汐見先生の講演会に参加して

初瀬基樹

 先月25日(金)の汐見先生の講演会は、パレアホールにおいて、予想を上回る230名もの方に参加していただき、大好評のうちに終えることができました。

 たくさんの興味深いお話が聞けて、私自身大満足でした。中でも、私が近年とても気になっていた「少年たちによる残酷な事件はなぜ起こるのか、どうやったら食い止められるのか」という疑問に対する答えというか、ヒントが得られたことは大収穫でした。

 それは、「人間というのは違う側面から見れば、哺乳類のなかで、これほど残虐性をもった動物はいないと考えられる。自分たちが生きるために他の動物を殺して食べるのは、ライオンなどでもそうだが、趣味で狩りをしたり、戦争や、喧嘩などで仲間を殺したりする動物は人間以外にはいない。しかも、人間は地球上に存在し始めてから、現代にいたるまで、ずっと仲間を殺し続けてきている。人間とは、そもそも本能的にそのような凶暴性を秘めた動物なのである。しかし、その本能がむき出しになってしまうとすぐに人類は滅びてしまうので、その凶暴性を抑えるための子育て文化を築いてきたのではないだろうか。すなわち、母親が無条件の愛情を与え続けて赤ん坊を育てるということにより、子どもは愛された経験から人を愛するようになる。つまり、『愛』が歯止めとなって凶暴性を押さえ込んでいるのではないか。ヒットラーは0歳児のときから厳しい体罰で育てられていた。10年前に起きた神戸の連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇少年も厳しい体罰で育てられていた。このように、幼少期に無条件の愛情を注いでもらえずに、虐待を受けたりして、そのまま成長すると人間が本来持っている凶暴性が表に出てきてしまうのではないか。」というのです。

 さらに、少年鑑別所にいるような子どもたちに共通していることは、「ある体験の欠如」であり、そのある体験とは、「満天の星空を見て感動した」とか「日の出、日の入りを見た」とか、「時計を見ながら時間の流れの中の自分を考える」あるいは、「死というものを深く意識する」といった「自然体験や神秘の世界について深く考える」という体験で、やはりそういった体験を子どものときにたくさんしておくことが大切なのだそうです。

 「現代は、まわりをすっかり人工物に囲まれて生活しているが、できるだけ生の自然体験や体をたくさん動かすことによって、身体も健全に成長するし、精神も健全に育つ」とのことでした。

 「当たり前に愛される」という体験や、「昔ながらの自然体験、遊び体験」をもう1回大事にしていかなければと思います。

 幸いにも、わが園は、周りを自然に囲まれ、それだけでも、とても恵まれた環境にあります。また、わが園の保育方針としても、生の自然体験や、体をたくさん動かすことを大事にしていますし、ご家庭でももちろんのことと思いますが、保育園の職員も子どもたちに愛情をたっぷり注いでいます。汐見先生のお話を伺って、まだまだ足りない部分もあるけど、根本的に「うちの保育園ってやっぱりいい園だよね!」と再認識することができました。


 それから、講演会の際に購入した汐見先生の最新の著書『親子のハッピーコミュニケーション』という本にとても参考になることが載っていたので、ご紹介します。


 汐見流親子会話術・基本の4つのステップ
 
  1. きく Listen
  2. 共感する Sympathize
  3. 考える Think
  4. はげます Empower

 これらの頭文字をとって、LSTE方式とし、このLSTE方式で会話をすることを意識すると、親子だけでなく、夫婦間の関係も友人との関係も、今までよりずっとうまくいくようになるはずです。

 くわしくは、ぜひ、この本を読んで頂きたいのですが、汐見先生が、このLSTE方式を思いつくヒントになったというニュージーランドの親子の会話をご紹介します。


5歳ぐらいの男の子が不満そうな顔で幼稚園から帰ってきました。

「どうしたの?」

「○○くんがぼくのクレヨン勝手に使っちゃったんだ」

「うんうん、それで?」

母親は冷静に受け止め、子どもの話をきき終えると、こう言うのです。

「それはアタマにくるわね」「悔しかったわね。」と

そして、次にこうききます。

「どうして○○くんは、あなたのクレヨンを使っちゃったんだと思う? クレヨンを取り返したいの? じゃあ、どうしたらいいと思う?」

子どもに原因を考えさせ、自分で解決法を見つけるまで、辛抱強く応答していくのです。

「ぼくが○○くんに貸してあげなかったからな。今度から貸してあげると言って返してもらう。」

母親は言います。

「えらいわね。そうすれば、きっと○○くんはクレヨンを返してくれると思うわ。がんばって。おかあさん、応援しているから」とはげまします。

 ここでは親は解決に導くのを手伝っているだけですが、日本だったら、こうはいかないでしょう。

「おかあさんが先生に言って、返してもらう」

と先回りして解決してしまうかもしれませんが、これでは問題解決力は育ちません。

 ニュージーランドの親は「それは自分で解決しなければならないものだ」と自分で考え、自分で解決する訓練を日々の生活の中で行なっているというのです。



 いかがです?「なるほど」と思いませんか?他にも、いろんな場面での会話の進め方など具体的な言葉で書いてあるので、とてもわかりやすくてお勧めです。ぜひ読まれてみてはいかがでしょうか?

 (汐見稔幸 『親子のハッピーコミュニケーション 子どもを伸ばす会話力』 岩崎書店)





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