初めてのタロット

紅王より全くタロットの事を知らないあなたへ……


 これからタロッティスト……タロット・リーダーになりたい、コレクターになりたい、でも何から始めたら良いか分からない……さあどうしよう? そう思っている人達のためにこの項を書く。あなたが既に幾つかのタロットを持っていたり、実際にリーディングや瞑想を自分なりに行っているというなら、読み飛ばしていただいても構わない。また、自分の初心を振り返ってみようと思われるなら読んでいただいて構わない。どうするかはあなたの自由だ。

 まず、普通の場合のタロットとの出会いは、書店で売られている解説書とセットのタロット・カードを求める事だろう。だが、幸いにもこのページを御覧になっているあなたは、目についた入門書セットに手を出す前に、ちょっと立ち止まって考えて欲しい。

 出会いというのは肝心である。最初に手にしたタロットと解説書がまがい物だったら、もう目も当てられない。私が初めてタロットを手にしたのは1974年の事だ。現在、『魔女のタロット』として販売されている『ジェームス・ボンド・007・タロット・デッキ』が私の最初に入手したタロットである。だが、すぐに実占の限界を感じて、間もなく渋谷の東急本店で催されたタロット展にあわせて、ウェイト版として知られる黄色い箱の『ライダー・タロット』を買い求めた。タロット・オタクとしての私の出発点はそこだった。

 その頃は日本のタロットは黎明期で、入門書も解説書も玉石混合だった。私は片っ端から買い求めて読み比べたので、信じられる、受け入れられる物はどれかという事に対して、割と客観的になれたのではないかと思う。

 1974年、その当時、輸入されたタロット・カードの値段は1500円から3000円の間だった。3000円を超えるタロットは、小学生だった私にとってはかなりの高級品だった。それから暫く、日本製で本とカードのセットで1000円を切る商品が登場した。私は中学生になっていて、教室のタロット・リーダーとなっていたが、その本を買って、にわかタロット・リーダーになる同級生が何人か現れた。

 タロットに関する物なら何でも買っていたという私もその本は買ったけれども、そのカードを実占に使った事はなかったし、本の中身もあまり参考にならないと思った。また、その本を元ににわかタロット・リーダーとなった同級生達も、暫くするとタロット占いをやめてしまった。しかし……

 最近、私より年上の知人(別にタロッティストでも占い師でもない人だが)から、今でもタロットの占い上の意味はその本の解説で覚えていて、他のタロットを使っても意味はその本に従っているという話を聞いた……こいつはビックリ!

 「序説」にて、私は複数のタロットを使い分けていると書いたが、どのタロットを使っても意味が同じになるなら、タロットを使い分ける意味など無い。試しに大アルカナ6番「恋人達」のカードを、私が使っているカードから並べてみよう。恋愛問題についてリーディングして欲しいというクライアントには、それを見せて、
「どのカードを見ると一番ポジティブになれますか? 単に好き嫌いで構いませんよ」
と言って選んで貰うのだ。

    

 さて、あなたならどれを選んだだろう? というか、この違った絵を見て、そのカードの指し示す意味が全く同じだなどと思う人がどれぐらいいるのだろうか? 同じ意味だと思うのならそれでも良いが、私には同じには思えない。また、タロットの作り手が同じ意味を込めるのなら、もっと似たような絵になって然るべきであろう。

 この知人の例、そしてにわか占い師になりながらタロットから離れてしまった同級生の例は、タロットと幸運な出会いが出来なかった例である。幸運な出会いではないから長続きがしない。では幸運な出会いとは何だろうか? その第一は「本物」のタロットを手にする事だ。本物とか偽物という言い方は適切ではないかも知れないが、私は何はともあれ本物のタロットと出会う事が出来た。それはタロッティストとして一生の宝物なのだ。

 では、初めてのタロットとして手にしたら良いと、私こと紅王のお勧めするタロットを紹介しよう。あなたがコレクターになるにせよ、タロット・リーダーになるにせよ、タロットとは何だろうかと思うなら、まず、この二つは手に入れて置いた方が良い。

