子どもとメディアを考える

初瀬基樹


 先月号でも少し触れていましたが、現在、「テレビ、ビデオ、テレビゲーム、携帯用ゲーム、パソコン、携帯電話などのメディア」が、「どうやら子どもたちに対し、良くない影響を与えているようだ」ということが、小児医療や保育園、幼稚園、その他の様々な子どもに関わる現場から、数多く報告されるようになり、いろんな調査がなされています。
 
 2月初めには、日本小児科医会「子どもとメディア」対策委員会というところから、「『子どもとメディア』の問題に対する提言」というものが出されました。新聞等でも報道されていましたので、ご覧になった方もあるかと思います。その具体的な提言というのは


1. 2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう。
2. 授乳中、食事中のテレビ・ビデオ視聴は止めましょう。
3. すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1日2時間までを目安と考えます。テレビゲームは1日30分までを目安と考えます。
4. 子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パーソナルコンピューターを置かないようにしましょう。
5. 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールをつくりましょう


 というものでした。
 
 この小児科医会から出された提言によると、テレビ、ビデオ視聴を含むメディア接触の「低年齢化」、「長時間化」が問題であるとされています。乳幼児期の子どもは、身近な人とのかかわりあい、そして遊びなどの実体験を重ねることによって、人間関係を築き、心と身体を成長させます。ところが乳児期からのメディア漬けの生活では、外遊びの機会を奪い、人とのかかわり体験の不足を招きます。実際、運動不足、睡眠不足そしてコミュニケーション能力の低下などを生じさせ、その結果、心身の発達の遅れや歪みが生じた事例が臨床の場から数多く報告されています。 
また、このようなメディアの弊害は、ごく一部の影響を受けやすい個々の子どもの問題ではないのです。特に象徴機能が未熟な2 歳以下の子どもや、発達に問題のある子どものテレビ画面への早期接触や長時間化は、親子が顔をあわせ一緒に遊ぶ時間を奪い、言葉や心の発達を妨げてしまいます。

 メディアの内容についても問題点が指摘されています。メディアで流される情報は成長期の子どもに直接的な影響をもたらします。幼児期からの暴力映像への長時間接触が、後年の暴力的行動や事件に関係していることは、すでに明らかにされている事実です。メディアによって与えられる情報の質、その影響を問う必要があります。その一方でメディアを活用し、批判的な見方を含めて読み解く力(メディアリテラシー)を育てることが重要だとされています 。(大部分を「『子どもとメディア』の問題に対する提言」より引用しています)

 また、東北大学未来科学技術共同センターの川島隆太教授による最新の脳科学のデータをもとにした、とても興味深い調査もあります。
 「人間らしい心」、すなわち、深く考えたり、「やってはいけないことはしない」といった行動の抑制や、顔の表情、ジェスチャー、声の抑揚などから、相手の気持ちを読み取ったり、相手を思いやったりするのは、脳の中の「前頭前野」と呼ばれる部分の働きによるものだということがわかっています。川島教授はFunctionMRIという日本に数台しかない装置や、光トポグラフィーなどの装置を使って、その前頭前野がどんなときに活発に動くのかというのを研究されている方です。

 これまで脳科学の常識では「テレビやゲームは脳を刺激し、活性化する」と考えられてきたのですが、川島教授の研究で、ゲーム(いろんな種類があるので一概には言えないが)をしている時は、「視覚情報処理に関わる領域」と「「運動領域」に強い活性化が認められるものの、「前頭前野はほとんど働いていない」こと、さらには「右脳の前頭前野の血流は、逆に低下してしまう傾向にある」ことが発見されました。同様に、マンガを読んでいる時、携帯でメールを作成している時にも、右脳の前頭前野の活動低下が見られたそうで、成人を用いた実験では、前頭前野の血流低下はマッサージなどによって、「気持ちが良い、癒される感覚」が得られた時にも見られたのだそうです。ということは、つまり、ゲームやテレビ、マンガ、携帯メールには、「脳を積極的に働かせる作用」は無く、逆に「脳を休息させる作用」があることがわかったのです。他の筋肉と同じで「鍛えたら、少し休ませることも必要」と考えれば、勉強して脳を使った後に、多少ゲームをするぐらいなら脳の休息になって良いとも考えられなくもありません。

 しかし、このことは、「前頭前野が急激に成長する乳幼児期(0〜2,3歳)にテレビやゲームばかりで前頭前野に刺激が与えられないと、脳は正常に発達しないのではないか」という推測も当然生まれます。「テレビ等のメディア接触が、乳児期からという早期接触の子、あるいは長時間接触の子に、いわゆる、キレる、荒れるなど自己抑制力の弱い子が多い」というデータもうなずける気がします。行動を抑制する前頭前野がきちんと育っていないのかもしれません。

 さらに川島教授は、どんなときに前頭前野が活性化するのかという実験も重ねた結果、「声を出して文章を読む(音読)」「文章を書く」「簡単な計算をする」といった、ごく当たり前の学習がとても効果的であることを発見し、その「読み、書き、計算」を行い、「前頭前野を活性化させることで、前頭前野の他の機能も高めることができる」という驚くべき実験結果も示していました。
ただ、この川島教授も、「子どもたちの心身の成長に最も大切なのは勉強でも何でもなくて、親子のふれあい(コミュニケーション)だ」と強調されています。

 これらのことについては、もう少し詳しく勉強してお伝えしていきたいと考えています。




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