「思いっきり泣いてよか!」
初瀬基樹
先日、たんぽぽクラブでスケートに行ったときのこと、たんぽぽの子が1人、扉に手をはさんでしまったため、医務室に連れて行きました。すると、医務室には大声で泣き叫ぶ女の子と後ろには心配そうに見守るお父さんの姿がありました。どうやら、女の子の指をお父さんがスケート靴で踏んでしまったようで、女の子の指の先が切れて、大人の私たちが見ても、とても痛そうでした。その女の子は、看護師さんが、何か処置をするたびに、大きな声で泣き叫ぶので、お父さんが「痛くない、痛くない、もう大丈夫だから、そんなに泣いたらおかしいよ。」と声をかけていました。私は内心、(そうは言っても、あれは大人でも痛いだろうな〜、あれを「我慢しろ」っていうほうが無理だよ・・・。)などと思いながら見ていると、手当てをしていた看護師さんが、「よかよか、泣いてよか!思いっきり泣いてよか!泣いて痛みが止まるならジャンジャン泣きなっせ!」と言いました。(おっ、いいこと言うなあ、この人!)と感心してしまいました。しかし、さすがにその看護師さんも、女の子があまり大声で泣き続けるので、最後には「もう泣かんでよか。もうなんも(処置)せんけん。今度は泣かん注射ばせなんよ!」(泣いていいって言ったんなら、そのまま好きなだけ泣かせてあげればいいのに・・・。)
さて、「泣く」ということについて、ちょっと調べてみました。
動物のなかで、感情によって涙を流すことが出来るのは人間だけなのだそうです。なぜ涙を流して泣くのか、それが解明されたわけではないのですが、涙の成分を調べることにより、涙を流すことによって起きる体の変化が最近の研究でわかってきたそうです。
涙には「目の表面を潤すために常に流れている涙」と、タマネギなどの「刺激による涙」、そして、うれしい、悲しいなどの「感情による涙」の3種類があり、この「感情による涙」ひとつをとっても、その感情によって成分や、味、量が異なるのだそうです。
たとえば、悔しいときや怒ったときに流れる涙は、心身を緊張させる神経「交感神経」が刺激されることによって分泌され、ふりしぼられるように出るため、量が少なめで、ナトリウムを多く含んでいるために、しょっぱい味がするのだそうです。
反対に、うれしいときや悲しいときに出る涙は、心身をリラックスさせる神経「副交感神経」が刺激されることによって分泌され、ふいてもふいても、とめどなく流れるため、涙の量が多く、味は水っぽくて薄口なのだそうです。また脂肪分が少なく、カリウムが多めなのだそうです。
涙には、脳から分泌されるプロラクチンや副腎皮質刺激ホルモンといったストレスに反応して心身に緊張を強いたり、免疫系に影響したりする物質も含まれているそうで、涙を流した時には、体内でロイシン・エンケファリンというストレスを和らげる物質が分泌されるなど、泣くことで体が様々に変化することもわかってきているそうです。
泣く前後の血液中のストレス成分を調べた実験でも「タマネギで涙を流した場合は、ストレス成分が増加したが、感情で涙を流した直後はストレス成分が大幅に減少した」という実験結果もあるのだそうです。他にも脳機能研究所(川崎市、武者利光社長)が若い女性にテレビドラマを見せて、涙を流した時の脳波の変化を見た実験では、ストレスを示す脳波が話のクライマックスに向かって上昇し、涙を流した瞬間に一気に低下したという実験結果もあるのだそうです。
このように、心を動かして涙を流すことで、体に溜まったストレスを和らげることができるらしいのです。大人になると、なかなか思いっきり泣くということはなくなりますが、大人でも上手に泣くことが大切なのかもしれません。近年、韓国ドラマや映画が流行したり(全部がそうではないと思いますが、韓国のドラマや映画って泣かせるものが多くないですか?)、邦画でも、あまりハッピーエンドではない悲しい映画が流行したりするのも、裏を返せば、それだけ現代人はストレスを抱えていて、「ストレス解消のために泣きたい」という心理が働いているのかもしれませんね。
「泣きたいときは思いっきり泣く」ことが、体にとっても、心にとっても、とても大切なことのようです。子どもが泣いてるとき、「泣くんじゃない!」と無理に泣き止ませるのではなく、『涙を流すことによって、体に溜まったストレスを洗い流してるんだ』と考えることで「思う存分、好きなだけ、泣いていいよ!」と言ってあげられるような気がしませんか?
もちろん、単に泣かせておけばいいのではなく、「泣かずにはいられないその気持ち」を充分わかってあげることが大切なんですけどね。