クレヨンしんちゃんの家庭に学ぶ

初瀬基樹

 すっかりおなじみの「クレヨンしんちゃん」。十数年前テレビ放映が始まったころは、「子どもが真似をして困る」、「下品」などという批判的な意見が多かった番組(漫画)ですが、映画などは結構感動的だったりして今も根強い人気を誇っていますね。

 さて、この「クレヨンしんちゃん」に登場する野原しんのすけ一家をモデルに『子育てにとても大切な27のヒント 〜クレヨンしんちゃん親子学〜 』(双葉社)という本が発売されています。この本を書いたのは、わが園にも育児講座で来て頂いたことのある東京大学大学院教授の汐見稔幸先生です。私も最近読んだのですが、とても読みやすく、なるほど〜と野原家を見る目が変わりそうです。

 そのなかからひとつご紹介します。


 「何度言ったらわかるの!?」 
  何度言ってもわからないのが子ども。懲りずに何度も言うしかありません。

● 同じことを何度もいえる、タフなみさえを見習おう

 しんちゃんは、毎日同じことを言われているのに、なかなか自分からはできません。お母さんにしつこく言われて、しぶしぶ手を洗ってうがいをしています。

 ただいまとあいさつするのはどうしてか、うがいをしなければいけないのはなんでなのか、幼稚園児のしんちゃんはまだわからないからです。でも社会生活の中ではこういうことを教えてやらせないといけません。これが、しつけというものです。
 
 縫い物でする「しつけ」がありますね。きれいに縫うために、正しい位置に目立つしつけ糸で仮にとめておくことです。あのしつけと同じなんです。まだ自分ではちゃんとできないから、正しい場所に親がしつけておさえておく。子どもに施したしつけも糸とおなじように、子どもが育ったあとで抜きとるのです。
 
 今まで親に言われて学校に言われて守ってきたけど、ほんとにそうだなと思い直して、しつけではなく、自分自身のモラルにしていく。実際そうなるまでにはかなり社会性が育たなければいけないのですが。
 
 子どもの頃は「6時に帰ってきなさい」「はーい」ですんでいた。それが思春期になり、部活動のあとで友だちとコンビニ前でしゃべっていて遅くなり、怒られたりすると、「なんで私の帰りの時間をあんたが決めるのよ」となる。「私のモラルを勝手に決めないで」と親に反発しているのです。この時期を乗り越えて、やっぱり「親には心配かけないようにしないといけないな」と気づき、「遅くなるときは電話するね」と自分で判断するようになる。そのときはじめて自分で考えて納得していく。こうして子どもは親に作られたしつけの糸を抜いて、自分で考えて自分のモラルを作っていきます。
 
 ところが、小さな子どものうちにあまりきびしくしつけてしまうと、大人になって、今度はしつけ糸が抜けなくなってしまうことも出てきます。
 
 しつけを自分で抜いて、自分で納得するということができなくなり、大人によく思われなきゃいけないと、がんじがらめになってしまい、自分で判断できない人間になってしまう。権威に弱い人間になってしまうこともあります。しつけは厳しすぎるのも問題なのです。
 
 とにかく、小さいうちのしつけとは、同じことを手をかえ品をかえ教えてやるしかない。子どもが納得するように、上手にわかりやすい理屈で教えてやるとか、ことわざや教訓などで教えてやるとか、とにかくいろいろ工夫しないとダメなんです。
 
 そんなふうに工夫したとしても、子どもは100パーセント納得するわけではない、というのがしつけのむずかしいところ。その上、しんちゃんのような活発タイプの子というのは、素直に親のいうことなんか聞いてくれません。
 
 ですから、このみさえさんのように、何回も何回も言わなきゃいけない。「何度言ったらわかるの」とつい言ってしまいますが、何十回言ったって、わからないものなんですね。懲りないで、何度も言うしかありません。
 
 子どもが失敗したとき、じつはこのときがしつけのチャンス。「ほらみてごらん、だから言ったでしょ!」なんて言わず、「今度からこうやろうね、もうやめようね」とやさしく言ってみてください。これで子どもは学びますよ。


 いかがでしょうか。この本からは、全般にわたって、子どものありのままを受け止め、家庭のことも飾らずにさらけ出し、ざっくばらんに地域の人たちの助けも借りながら、自分だけで子育てをしないようにというメッセージが感じられます。

 この本の最後のほうにも出ていましたが、カナダの育児書「ノーバディ・イズ・パーフェクト」(完璧な親なんていない)の中には、一番大切なのは「困ったときに助けてと言えること」と書いてあるのだそうです。しんちゃん一家のような子育てができれば、ストレスもたまらないのかも?

 他にも、しんちゃんがよくやる「お尻出し」や「親をからかう言葉」などに関しても、それが出来ることは、子どもにとって良いことだと書いてあります。(「えっ、なんで?」と思われた方、ぜひこの本読んで見られてはいかがでしょう?園にあるのでお貸ししますよ。)

 これを読めば、子育てのストレスが少し軽減できるかも?





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