たかが「木登り」、されど「木登り」

初瀬基樹


 11月26日(金)から28日(日)にかけて、2泊3日で「ベーシックツリークライマー講習会」というのが、熊本で開催され、私も参加してきました。(この講習会の様子が29日の熊本日日新聞朝刊に写真付で掲載されていました。)
 実はこの講習会は3年前に河内でも開催されたのですが、そのときはちょうど園の行事と重なっていて講習を受けることが出来ず、私にとっては"待ちに待った"熊本での講習会でもありました。

 「ツリークライミング」を直訳すれば「木登り」、なんでわざわざ「木登り」を習いに行ったのかということになるのですが、この「ツリークライミング」は、普通の「木登り」とはちょっと違うのです。以前、NHKで特集番組が放送されたこともあるので、ご覧になった方もおられるかもしれませんが、専用のロープと道具を使って登ります。子どもからお年寄りまで、障害のあるなしにかかわらず、誰でも、安全に楽しく木登りが出来るのです。いずれ、私も子どもたちとこうやって木登りを楽しみたいなあという思いでこの講習会に参加しました。
 ちなみにNHKで放送された番組は、TCJ(ツリークライミングジャパン)の代表であるジョン・ギャスライトさんとフィジカルチャレンジャー(TCJでは「身体障害者」という言葉は使わず、障害を乗り越えてがんばっている人たちをこのように呼んでいます)の彦坂さんという方が、アメリカのジャイアントセコイヤという80メートルの大木に登ったときのものでした。

 このツリークライミングが日本に紹介されたのは、まだ最近のことで、TCJが発足したのは2000年4月、もともとは、約20年前(1983年)にピーター・ジェンキンスさんというTCI(ツリークライマーズインターナショナル)の創始者でもある方が、アーボリストと呼ばれる人たち(日本で言うと林業、造園業と樹木医を合わせたような仕事をする人たち)の間で伝えられてきた技術を、安全に楽しく誰もが木登りを楽しめるようにとレクレーション用に改良した技術を伝え始めたことから始まりました。
 
 日本にこれを伝えたのは、ジョン・ギャスライトさんという方です。ジョンさんは、子どもの頃に海岸に流れ着いた日本の「下駄」や「一升瓶」から、とても日本に興味を持つようになり、大人になって留学生として日本にやってきたそうです。一時は「笑っていいとも」の変な外国人のコーナーでサンコンさんなどと出演していたこともあるそうです。今は日本人の奥さんと子どもたちと一緒に愛知県の瀬戸市にある森に住んでいるそうです。私も1、2年ほど前にジョンさんが熊本に来られた時お会いしたことがありますが、とても陽気で楽しい方でした。

 そんなジョンさんですが、幼い頃、両親の離婚などでアメリカから母方のふるさとであるカナダの祖父の家に住むようになったとき、髪形や発音が違うことでいじめにあい、すっかり自信をなくしていたのだそうです。そんな様子を見ていたジョンさんのおじいちゃんがジョンさんを誘って町を一望できる丘に行き、一緒に木に登って町を見下ろしていたときに、こんな言葉をかけたのだそうです。「ジョン、今のジョンには学校しか見えないかもしれないけれど、木の上からこうして町を見渡すと学校なんてたったあれだけのものだよ。こうして違う視点から学校を見るとそんなに大きな問題じゃないということが分かるだろう。困ったときはこうして木に登って考えるといいよ」と。
 
 それ以来、ジョンさんは何か問題でつまずいたとき、違う視点でその問題を見てみると、今まで大きくてとても解決できないと思っていたものも、案外小さなものだということに気付く様になったそうです。心に余裕を持つことが出来るようになると、いじめっ子たちが今度はその子達のほうから「一緒に遊ばせて」とやってきて、一緒に木登りをしたり、ツリーハウスを作ったりするようになり、楽しい毎日と自信が戻ってきたということです。

 そんな幼い頃の体験から、ツリークライミングをたくさんの人に広めたいと思うようになったそうです。今回の講習会にはジョンさんは来られていませんでしたが、日本人で初めてアメリカのジャイアントセコイヤに登ったというTCJのチーフインストラクターである榊原信行さん(通称ノブさん)というとてもすてきな方が講師として来てくれました。私はノブさんに会うのは3回目で、それも楽しみの一つでした。

 「森の中では自然が主役、細心の注意を動物や植物に払いながら木に登りましょう」といったルールからも分かるように、ツリークライミングで使う道具や登り方の技術などは、人間の安全はもちろんですが、環境への配慮、木への配慮が細かくされていて、木や自然に対する感謝の気持ちをとても大切にしています。


 今回の講習会で、私は「木に安全に登るために技術」はもちろんですが、そうした、「木や、自然、環境に対する心」を多く学んだ気がします。たった2泊3日の研修では、まだまだ人に教えられるだけの技術や知識は備わっていませんが、いずれ、経験を積み、さらなる資格を取得して、園の子どもたちとも一緒にツリークライミングが楽しめるようになるといいなと思っています。

興味をお持ちの方はツリークライミングジャパンの下記のホームページをご覧下さい。
http://www.treeclimbingjapan.org/





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