1/2+1/3=2/5?

初瀬基樹

 からたち学童クラブ(学童保育)の発足に伴い、先日、学童保育の担当になった井くんと一緒に、静岡で開かれた学童保育研究集会に参加してきました。私達が一番楽しみにしていたのは、汐見稔幸先生(東京大学大学院教育学研究科教授)の講演でした。その講演の内容をかいつまんでご紹介します。

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<「幸せになるための方程式(日本型産業社会)」の崩壊>

 これまでの日本型産業社会の仕組みは、「いい学校」「いい会社」に入りさえすれば、定年まで働けて、年々昇給していくというシステムで、それが「幸せになるための方程式」でもありました。就職する人は得意分野を持つことよりも、器用に何でもこなせることが求められ、学校においても、社会に出て直接生きるような知識を学んできたわけではなく、むしろ「忍耐力」「容量の良さ」を学ばされてきました。それは欧米というモデルがあったために、欧米に追いつき、追い越せと努力をすれば良かったからですが、今や、日本は欧米と肩を並べるほどになってしまったため、先を行く「モデル」がなくなってしまいました。これからはどこの国にも無いような新しい物を創り出していかなければならないのです。しかし、日本の学校のシステムは相変わらず、「先生と同じように答えなさい」「参考書と同じように答えなさい」というものであり、新しい発想を求めるような訓練をしてきていません。

 また、少し前までは受験戦争と言われるぐらいに、大学へ入るのに必死で勉強しなくてはなりませんでしたが、今や少子化が進み、大学(全ての)の定員と受験する子どもの数がほぼ同数になってしまいました。ということは、ぜいたくさえ言わなければどこかの大学に入れる世の中なのです。大学側もつぶれるのを怖れてどんどん入試を易しくしてきました。当然のことながら、日本の子どもは勉強をしなくなってしまったのです。世界中の16歳の子どもを対象に学習に関する調査をした結果、日本の子どもは成績では8位であるにもかかわらず、家庭での学習時間は平均25分と最下位だったそうです。

 こうした世の中で、今何をやったらいいのかわからない若者が増えています。「どうしたら大人になれるのか」「どうしたら幸せになれるのか」わからないのです。40代、50代がリストラの対象とされていますが、失業率が一番高いのは実は20代なのです。フリーターになるのでさえ、競争しなくてはならない。フリーターにもなれず、社会に適応できない若者が急増。いわゆる「ひきこもり」です。ひきこもりは現在100万人を突破したといわれています。昔のような「幸せになるための方程式」の崩壊、新しい方程式も見つからず、また、自分が本当にやりたいものを見つけるような訓練をしてこなければならなかったのに、してこなかったためにこんな状況が生まれてきているのです。

<これからの子育ての目標>

 子どもに「大きくなったら○○になりたい!」という夢をもたせること。そして、「あなたならできる!」と認め、励ましてやること。偏差値教育から脱却し、子どもが将来に夢を持つことが大切です。またその夢を育んでやることが大人の務めなのです。

○ 夢を育むとは?


 テレビなどのマスコミは「世の中、大変だ、大変だ(オゾン層の破壊、温暖化、環境ホルモン・・・)」と騒ぎ立てるばかりで、その解決策を子どもたちに伝えようとしていません。もっと大人自身が「世界は希望に満ちている」と信じ、子ども達に伝えていくことが必要ではないでしょうか。例をひとつ。黄河の砂漠化をくいとめようと、日本人ボランティアがポプラの木を1本1本植え始め、はじめは現地の人からも奇妙な行動としか捉えられませんでしたが、次第に木が根付き、今や現地の人も応援してくれるようになり、300万本の木が育っているそうです。このような現場を実際に子ども達に見せてやり「人間も捨てたモンじゃない」という気にさせることが大事です。夢を一生の仕事にしていけるように、また、自分の人生を自分で切り拓いていくことのできる力を育てることが大事なのです。

