がついた。


――― あぁ、僕は彼女の事が好きだったんだ ―――





初めて会ったのは、中学の入学式。
同じクラスで隣の席だった。
彼女は初対面の僕にも、当たり前のように話し掛けてきた。
まるで、昔からの友達だったみたいに。
もっとも、それは僕にだけではなく、他の人にもそうだったけれど。
明るくて、誰とでもすぐに打ち解けられる、そんな子だった。

だけどその性格は、特に同性からはあまり快く思われていなかったようだ。
僕も、彼女の陰口を言っている人を何度か見かけたことがある。
それはもちろん、彼女自身に伝わる事もあった。
人づてにだったり、直接だったりしたけれど。

それでも彼女は、何でもないように笑って
『私はやりたいようにやってるだけだから』
なんて言っていた。

それから、2度のクラス替えを経て、3年になる頃。
僕と彼女は未だに同じクラスだった。
そして、よく二人で遊ぶ程度の仲になっていた。
何となく、気が合ったんだ僕らは。
もちろん、3年間同じクラスだから、ってのもあったのだろうけれど。
ただ、それは恋愛感情とは全く別の、純粋な友情だと思っていた。
周りに何て言われても。


今年の花火大会も、二人で行こうって話になった。
お互いに、相変わらず恋人も出来ない、なんて軽口を言いながら。



だけど、その約束は、果たされないだろうな。
僕は彼女を傷つけたから。


きっかけは、つまらない事だったと思う。
いつものように二人で帰る道で。
彼女はずっと好きなアイドルの事を話していた。
そんな事は今までほとんど無かった事だった。
彼女はどちらかと言えば男っぽい性格だったから。
そういう事に興味があるとは思っていなかったんだ。
それが僕は少しショックで。
彼女にひどい事を言ってしまった。

それはいつもの軽口のつもりだったのだけど。
彼女にはそうではなかったみたいで。
いつのまにか、激しい言い合いになってしまっていた。
そんな事をするつもりじゃなかったし、
これ以上はダメだと思っていたのに。
もう止める事も出来ずに、傷つけ合って。


『なんであんたまで、そういう事言うのよっ』

最後にそう言って走り去った彼女の目には
きっと涙が浮かんでいたんだと思う。


それ以来、僕らは会っていない。
連絡をとることも出来ないまま今日、花火大会当日。
約束の時間、約束の場所に彼女はいなかった。


「あ・・・雨やんだのか」

気がつくと、雨は上がり晴れ間が広がっていた。
・・・本当にいなかったのか?
ふと、思う。
そう、さっきは遠くから探しただけだった。
そこからでも、見つけられると思ったから。

・・・いや、それも違うのかな。
いない事を確認するのが怖かったのかも知れない。
もし、いなかったらそれで終わってしまうから。
でも、そこにいたら、何を言えばいいのかわからなかった。
だから見なかったんだ、その先を。
それで、いない事にした。

「・・・まだ、いるかな」

もし彼女が来ていたとしても、まだいるなんてありえないと思う。
だけど、ちゃんと確かめたくなった。
会って謝りたかった。

あの日のことは、つまりは僕の下らない嫉妬だったんだ。
僕が少し子供過ぎたんだ。
それを伝えたかった。
だから、もう一度あの場所へ。。。



急いで戻ったその先に。
やっぱり彼女の姿は無かった。
帰ってしまったのか、来ていなかったのか。
確かめる事も出来ないけれど。
これで終わってしまったんだってことは、分かってしまった。

「・・・あ」

座り込んで見上げた空に、虹がかかっていた。
それを見ながら、僕は、少し泣いていた。