より家庭的な保育園をめざして

初瀬基樹

 
先日、世界的に有名なスウェーデンの社会学者、ブライアン・アシュレイさんとご夫人のビッグ・アムストロムさんのお話を聴く機会がありました。それ以来、私はスウェーデンの、というか北欧の保育に興味を持ち、それらに関連する本を読んだりしていますが、「福祉先進国」といわれる北欧の保育園と日本の保育園とでは根本的な考え方、在り方の違いがあることを強く感じています。

 おおざっぱな言い方ですが、日本の保育園は、園舎の造りも内容も学校をモデルに、学校をそのまま小さくしたような感じであり、いわば「小さな学校」のようです。クラス編成もほとんど年齢別で分けられ、「年齢毎の活動」が中心となっていて、しかも、同じ一つの部屋で「遊び」「食事」「お昼寝」などが行なわれ、保育士はジャージ姿でいつも忙しく動き回り、子ども達に「がんばれ、がんばれ」と声をかけている、というのが一般的な日本の保育園の姿(もちろん、各園なりにいろんな工夫がなされていることと思いますが)のようです。しかし、ここで注意しなければならないことは、学校と保育園は根本的に違うということです。最も大きな違いは、学校は、基本的に身の回りのことは子どもが自分自身で出来るようになっていることを前提に「学習」が主な内容であるのに対し、保育園は「生活(生活文化)そのもの」が中心的な内容であるということです。学校がモデルになっている現状では、どうしても子ども達の生活に無理が生じてしまいます。今の日本の制度では、職員の配置数などが限られていますので(北欧に比べるとかなり低い水準)、クラス全員が揃わないと食事やお昼寝など、次の活動にすすむことが困難なのです。ですから、ゆっくり食事を楽しむとか、片づけを気にせず、心ゆくまでじっくり遊ぶということもなかなか難しくなってしまうのです。我が園ではその辺を出来るだけ子ども達に無理のないように、子ども達のやりたいことが存分にできるようにと考え行なってきていますが、限界があるのも事実です。

それに比べ、北欧の保育園はといえば、あくまでモデルは「家庭」です。そして、「自然」や「文化」「美しさ」みたいなものをすごく大事にしています。日本の保育園よりももっと開放的で、いろんな園の利用の仕方があり、近年日本でも出来始めた「子育て支援センター」のように、親子で好きな日に、好きな時間だけ通うようなところなども数多くあるようです。ほとんどの保育園では、「遊ぶ部屋(木工、手芸を含めた様々なコーナー)」「食事する部屋」「休憩(お昼寝)する部屋」「絵本の部屋」などがきちんと分かれて設置されており、子どもたちは、自分の好きな場所で好きなことを心行くまで楽しむことが出来ます。日本のように、クラス単位でみんな一斉に「さあ、おかたづけよ!」「早くご飯の用意しなさい」「早く食べなさい」「早く寝なさい」などと急かされることもなく、ゆったりと会話を楽しみながら食事をとり、休憩したい子が専用の部屋で休むこともできます。自分のペースで、自分に合わせて行動することができるのです。クラス編成も年齢別ではなく、大きい子も小さい子も入り混じった混合クラスが(乳児に関してはそれなりの配慮がされていますが)一般的なのだそうです。ですから、ごく自然な家庭的な雰囲気の中で毎日の生活をおくっているのです。保育者も自分の得意分野をいかして木工や手芸などを子ども達と楽しみながら行なっているのだそうです。保育者がするのを見て、「僕もやってみたいな」と思い、手伝ったりしているうちに自分でも出来るようになっていく。まさに、家庭でお父さん、お母さんのお手伝いをしながら色んなことを学んでいくというスタイルを大切にしているのです。

日本の場合と北欧の場合を比べてみると、確かにどちらも、一長一短あるとは思います。しかし、これからの時代のことを考えると、また乳幼児期に本当に適した生活が送れるのはどちらかといえば、やはり北欧の保育のような気がします。乳幼児期には「知的教育」よりも「心の教育」が大切だと思います。勉強が出来る子をめざすよりも、多様な人とのかかわり合いの中で、人間性豊かに育つことの方が大切な時期だと思うのです。

だからといって、子どもに好き勝手させておいたら、子どもはわがままで手がつけられなくなるのではと心配になる方もおられるかと思います。一時期、学級崩壊などの原因は自由保育を行なう保育園、幼稚園が原因なのでは、と批判されたこともありました。しかし、実際のところは、そうではないのです。もちろん、様々な別の要因も重なってのことなのでしょうが、小さいときに自分のやりたいことを存分にやらせてもらえなかった子、我慢ばかりさせられて育った子ほど、自分の行動を抑制する力が弱いのだそうです。いわゆる「キレる子ども」「荒れる子ども」になりやすいのです。自分のやりたいことを満足するまでやらせてもらえた子は、人の話もよく聞けるようになるし、自分で考えながら行動をコントロールできるようになるものなのです。

私たちの園でも、保育目標に掲げている通り、「家庭的な保育園」をめざして、これまでも日々奮闘してきましたが、やはり、先に述べたとおり、現状では限界を感じていることも確かです。保育園のあり方を根本から見直す時期にきているのではないかと思います。現在はまだ検討の段階で、実現するかどうかも定かではありませんが、我が園でも環境を大きく見直し、3歳以上を混合クラスにしてみてはどうかということを提案しています。基本的な生活は限りなく「家庭的な雰囲気」を大切にし、同時に同年齢の横のつながりも大切にしていけるような保育を創りだしていけたらと考えています。

おうちの方々のご意見もぜひお聞かせ下さい。




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