忍者に出会えるか? (つくし組お泊り保育に向けて)

初瀬基樹

ここ数年のつくし組のお泊り保育では、“阿蘇の天狗”から手紙が届き、天狗との知恵比べや、河童探しなどを行なってきました。そして、今年は「忍者」の登場です。まずは、つくし組の子どもたちそれぞれのお家に“阿蘇の天狗”から「忍びの心を学んでみらんか」という内容のハガキが届きました。しかも、ハガキには、ある「しかけ」がしてあり、そのしかけの謎を解いたものは忍者になれる素質があるとのこと。今月の「からたち」のつくし組のページにもそのことが書いてありますが、つくし組の子ども達は、みんなハガキを持ち寄って頭を悩ませていました。<唯一、この謎を解いたのは川越優佑くん(のお母さん)でした。「優佑君のお母さんは昔、忍者修行をした“くの一”だったのかもしれない・・・」と子ども達には言っています。> 部屋でつくし組の子ども達が集まって、お泊り保育についての話し合いをしていると、突然、窓から矢文が飛び込んできました。“忍者からの手紙”です。この手紙によって、天狗からのハガキにあった「しかけ」の秘密が「あぶり出し」であることが明かされました。そして、「矢文に書かれている呪文を覚えて、すばやく唱えながら“あぶり出し”をし、浮き出たしるしと同じしるしを持つ者を探せ」と書かれていました。その日、子ども達は繰り返し呪文を唱え、必死で覚えていました。翌日、いよいよ「あぶり出し」をやってみました。呪文は、ほとんどの子どもが覚えていました。そして1人ずつ、呪文を唱えながらあぶり出しをしてみると、浮き出てきた絵と文字は、それぞれ「月」「火」「水」「太陽」を表すものでした。さっそく“忍者からの手紙”に従い、同じしるしを持つ子を探し、グループを作りました。このグループで、知恵をあわせ、力を合わせて14日、15日のお泊り保育(「忍者修行」)を迎えます。はてさて、今年のつくし組の子ども達は“阿蘇の天狗”や“忍者”に出会うことはできるのでしょうか?


 今回は「忍者」ということで、忍者に関する絵本や文献をいろいろ探していると、偶然にも以前の「からたち」で紹介した「光る泥団子」のホームページを作った京都教育大の助教授、加用文男さんという人が書いた『忍者にであった子どもたち[遊びの中間形態論]』という本を見つけ、少し読んでみました。この加用さんも小学生相手にキャンプで忍者を登場させ、宝探しをさせるという実践を基に「遊びの中間形態論」というこの本を書いています。「遊びの・・・」といった難しいことはさておき、これまで私達が行なってきたお泊り保育と似ていて、そしてさらに上を行くような、とてもワクワクさせられる実践でした。しかし、こうした実践を保育園などの研修で発表すると、子どもに嘘をついてだましていることが、そもそも倫理の問題として許せないとか、信じ込んだままになったらどうする?とか、あとできちんと真実を伝えるべきだ、大人が嘘をついたことで子どもの心を傷つけないか?などなど非難の声も結構多いのだそうです。そのことに私は驚きましたが、みなさんはどうお感じになられますでしょうか?

 想像する楽しさ、冒険する楽しさを私達大人は忘れてしまっているのかもしれません。自分が子どもの頃を振り返ってみても、植木鉢のかけらを「UFOの破片だ」と教えられ、半信半疑ながらもUFOや宇宙人について調べまくって、探しに行ったり、秘密基地みたいなものを作って、何人かで隠れて遊んだりした思い出は、今でも鮮明に覚えており、とても楽しかったものです。この『忍者に出会った子ども達』ではサンタクロースのことが例に出されていますが、小さい時にサンタクロースの存在を信じ込んでいた子ども達も、成長するにつれて、不自然なこと(例えば、一緒に付いていた手紙の字がお母さんの字と一緒だったとか)に気付き、もしかしたらサンタはいないのかも、サンタはお父さんとお母さんなのかも、という疑いを抱くようになり、ウソか、ホントかと揺れ動く時期をしばらくの間経験し、次第にあれはウソだったんだとはっきり分かるようになっていきます。(なかには小学校の低学年で親から本当のことを打ち明けられてショックを受けたという子も少なくないようですが。) さて、サンタは存在しなかったと気付いた子ども達は「よくもウソをついたな!」と怒るでしょうか?この本にも書かれていますが、サンタはいないとすでに分かった子ども達も、ほとんどの場合、自分より小さい子ども達には「サンタはいるよ」とウソをつくのだそうです。これは「自分がだまされたから、今度は仕返しに小さい子をだましてやろう」と思ってウソをついているとは思えません。おそらく、サンタを信じていた時の楽しさを小さい子たちにはもっと味わっていて欲しい、もう少しこの楽しい夢の続きを見させてあげたい、そんな思いなのではないでしょうか。

このように「ウソ」にも2種類あるような気がします。「人をだまして陥れる、人を傷つけてしまう」ウソと、「夢を与え、人を楽しませる」ウソ。からたちのお泊り保育では、これからも子ども達に夢を与え、想像の世界で思う存分楽しめるようなウソをつきつづけていきたいと思います。




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