よい子ってどんな子?

初瀬基樹

このところ少年による事件が多発しています。名古屋の恐喝事件に続いて、つい最近の共に17歳の少年が引き起こした2つの事件、いずれもかなり衝撃的でした。しかし、数年前に神戸で起きた中学生の事件以来、もう何が起きても不思議じゃない時代なんだなという気がしていて、こうした事件が起きても驚くというより、「またか」という思いの方が強く、むしろ、こうした事件が報道されることにより、各地で似たような事件が続発しそうで、その方が心配な気がします。

 こうした未成年者の事件が起きるたびに、子どもに携わる仕事をしている者として自分の仕事の責任の重さを感じます。「保育園なんて小さい子どもばっかりだから直接には関係ないでしょう」と思われるかもしれませんが、実はこの幼児期をどのように過ごしたかが、その後の子どもの人格形成に大きく影響を及ぼすとも言われており、こうした研究も進められているようです。

 こうした事件を引き起こした子どもの多くは、その子を知る人たちによれば「あまり目立たない子」もしくは「おとなしくてよい子」しかも「成績は優秀」だったようです。また、登校拒否や不登校なども含め、トラブルを起こす子どもの親は意外と「先生」と呼ばれる仕事(教職員、医師、保育士など)をしている場合が多いという話も聞いたことがあります。もちろん、これは単なる統計の結果であって、全部が全部そうであるというわけではないのでしょうが。

 それにしても、こうした事実はいったい何を意味しているのでしょうか。おそらく、そのような家庭の子どもは人一倍、世間から認められる「よい子」でなければならないという周りからのプレッシャーが強く、それによって、その子の人格が歪められてしまう傾向にあるのではないでしょうか。今の日本において、世間一般で考えられる「よい子」と言えば、まず「勉強のできる子」「先生や親の言うことをよく聞く子」でしょう。そういう子は、ほめてもらうために、あるいは好かれるために自分の気持ちを押し殺して、親や先生の顔色を気にしながら行動することが多いのではないでしょうか。それが、思春期になって自分の思い通りにできないことが過大なストレスとなって何かのきっかけで爆発してしまうのだと思います。それとは逆に、小さいときから自分の意見をしっかりと持って自己主張をする子どもは「わがまま」とか「反抗的」と、むしろ「悪い子」にされてしまいます。でも、意外とこういう子どもの方が、友達からは人気があったり、いざというとき頼りになる子どもだったりしますよね。こう考えると、子ども自身の問題ではなく、まわりの大人のその子に対するかかわり方が非常に問題だということに気が付きます。

 また、少し話はそれますが、教育者と呼ばれる人ほど子どもに対するスキンシップが足りないという話も聞きます。「甘えさせる」ということは非常に大事なことなのですが、「甘え」よりも「教育」を大事にしてしまい、頭は良くなっても、心がしっかり育っていないということが多々あるようです。医学博士であり、子どものことを研究し、保育会では有名な平井信義先生によると、「体での甘え(スキンシップ)に対しては、その子が満足するまで充分に受け入れなさい。そのかわり、物の要求(たとえば、おもちゃ買ってとか、お菓子ちょうだいなど)に対しては、きちっと限界を決めて何があろうとそれを守らせなさい」とおっしゃっています。登校拒否だとか言葉の遅れ、ノイローゼなどの問題を抱える子どもの多くは、スキンシップが不足している例が非常に多いのだそうです。「心の健康」に大きくかかわる「情緒の安定」にはスキンシップは欠かせないのだそうです。

 話をもどして、まずは「よい子」という考え方自体を変えていく必要がありそうです。からたち保育園では「言うことを聞く子ども」を育てるのではなく「納得して自分で行動できる子ども」を育てたいと思います。まずはいろんな体験を通して、自分の思ったこと、感じたこと、やりたいこと、好きなこと、嫌いなこと、やりたくないことなどなど、素直に表現できるようになってもらいたい。これは言葉だけでなく、小さいうちなら表情やしぐさ、態度など、あらゆる方法を使って表現してもらいたい。まずはそうやって気持ちを外に表すことを大切にしたい。そして、その子の思いを全力で受け止めてあげたいと思っています。例え、それが不可能なことであっても「それがしたかったんだね」とその子の気持ちに、心から共感してあげられる保育者になりたいと思います。その上で、「きまりだからこうしなさい」ではなく、出来ない理由を話したり、別の方法を探したりして、その子が「あきらめる」のではなく「納得する」方法を一緒に探してあげたいと思います。そのようにすることにより、子どもたちが「言われたからする」のではなく、場面や状況から自分で判断して「必要だからする」ようになっていってほしいのです。

 また、何かに取り組むときも、出来た子には○、出来ない子には×、といった方法ではなく、どうしたらその子がやりたくなるか、また出来るようになるかを一人ひとりに合わせて考えてあげたい、本当に一人ひとりを大切にする保育を心がけていきたいと考えています。保育園時代には何より「心」を育てることが重要だと感じています。子どもを「よい子」「悪い子」で見るのではなく、どの子にも長所、短所があり、短所を探して注意するのではなく、出来るだけ長所を探し、良い部分を伸ばしていってあげる、そんな保育を心がけていきたいと考えています。




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