なぜ薄着が大切か

初瀬基樹

 このところ、急に朝晩冷え込んできました。そのためか、厚着の子どもが増えたように思います。もちろん、朝の寒い間は仕方ないと思うのですが、先日、子どもたちの様子を見ていて少々気になることがありました。その日は、朝のうち冷え込んで寒かったのですが、お昼頃になると気温も上がり、外にいるだけで汗ばむぐらいの暑さになりました。その暑い中、子どもたちは汗をかいているというのに、長袖を着たまま遊んでいるのです。それだけ遊びに熱中していたのかもしれませんが、上着を1枚脱ぐくらいのことは出来そうなのに、と思いました。また、外遊びの後、着替えをしているときにも、わざわざ、長袖を着ようとしている子が何人もいたのです。「暑くないと?半袖でよかよ。」と声をかけて、初めてハッと思い出したように半袖に替えたり、上着を着るのをやめたりしていました。そんな姿を見て、「もしかしたら、この子たちは、暑さ、寒さを感じる力が鈍っているのかもしれない。」と不安になったのです。

 そのことと、普段の「薄着」が直接結びつくかどうかは、わかりませんが、今後ますます冷え込んでいくなか、薄着の大切さを少しでも多くのご家庭にご理解頂けたらと思い、今回は「薄着」について少し詳しく 考えてみることにしました。


そもそも薄着はなんのため?

 私たちの園では「薄着」を“健康なからだ作りのための鍛錬(たんれん)の一つ”と考えています。一般的にどこの保育園でも、子どもの健康なからだ作りのために、薄着、外遊び、散歩、体操などが行なわれています。なかには、真冬でも裸、裸足、乾布摩擦、冷水摩擦、冷水浴など、いろんな鍛錬法を保育に取り入れて実践している園もありますが、我が園では、比較的取り組みやすい「薄着」と「外遊び」や「散歩」、季節によって「裸足(特に意識しているわけではありませんが、園庭であそぶときは大体裸足になっています)」などを子どもたちの健康なからだ作りのために取り組んでいます。

 また、「薄着」=「動きやすい」ことも重要なポイントです。少しぐらい寒くても、からだを動かせば、からだは暖まります。多少の寒さなら、子どもたちには外で元気に走り回って遊んで欲しいと考えています。


薄着にすると、どうして健康なからだが作られる?

 もともと人間も動物の一種なので、「暑さ」「寒さ」に対する防御反応を持っています。薄着にすることで、皮膚は「暑い」「寒い」などの適度な刺激を受けることになり、それによって本来持っている防御反応がより高まっていくのです。
 
 皮膚には、身体の内部の保護と共に、外界の温度を即座に脳(間脳)に知らせ、体内の温度をいつも一定に保とうとする働きがあります。暑ければ、皮膚の血管を広げて血液の流れを多くし、体温を発散させようとします。それでも不十分なら、汗をかいて体内の余分な熱を発散させ、体温を下げようとします。寒い時は逆に、皮膚の血管を収縮させて熱を逃がさないようにします。このように、皮膚が敏感に「寒い」とか「暑い」という「刺激」を受けることで、血管の収縮、拡張といった働きが繰り返され、徐々にその働きが素早く行なわれるようになっていきます。こうして自律神経がバランス良く発達していくのです。自律神経のバランスが良くなると内分泌が盛んになり、免疫力も強くなっていきます。免疫力が強くなることで「病気になりにくい健康なからだ」になっていくというわけです。

 では反対に、普段から厚着に慣れているとどうなるかといえば、外の気温の変化を捉える皮膚の感覚器官が鈍くなり、自律神経の働きも鈍り、免疫力も強くなりません。また、厚着で暖かすぎると、身体の放熱反射(体熱を放射する反射)が強くなり、逆に冷え込んでしまいます。冷たい風にあたったりすると、厚い衣類を着ている人はすぐに体温が奪われやすくなってしまうのです。その結果、風邪もひきやすくなってしまいます。普段から薄着を心がけていれば、しょっちゅう訓練しているようなものなので、体温は奪われにくくなります。


実際にはどうすれば?

 衣類は、「寒さからも厚さからも身を守る」ということを考え、適当な温度、通気性があるものを選ぶべきです。直接肌に触れる衣服については、やはり「綿」のものがよいと思われます。

 さて、実際に着せる服の枚数についてですが、これが結構難しいのです。目安は「大人より 1枚少なく」と言われていますが、基準になる大人によって、子どもの服の枚数も変わってしまうのですから、一概には言えません。寒がりの人がいれば、暑がりの人もいる。男性と女性でも異なるでしょうし、年齢の差によっても異なるでしょう。ただ、「子どもは大人よりも体温が高い」ということと、「よく動く」ということを頭に入れておき、もう1枚着せようかどうか迷った時は、その日の天候、気温、湿度の状況、そして子どもの健康状態、生活や遊びの状況を観察しながら、子どもが元気に動き回っているようなら、それ以上着せる必要はありません。

 もちろん、子どもによって個人差を考慮しなくてはいけませんし、体力や健康状態によっては、逆に病気になることもあり得ますので、無理は禁物ですが、つねに頭の片隅に「薄着を心がけよう」と気に留めておいて頂ければと思います。

 保育園にいる間は、保育者が配慮して調節していきますが、出来るだけ、子どもが自分で調節できるように「自分で脱ぎ着しやすい服」を着せるようにしてください。また、気温の変化に応じて対応できるように「着替えの用意」もしっかりお願いします。

《参考文献》
◇    大阪保育研究所 年齢別保育研究委員会編 『年齢別保育講座 1歳児の保育』 あゆみ出版
◇    日本保育園保健協議会 編 『保育保健の基礎知識』 日本小児医事出版社




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