東京高等裁判所 その10

懲戒解雇手続及び相当性に関する判断の誤り

相当性を欠く懲戒解雇処分 

  1. 一審判決は、前述のとおり、各懲戒事由につき、誤った判断をし、上記各懲戒事由の存在を前提に、@「これら一連のTの行為は、いずれもコニカの正当な業務を著しく妨害し、または妨害しようとするものである。」(判決書)A「事後の対応をみても,Tは,上司らから再三にわたり注意を受けたが,これに反抗するばかりか,上司を威嚇するような粗暴な言動を行い,真摯な反省を示さなかった。」(判決書)と判示し、「Tの行為態様や事後の対応を見ると,Tに今後の改善を期待することは困難といわざるを得ない。Tは過去にコニカから懲戒処分を受けた前歴がないことを考慮しても,懲戒解雇を選択したことは,裁量を逸脱したものとはいえず,本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるとは認められない。」(判決書)と判断している。
  2. しかし、前記@の判示は、前提となる懲戒事由がないから、失当である。また、前記Aの判示は、一審判決が理不尽な干渉に対するTの言動をもって、「上司注意に対する反抗」であると認識していることを示しており、かかる認識自体不当で誤ったものであることは、既に指摘したとおりであるから、失当である。
  3. 本件懲戒解雇処分の真の理由は、コニカが労働争議におけるTの強固な姿勢を嫌悪したため、懲戒解雇処分をしたものであることは、明白である。それ故、一審判決が本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たらないと判断したことは、コニカの労働争議を嫌悪して行った本件懲戒解雇を是認したものと評されるべきであるから、その不当性は、極めて重大である。
  4. Tは、それまで何ら懲戒解雇処分を受けたこともなく、かえって、業務において表彰されていたのであるから(甲11の1、2)、労働問題に関して生じていた軋轢、対立を除けば、業務態度に何らの問題もなかった
  5. 懲戒解雇は、刑罰に例えるなら、労働者にとって、極刑に相当するものであるから、仮に、懲戒解雇事由に該当する事実があったとしても(本件においては、その事実はない。)、直ちに、懲戒解雇処分を行うことが肯定されるものではない。懲戒解雇が相当であるとされるためには、@懲戒解雇に相当する程度に行為や結果が重大であること、A従前の処分歴等に照らし、懲戒解雇処分以外に他に選択しうる懲戒の種類がないこと、等の要件が肯定されなければならない。
  6. ところが、本件では、上記いずれの要件も満たしていないから、本件懲戒解雇処分は、明らかに懲戒権の濫用であり、無効である。
  7. 以上のとおり、本件懲戒解雇処分は、著しく相当性を欠き懲戒権の濫用により、無効であるにもかかわらず、一審判決は、本件懲戒解雇処分を有効と判断したのであるから、明らかに誤りである。
  8. よって、一審判決は、取り消されるべきである。

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