あけましておめでとうございます。

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

初瀬基樹

人間とは

 さて、新年早々「人間とは」などと哲学的なタイトルをつけてしまいましたが、昨年の暮れに玉川大学の鈴木牧夫さんという方の講演会で面白い話がありましたので、それを少しご紹介しながら、今の子育てに大切なことを考えてみたいと思います。

人間性、即ち人間が生まれながらにもっているもの、他の動物と違う点は

第1に「人間は能動的な存在である」ということ。    

第2に「人間は社会性に富んだ存在である」ということ。の2点なのだそうです。

これはどういうことかといいますと、例えば、生後間もない人間の赤ちゃんと猿の赤ちゃんのミルクを飲む姿を比べてみるとよく分かるのだそうです。猿の赤ちゃんは与えられたミルク(またはおっぱい)を休みなく最後まで一気に飲み干してしまうのだそうですが、人間の赤ちゃんは、ちびちび飲んで、飲んでは休み、また飲んでは休み、とゆっくりゆっくり飲むのだそうです。こういう姿、きっとお母さん方も経験がおありでしょう。時間に余裕のないときなどは「もう!遊んでばっかりいないで、さっさと飲みなさい」などと言いたくなるときもありますよね。ところがこうした赤ちゃんの姿が非常に大切で、これが他の動物と人間との違いなのだそうです。なぜ人間の赤ちゃんがこんな姿を見せるのかというと、飲むのを休むことでお母さんが「どうしたの?もうお腹いっぱいになったの?もうちょっと飲もうね。」などと声をかけ、かかわってくれることを赤ちゃんは知っているからなのです。つまり、赤ちゃんはおっぱいを飲みながらも、お母さんとのコミュニケーションを求めているのです。一見、自分では何も出来ない「受身な存在」に見える赤ちゃんですが、こうして、泣いたり、笑ったり、言葉以外のもの、しぐさで立派に対話をしようとしているのです。人間の赤ちゃんは決して受身な存在ではなく、自分から人とのかかわりを求めようとする「能動的な存在」なのです。また、常に人とのかかわりを求め、人とのかかわりの中で人間らしさを身につけていくというきわめて「社会性に富んだ存在」でもあるのです。

 こうした時期に、そのコミュニケーションを楽しむか否かで、その後のコミュニケーション能力に大きな違いが現れるといいます。都市部ではよく、「言葉が発達すると思って」とか、「頭がよくなると思って」と小さな頃からテレビやビデオを見せて育てる家庭が増えていると聞きます。しかし、テレビやビデオなどからは、単に一方的な刺激が与えられるだけであって、見ている赤ちゃん側からの働きかけに応えてくれるものではありません。これでは逆に人への関心は薄れ、人とのコミュニケーションがきちんと取れない子どもに育っていく危険性もあります。赤ちゃんが言葉を覚えていく過程には、例えば、おむつが濡れて気持ちが悪いときなど、泣くことで大人に知らせます。そして、お母さんがやってきて「おしっこでたね。冷たかったね。気持ち悪かったね。」とやさしく語りかけながらおむつを替えてもらうことで、自然と「冷たい」とか「気持ち悪い」ということを単なる単語としての言葉ではなく、意味、感覚を伴った言葉として理解していくことが出来るのです。もう少し、おむつのことでいえば、昔は布おむつで、しょっちゅうおむつを替えなければなりませんでした。しかし、紙おむつの普及でおむつを替える回数は少なくて済み、夜中などは随分楽になりました。紙おむつ自体を否定するつもりはありませんが、それは同時に赤ちゃんとのコミュニケーションの機会も減っているということを自覚しておかなければなりません。「おしっこ3回分まで大丈夫」という紙おむつなら、布おむつの子にくらべて「コミュニケーションの機会も3分の1」であるという自覚です。

 最近の様々な問題の根本の一つに「自己中心的な子ども、大人が増えた」ということがありますが、これは正に、それまでの育ちの中でのコミュニケーション不足に原因があると思われます。さまざまなコミュニケーションを取ることで、自分の思いをどうすれば相手に伝えられるのかを学び、また、相手の思いに気付くことも出来るようになっていきます。思いやりの心をいくら育てようと思っても、思いやりをいっぱい受けて育った子どもにしか思いやりの心は育ちません。問題の根は同じだと思いますが、最近は、「キレやすい子ども(我慢の出来ない子ども)」も増えているといわれています。一般に「キレル子ども」というのは、我慢する経験が少ないと思われがちですが、実際は逆なのです。自分の意に反した我慢ばかりさせられ、ストレスが溜まりすぎて「キレてしまう」のです。子どもが表す自我や自己主張を「わがまま」として捉えるのではなく、「我慢の力が育つ時」として捉え、丁寧な対応がなされていくと少しずつ我慢の出来る子どもになっていくのです。大抵の場合、納得のいく我慢なら子どもは出来るものなのです。(これについてはまた別の機会に詳しくお知らせしたいと思います。)

現在では、乳幼児期の育ちがその後の人格形成に多大な影響を与えることが分かってきました。勉強が出来るように、スポーツができるように、○○が上手になるように、などといった狭い目標のために子ども達は日々ストレスを抱え、人格すらも歪められていく世の中です。乳幼児期には、まず第1に「人間らしさ」をしっかり身に付けていくことが最も重要です。そのためには、昔ながらの基本的な生活習慣を大切にし、いろんな人とかかわり、コミュニケーションを取りながら、思う存分自分の好きなことに熱中して「あそぶ」ことが大切です。豊かな人間関係が豊かな人格形成につながるのです。まさに「人」と「人」の「間」で育って「人間」となるのです。

 こうしたことを踏まえ、今年も今の子ども達にとって本当に大切なことは何かを探求し続け、よりよい保育を行なっていきたいと思います




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