キレない子どもを育てるには
初瀬基樹
この夏もいくつかの研修に参加しました。それぞれ内容の異なる研修でしたが、必ずといっていいほど、どの研修会でも最近の少年犯罪のことが話題にのぼりました。さまざまな研究者、保育者、教育者たちがこのままではいけないと考え、解決の糸口を探っているのです。今回は私なりに、これまでの様々な研修で学んできたこと、いろんな人の意見を参考に「キレない子ども」を育てるにはどうしたらよいのかを考えてみたいと思います。
「最近の子どもは外で遊ばなくなった。」と言われて久しくなります。テレビ、ビデオ、ゲーム機器、パソコン等の普及により、統計でみると確かに子どもたちの外遊びの時間は激減しています。そして「友達と遊ぶ」といっても「友達の家でいっしょにゲーム」をするということが遊びの主流になっているようです。また、ビデオの普及により、生後6ヶ月になる以前からテレビ(ビデオ)を見せて育てている家庭が20%もあるというデータにはおどろきました。1歳以前からビデオを毎日何時間も見せられて育った子の事例も紹介されたのですが、情緒が不安定で、人とのコミュニケーションがちぐはぐになり、物事の認識能力の欠如、目の焦点が合わない、言葉の遅れなど、あきらかに成長にひずみが現れているとのことでした。そういった子の場合、4歳を過ぎるとリハビリが非常に難しくなるのだそうです。このように成長にひずみが起きるのは直接体験の不足により、成長のバランスを崩しているためなのだそうです。直接体験というのは五感をフルに使います。五感をフルに使って初めて、脳がバランスよく発達し、行動のコントロールができるようになるのですから、五感のうち「視」「聴」の2つしか使わない間接体験(ここでいうテレビ、ビデオなど)ではバランスが崩れるのも当然です。
また、こうした生活では周りから情報を与えられるばかりで、自分から何かにかかわろうとする力(自発性)が育ちません。小さいときのイタズラ(探索活動)などはとても大事なのだそうです。自発性が育たないままだと自分で遊びを見つけることもできずに、自己発揮(自分のやりたいことを思う存分にやる。自分のありのままをさらけだすこと)もできません。そうすると、友達とのトラブルもほとんど起きません。一見友達とのトラブルがないことは良いことのように思えますが、これは逆で、友達同士のいざこざ、トラブルは非常に大切で、トラブルを通して、葛藤しながらも相手の気持ちを考えるようになり、お互いにとって納得のいく結論を見つけ出そうとする力を身に付け、人との付き合い方を学んでいくのです。最近の子どもが突然キレるのは、こうしたトラブル体験の不足という説が有力です。
ほかにも、親(大人)との安定したかかわりが非常に大事だということ。これは情緒の安定に深くかかわっています。乳幼児期のスキンシップが減っているそうです。おんぶ、抱っこが苦手な親子が増えているのだそうです。(余談ですが、そもそも親のほうがおんぶや抱っこに絶えられない体になってしまってきているのだそうです。)乳幼児の情緒の安定にはスキンシップは欠かせません。
また、子どもが遊んでいる姿を見守る親たちの無表情さも目立つようになってきているそうです。逆にあれやこれやと先回りして子どもに干渉しすぎる親も問題ですが、「見守る」ということが何よりも大切な援助になることもあるのです。しかし、その「見守る」ということが、あたたかな“まなざし”で「やってごらん」と肯定的に見るか、「また何かしでかすんじゃないか」とするどい“めつき”で見るのかで、子どものその後の行動は大きく変わります。自分のことをあたたかく肯定的に見てくれる人がいることで情緒は安定し、自己発揮できるようになるのです。
さらに生活リズムや食生活の変化も子どもに与える影響が大きいようです。生活リズムが夜型の家庭が増え、朝も早起きができず、朝食もまともに摂れない子どもが増えているそうです。情緒の安定、健康な身体作りにはやはり、きちんとした生活リズムで、栄養のバランスもしっかり考えてとらなければなりません。睡眠時間に関しては成長ホルモンが最も多く分泌される時間というのが、夜の9時以降と大体決まっているそうで、たとえ睡眠時間をたっぷり取っていたとしても、その時間(夜の9時過ぎごろ)に寝ていなければ成長ホルモンはうまく分泌されないのだそうです。ですから夜の9時を過ぎてしまったらできるだけ早く寝かせることが大切なのです。また、食事に関して、外国のある刑務所での実験で、刑務所内の食生活を改善し食事の時間や栄養バランスをきちんと整えたところ、刑務所内でのいざこざやトラブルが激減したという報告もあるそうです。栄養のバランスが心のバランスにも影響を与えるということです。対人関係においても、心の問題においても「すべての基本は健康な体にある」といっても過言ではないのかもしれません。
いろんなことを一気に書いてしまったので説明足らずで少々わかりづらかったかもしれませんが、結局のところ、昔ながらの子育てというか、快食、快便、早寝、早起き、といった基本的な生活リズムを整えること。テレビやビデオ、ゲームばかりでなく、友達と外で思う存分遊ばせること。そして、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんなどおうちの人が、愛情をたっぷりかけて育てるという言わば当たり前の子育てをしていれば、そう簡単にキレる子どもにはならないということでしょう。