 それは通称ウェイト版と呼ばれる『ライダー・タロット』とマルセイユ版として知られる『アンセン・タロウ・ド・マルセイユ』である。

 私がどうしてマルセイユ版とウェイト版をお勧めするのか? それはこの二つが、タロットとはどういう物かの全体像をつかむのに一番向いていると考えるからだ。

 マルセーユ版は、幾つかの作画のバリエーションを持っていた古典タロットが、17世紀に、一つのスタンダードとして纏められた物だ。それ以後のタロットは多かれ少なかれ、マルセイユ・タロットを基礎として出来上がっている。以後、ヨーロッパに流布したタロットは、一部を除けばマルセーユ版のバリエーションである。

 一方、ライダー・ウェイト・タロットはドーバー海峡を越えて英国で出版された初めてのタロットである。20世紀以降、特に英米では、このウエイト版のバリエーションが数多く作られた。おそらく、現在までの最大ベストセラー・タロットである。そして初めて魔術結社「黄金の夜明け」の魔術的カバラの体系が密かに盛り込まれたタロットである。(「黄金の夜明け」とカバラについては、今は教えない。この教理の理解は初心者の手に余る)

 マルセイユ・タロットが古典タロットの一つの完成形であるとすると、ライダー・ウェイト・タロットはその後に続くモダン・タロットの先駆けとなったタロットである。しかるがゆえに、初心者はこの二つのタロットからとりかかるのが良いと私は思う。タロット・リーダーになるとしても、コレクターになるとしてもである。

 では実際にカードを見てみよう。大アルカナの中でも番号が与えられていないか、0番の番号が与えられている『愚者』の札……左からマルセイユ・タロット、右がウェイトのライダー・タロットだ。

  

 ここに紹介したマルセイユ版は、グリモー版とも言われる、17世紀の木版画タロットを元にした復刻版だ。ライダー・ウェイト・タロットの方は、アールヌーボー調のフルカラーの絵画で、20世紀になってから英国のライダー社より初版が出版されている。私はマルセイユ版の愚者には文字通りの愚行とか落伍者のイメージを強く持つけれども、ウェイト版の愚者には、肯定的な自由人のイメージを持つ。

 だが、マルセイユ・タロットとライダー・ウェイト・タロットの最大の違いは大アルカナよりもむしろ小アルカナにある。百聞は一見にしかず。小アルカナからソードの8を見比べてみよう。

  

 こうして比べれば一目瞭然。ライダー・ウェイトのソードの8には、目隠しされた女性の回りに八本の剣が突き立てられている様子が描かれている。絵を見ただけで、敵中に孤立する、包囲されるね人質を取られる……その他諸々のイメージを発送する事が出来る。マルセイユ版ではどうか? ただ、八ふりの剣を組み合わせた幾何学模様だ。

 小アルカナは基本的にトランプ(プレイング・カード)と何ら変わるものではない。ウェイトによる小アルカナの総絵札化というのは、賛否両論があるにせよ、タロット史上の一大エポックであった事には間違いない。

 とにかく、小アルカナを総絵札化したライダー・タロットの出現によって、占いのカードとしてのタロットは爆発的な普及を始める事になる。アーサー・エドワード・ウェイトとパメラ・コールマン・スミスによって作られたライダー・ウェイト・タロットは、おそらく史上最高のベストセラー・タロットであり、その系列に入るウェイト系タロットのバリエーションは現在まで数多く作られている。マルセイユ・タロットがタロットのベーシックであるとしたら、ライダー・ウェイト・タロットはタロットのスタンダードである。

 ひとまず、ここで整理するならば、現在世界に流通していて入手可能なタロットの中には、マルセイユ・タロットに代表されるような小アルカナが数札で構成されているデッキと、ライダー・ウェイト・タロットの系譜にある、小アルカナを総絵札化したタロットの二種類が存在するのだと押さえておいて貰いたい。両者の入り口として、ウェイト版とマルセイユ版の二つをコレクションや実占の出発点とする事を私としてはお勧めする。現存する殆どのタロットが、この二つのデッキをベースにして作られているので、数多くのタロットに出会う入り口としては最適であると私は考える。
 さて、実際にこの二つのタロットを手にした方ならば、小アルカナが数札であるか絵札であるかという以外の違いを御存知と思う。それは大アルカナの並び順が一部異なっているという事だ。マルセイユ版では8番に位置する「JUSTICE(正義)」と、11番に位置する「FORCE(剛毅)、又はSTRENGTH(力)」の札の順番がライダー・ウェイト版では入れ替わっている。


