メディア社会と子どもの育ち
〜キーワードは前頭前野(ぜんとうぜんや)〜

初瀬基樹

 最近の事件を見ていると、怖い、嫌な世の中になったなあと思いませんか?なんで、こうも自己中心的な犯罪が多いんだろうかとか、もう少し先のことを考えなかったのかなあとか、それぐらい我慢できなかったのかなあ、なんでこんなに簡単に命まで奪ってしまうのだろうか、などなど・・・。

 近年、全国の保育園、幼稚園など、子どもの世界でも、障害がないにもかかわらず、「視線が合わない」とか、「いつもボーっとしている」、「コミュニケーションがうまく取れない」、「突然大声や奇声を発する」、「いつもイライラしている」、「乱暴者かと思えば、受けて入れてくれる大人には異常なほどべったり甘える」、「遊びと言えば、ヒーローや怪獣になりきっての『闘いごっこ』ばかりで、以前なら、ちょっとやりすぎて相手が泣いたりすれば、ハッと我に返って、ごめんと謝るのが普通だったのに、相手が泣いても、まだヒーローになりきったままで、とことんやり続ける」などなど、「ちょっと気になる子」や「荒れる子、キレる子」が増えているという話が出るようになりました。そして、それらがどうやら、今の子どもたちがテレビ、ビデオ、ゲームなどの「メディア漬け」になっていることが原因の一つでは、ということが言われ始めました。

 そこで、数年前に、私たちの園が属する西部ブロックの保育士会が主になって「子どもとメディア」というテーマで研修会を持ち、熊本市内の保育園児の実態調査を行ったりしました。数年前の「からたち」にも、同様のことを書いているので、ご記憶にある方もいらっしゃるかと思いますが、今一度、今度は「脳の発達」という面からメディアとの付き合い方を考えてみたいと思います。

 『脳を鍛える大人の計算ドリル』とか『脳を鍛える大人のDSトレーニング』などで、最近よく名前を聞くようになった東北大学の川島隆太教授によれば・・・、

 最新の脳科学でわかってきたことは、おでこのすぐ後ろぐらいにある前頭葉のなかに「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と呼ばれる部分があり、その前頭前野のはたらきは、


・ 深い思考をする

・ 「〜してはいけない」などの行動の抑制に関係している

・ 言葉や、表情を読み取るなどコミュニケーションを担当している

・ 意思決定に関わる(「やる気」もここから出る)

・ 感情をコントロールする(喜怒哀楽は別の部分から生じるが、それをコントロールするのは前頭前野)

・ 記憶と深い関わり合いがある(記憶すべきものかどうかを判断するのが前頭前野)


 つまり、「人間を人間たらしめている」のが「前頭前野」なのだそうです。最初に述べたような、近年の事件や、ちょっと気になる子どもたちの姿をみると、どうやらその「前頭前野」がちゃんと働いていない(発達していない)のではないかということが予想できます。

 さて、その「前頭前野」は、0〜3歳ごろまでに急激に発達し、その後しばらくは、ゆ〜っくりと発達し、思春期の頃にまた急激に発達するのだそうです。脳は4,5歳までに大人の90%が出来上がると言われていますので、3歳ぐらいまでに前頭前野を活性化させてやることがとても大事なのだそうです。(ここに付け込んで、様々な早期教育ビデオなどが氾濫しているのですが・・・)

 ただし、ここからが重要なことなのですが、これまで脳科学の常識では「テレビやゲームは脳を刺激し、活性化する」と考えられてきたのですが、川島教授の研究で、テレビ、ビデオ、ゲームをしているとき、マンガを読んでいる時、携帯でメールを作成している時は、右脳の前頭前野の活動低下が見られたそうです。テレビやゲームの内容によっては、脳の他の部分の活性化が見られたものもあったそうですが、「前頭前野」に関しては、ゲームやテレビ、マンガ、携帯メールが脳を積極的に働かせる作用は無く、逆に、それらが「脳を休息状態にする」らしいのです。他の筋肉と同じで「鍛えたら、少し休ませることも必要」と考えれば、勉強して脳を使った後に、多少ゲームをするぐらいなら、脳の休息になって良いとも考えられなくもありませんが、先ほども述べたように「前頭前野が急激に成長する乳幼児期(0〜3歳)にテレビやゲームばかりで前頭前野に刺激が与えられないと、脳は正常に発達しないのではないか」という推測も当然生まれます。
 

 では、前頭前野を活性化させるためには、どんな刺激が必要なのかというと、

小学生以上であれば、「音読」や「簡単な計算」(運動の前の準備体操のようなもの)これは成人、高齢者、痴呆の方にも効果があり、ここから「大人の計算ドリル」が注目されるようになったようです。

・ 親子の会話(友達よりも「親」と会話しているときに、前頭前野は活性化)

・ グループ遊び(1人や2人ではあまり活性化しないが、3〜4人以上の大人数になってくると、特に何もしなくても前頭前野は活性化)

・ 手指を使って何かを作り出す(料理、はさみで切る、裁縫、編み物など)

・ 楽器の演奏、独唱(合唱、カラオケは活性化しないのだそうです。一人でアカペラがいいのでお風呂で鼻歌はいいのかも)

 
 0〜3歳というのは、家庭における親子関係が最も大切な時期であり、もしも、この時期にテレビやビデオを長時間見ているとすると、それが、仮に教育ビデオであったとしても、日常生活のなかで前頭前野を活性化するチャンス(親子のコミュニケーションの機会)が奪われてしまうのではないか・・・というのが川島教授の言われていたことです。

 ということは、乳幼児期の間はテレビやビデオ、ゲームは少し控えた方がよさそうですね。そして、やっぱり、子どもは子どもらしく、小学校の低学年ぐらいまでは、たっぷりお父さんやお母さんに甘えて、おうちでの楽しい会話を大切にして、外ではたくさんの友達と走り回って遊んだり、手先を使って何かを作ったりして遊ぶといった、ごく自然な子どもらしい生活をすることが、大きくなって前頭前野のきちんと発達した「思慮、分別のある人間」に育つということなのでしょうね。





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