家族の中の見えない力

初瀬基樹

 先日、カウンセリング研修に参加し、興味深いお話を聞いてきましたので、かいつまんでご紹介したいと思います。
 
 少し前まで、子どもが登校拒否や、拒食症、過食症といった問題を抱えた場合、「その子自身が弱いから」、あるいは「お母さんが・・・だから」といった「○○が原因で△△が起きている」といった直線的な見方をされるケースが多かったようです(もしかすると今でもそういうケースが多いかもしれません)。しかし、近年、カウンセリングの世界では、「個人の病気(症状、問題行動)は、家族全体の人間関係の歪みの表れ」という見方がされるようになり、心の病気を扱ったカウンセリングでは、「家族療法」が多くなってきているとのことでした。

家族はシステム
 
 「家族」はひとつの「システム」であると考えられます。「システム」とは、「組織、制度、系統、体系、細胞、体・・・」といった意味で、「相互に作用し合う要素の複合体」と定義されるそうです。わかりやすく言うなら、「人間の体」のように、「脳」、「心臓」、「胃」、「腸」、「肺」など、それぞれ一つ一つは全然違う別のものなのに、それらがまとまって、全体として「人」となり、きちんと機能しているもののことです。同様に「家族」も「お父さん」、「お母さん」、「お兄ちゃん」、「お姉ちゃん」、「弟」、「妹」など、それぞれ別々の個が集まって全体として「家族」を形成していると考えられます。
 
 この「家族」というシステムは、常にバランスを保とうと生き物のように変化し、誰かが病気になると、それを治そうとする「見えない力」が自然に働くというのです。反対に、家族のバランスが崩れると、それを修復するために誰かが病気になったり、問題行動を起こしたりすることもあるそうです。

 どういうことかというと、例えば、それまでぐうたらだったご主人が、奥さんが病気をして寝込んでしまうと人が変わったように炊事、洗濯など、マメに動き始めるようになったり、両親がケンカばかりする家庭の子どもほど病気がちだったり、子どもが登校拒否になったことで、それまで仲の悪かった夫婦が仲良くなったり、反対に仲の良い夫婦の子どもが拒食症から立ち直ったと同時に両親が不仲になって離婚したり・・・と「家族」としてバランスを保とうとする力が良くも悪くも自然に働くのだそうです。

 これらの「見えない力」をうまく利用することで、問題を解決していこうというのが「家族療法」です。登校拒否などでも、子どもとお母さんだけがカウンセリングに通っても、なかなか解決しないものが、お父さんや他の家族も一緒に通うことで、嘘みたいにあっけなく解決してしまうということも多々あるのだそうです。

 つまり、先にも述べたように、個人の病気(症状、問題行動)は、「家族全体の人間関係の歪みの表れ」であり、その個人の病気(症状、問題行動)は、家族の中で「何らかの役割」を演じているとも考えられ、その病気や症状を治すには、「家族システムの機能を変化させるのが良い」という考え方に基づいたものが「家族療法」なのです。

家族も変化が必要
 
 家族の誰かが心身症などの問題を抱えている場合、その家族には次のようなケースが見られることがよくあるそうです。

 ● お父さん、あるいはお母さんなど家族の誰かが威圧的な態度で他の家族に接していて、家族同士の関係に極端な緊張がある。

 ●誰かが病気になって寝込んでしまったり、単身赴任でお父さんがいなくなったりしたときなど、家族の一人に変化が起きた時に、それが原因で本来の家族としての機能を失い、全員がバラバラになってしまう。
 
 ● 父と息子、母と娘などの境界が不明瞭で、上下関係が全くない(ありすぎもよくない)。
 
 ●手紙や携帯、部屋の中の私物などを他の家族がこっそり見てしまうなどお互いのプライバシーが守られていない。
 
 ● 何でもかんでも親が先回りして子どものすべきことをやってしまう、いわゆる「過保護」 
   
 ・・・などなど。
 家族にも育児期、反抗期、自立期、老人期・・・などといったライフサイクルがあり、そのたびに必ず大きなストレスが家族を襲ってきます。特に子どもの思春期は、どこの家庭にも起こる危機です。こうした危機に対し、家族がその変化を拒むと問題は余計に悪化します。

 例えば、子どもが自立する頃になると、親に反抗するようになったり、親と一緒に行動するのを嫌い、友達と過ごすことが多くなったりします。これは思春期や青年期であれば「当然の姿」です。そうやって子どもは仲間の中で心を成長させていくものなのです。子どもが何かの壁にぶつかったとき、子ども自身に悩ませて自分の力で解決させることも必要なのです。親は出来るだけ口を出さずに見守り、子どもが本当に困って助けを求めてきたときにだけ援助をしてやればいいのです。それを「お願いだから昔の素直な良い子に戻ってちょうだい。」などと、子どもの自立を必要以上に拒んだりすると、子どもは正常に自立できずに"引きこもり"になったり、暴力や非行など、余計に荒れたりします。反抗期に入ったら、必要以上にオロオロしたりしないで、「この子も正常に発達してるのね。もう子ども扱いされたくないのね。」と子どもの成長、発達にともなった変化を家族が受け入れることが必要なのです。
 
 このように、家族自体もライフサイクルに合わせて進歩、発達していかなければなりません。そのためには、家族に何か大きな問題が起きたとき、誰かのせいにしたりするのではなく、家族みんなでその問題について冷静に話し合いをすることが必要なのです。家族間の意思疎通がうまく行き、健全な家族関係に戻れば、いつの間にか問題も解決しているということもよくあるそうです。もしも、自分たちだけで解決が難しい場合は、第三者、あるいは専門のカウンセラーなどに相談することも有効です。


 ちょっと話が難しかったかもしれませんが、今回の研修は、私自身にとっても、「自分の家族にこれから起こりうる危機への心構え」というか、どうやって乗り越えていけばよいかを学んだ気がしましたので、みなさんにもお伝えしたかったのです。





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