マルセイユ版、ウェイト版の入れ替えられた「力」と「正義」


 この8と11の入れ替えは、実はウェイトの独創というわけではない。詳しくは「大アルカナの考察」、及び「タロットと魔術」の項で詳述するが、この入れ替えはある秘教的なオカルト体系に基づいて行われている。その理由については初心者に説明するのは難しい。もう少し、タロットに慣れ親しんでからの方が良いであろう。とにかく、ウェイトの独創ではないとしても、この入れ替えの解釈で出版された最初のタロットがライダー・ウェイト・タロットである。タロットの中には8と11のポジションについて異なる解釈があるという事を覚えておいて欲しい。

 実は、全てのタロットをマルセイユ系とウェイト系に分ける事は出来ない。これも詳しくは「タロットの系譜」その他の項で詳述するが、1970年代以降、ニュー・エイジ・ムーブメントと共に様々なニュー・タロットが生み出された。また、公にされてこなかった魔術的なタロットが復刻されたり公開されたり、新作が描かれるようになった。有名無名の画家やイラストレーターが、作品の素材としてタロットを取り上げる事も多くなり、単に古典タロットとしてのマルセイユ系、モダン・タロットとしてのウェイト系という分け方には入らないタロットが増えたのだ。少なくとも、魔術系、スピリチュアル系、芸術系というような分類が可能であるし、魔術系タロットはその秘教体系のベースの違いによってやはり一括りには出来ない。いずれも、単なるコレクターとして、しかも象徴的な意味などは無視して、そのデザインだけを楽しむのなら差し支えはないが、もしもあなたがタロット・リーダーとしてそれらのデッキを使いこなしたいなら、魔術系やスピリチュアル系のタロットは初心者の手に余る。まずはマルセイユ版とウェイト版になれておく方がよい。

 魔術系タロットについては、また別項で詳述するが、それらの魔術系タロットのベースとなっているのはやはりマルセイユ版であり、ウェイト版はある意味で、魔術的体系によって作られたモダンタロットの先駆けとでも云うべき物だ。そう言う訳で、あなたがタロット・リーダーになるにせよ、コレクターになるにせよ、まずはマルセイユ版とウェイト版にふれる事をお勧めするのである。

 さて、タロットのリーディングについては、「実占タロット入門」で始めようと考えているが、
「そんなの待っていられない。すぐにでも占いを始めてみたい」
と言う方のために独習書を御紹介しておく。

 占いに用いるなら(特に78枚フルセットを使った占いをしたいのなら)やはり全てが絵札になっているウェイト版を使うのがベターであろう。ライダー・ウェイト・タロットを対象にしたタロット占術の指南書というのは数多く出ているが、私としては、まず、イーデン・グレイの三部作、『啓示タロット』、『皆伝タロット』、『自在タロット』を順に読んでいく事をお勧めする。故・イーデン・グレイは近代タロットの母とまで言われている人で、現代のタロット解釈からは少し古いと感じるかも知れないが、所謂、タロット占いの心得のような物を知るには最適の書だと私は考える。この三部作は、順に読んでいくと、入門編、初級編、中級編という具合に上達していく事が出来る。
 グレイの三部作を読んだら、ウェイト自身の筆による、邦訳『新・タロット図解』に目を通しておき、最新のタロット解釈とメソッドを知りたければ、ジョアン・バニングの『ラーニング・ザ・タロット』に進まれるのが宜しかろう。日本のタロット占者の本としては藤森緑の『タロット・リーディング』もお勧め。
 マルセイユ版を実占に使いたいという方には、伊泉龍一氏とジューン澁澤氏の『リーディング・ザ・タロット』が最適であろう。1970年代にマルセイユ版専用解説書として書かれた『運命の書』(岡田夏彦・編/コーベブックス)もあるが、こちらは殆ど入手困難である。マルセイユ・タロットはそもそも占いや魔術の為に作られた物ではないので、ウェイト版がマルセイユ・タロットの何を改変したのかという事を遡及的に考察した方が理解には早いであろう。
 さて、次回はタロットの歴史を辿りながら、マルセイユ・タロット成立以前の古典タロット、マルセイユ版からライダー・ウェイト・タロットを繋ぐエソテリック・タロット、次々と公開された魔術的タロット、ニュー・エイジ・ムーブメントと共に多くのバリエーションに満ちた名作タロットを御紹介しようと思う。

 では、素晴らしきタロットライフを!


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