○ 自尊感覚を育てる。

 自立心を育てるためには「自分の行動は自分で選ぶ」という感覚が必要です。「自分(私)は自分(私)の主人公でなければならない。」
 例えば、保育の方法でも、「日本」と、個を大切にする「イギリス」では違います。散歩に行く場面を例にとってみると、日本では「さあ、お散歩に行くから、おしっこして、ちゃんと並んで!」となるのが普通ですが、イギリスでは「これからお散歩に行くよ。Aちゃんは行く?Bちゃんは行く?Cちゃんは?・・・」と一人ひとりに尋ねて、自分で判断させます。行かないときは、なぜ行きたくないのか自分で判断して言えるようにしているとのこと。「選んだのはボクなんだ!」と思えることが大切なのです。

○ 子どもの「自己主張力」を課題に。

 大人は「提案」をする。子どもはその提案に対し、自分はどう思うか「主張」する力を育てなくてはなりません。「どんな子どもに育ってほしいですか?」と日本とアメリカの親に尋ねると、日本の親は「親の言うことを聞く、素直な子になってほしい。我慢強い子になってほしい」という答えが圧倒的に多いとのこと。それに対し、アメリカの親は「リーダーシップを取れる子どもに、自己主張ができる子どもになってほしい。」と答える親が多いとのことでした。このことからも、日本の育児は「子どもを型にはめようとしている」ことがわかります。もっと「いやだ!」と言える力をつけなければなりません。子どもを育てるには、これらの両方(素直な姿勢や我慢強さと、しっかり自己主張ができる力)が必要なのです。

 また、「聴く」という姿勢が育児にはとても大切なことです。違う意見を引き出すように、自分の思いを自分の言葉で、根拠を持って言えるようにしていかなくてはなりません。「思いつき」は「主張」ではないのでご注意を!

 以前、分数計算のできない大学生のことが話題になりましたが、そのことを例にとってみても、「1/2+1/3=」の答えは、数学的には「5/6」が正解ですが、考えようによっては 「2/5」でも正解ではないかという説もあります。例えば、甘柿と渋柿がお皿にのっているとします。Aのお皿には、甘柿、渋柿それぞれ一つずつ、Bのお皿には甘柿が一つ、渋柿が二つ。(図参照)




 Aのお皿では甘柿と渋柿1個ずつだから、甘柿をとる確立は「1/2」、Bのお皿では甘柿 1個と渋柿2個だから、甘柿をとる確立は「1/3」。これらの柿を全てCのお皿にのせて、甘柿をとる確立を考えると、答えは「2/5」ということにならないでしょうか?

 「正解」、「間違い」だけでなく、「どうしてそう思うのか」を子どもに尋ねてみると、こうしたおもしろい発想が生まれてくるかもしれません。現在、一部の大学などでも、こうした様々な「表現」、ユニークな発想を求めるという試みが始まったところもあります。様々な表現を認めてもらうことで、さらにユニークな発想が生まれてきます。その子らしい「表現」というものを大切にしていかなくてはなりません。

○ 夢を育み、自分の道を切り拓くためには

 まず、その原動力となる「好奇心」を育て、「様々な体験」「本物の文化」に触れることが大切です。自然の中へ連れ出し、「おもしろい!」と思える体験をたくさんさせましょう!

○ 大人がモデルを示してやる。


 子どもが夢を持つためには、やはり、大人自身が「生きるって楽しい」という姿、親の生き様を見せていかなくてはなりません。今や、学校は学校だけで成り立たなくなってきました。もっともっと地域や親と支え合っていくことが必要です。「自助、公助、協(響)助」が必要なのです。「生きるってこういう事なんだ!」と子ども達に見せていくことが大切なのです。

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説明不足でわかりづらかったかもしれませんが、ぜひともみなさんにお伝えしたいと思い、こんなにも長くなってしまいました。

「子どもに夢を!自分の道を自分で切り拓く力を!」




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