保育に夢と希望を
初瀬基樹
新年早々暗くなってはいけないと思いつつ、今保育園は非常に危うい立場に置かれようとしています。「保育園が」というより、「これからの子どもたちが、まともに育っていくのだろうか」と、とても心配になります。
昨年、12月には「公立保育園の保育所運営費が一般財源化された」というニュースがありました。現時点では民間(私立)保育園については、これまで通り「引き続き、国が責任を持って・・・」とされていますが、今後どうなっていくのかわかりません。
「一般財源化」というのは、これまで国が「これだけは必ず子どもの保育のために使いなさい。」と国庫負担金という形で地方に渡してきたお金を、その他のお金とまとめて地方に渡し(地方交付税として)、「これらのお金は、(一般財源として)自分たち(地方)で考えて、好きに使っていいですよ。」としてしまうことなのです。このことによって、財政の厳しい地方や保育の重要性をあまり認識していないような地方では、保育所の運営費を削って、他の事業に使うこともできるようになってしまうおそれがあるのです。ですから、本来どの地方においても平等に保育されるべき子どもたちが、地方によって不公平が生じるようなことにもなりかねません。確かに民間(私立)保育園に比べ、公立保育園にはお金がかかりすぎているという現状もあるようなのですが、公的な責任の後退につながるようで心配です。
この公立保育園の保育所運営費一般財源化は、「三位一体の改革(国庫補助金1兆円削減)」と呼ばれるものの内容に決着をつける形で、小泉首相により裁定されたものですが、このところ、他にも子どもの育ちを無視した経済効率優先の保育制度改革が次々に進められようとしています。「福祉」の世界にも一般の物品販売業などと同じように「経営者同士で競争させることにより、より安く、より良いものを作らせる」というような市場の原理を当てはめようとしているのです。しかし、「人間を育てる」のに「無駄を省いて効率的に」なんて原理が果たして当てはまるのでしょうか?
本来なら、現行の最低基準(保育園を設置するために国が定めた最低限の基準)でさえも、到底満足のいく保育ができる状態ではありません。例えば、保育士の配置基準をとっても、0歳児3人に対し保育士1人。1〜2歳児は6人に対し保育士1人。3歳児に至っては20人に保育士1人。4〜5歳児では30人に対し保育士1人です。「3歳児20人を1日、いや例え1時間でも、1人で保育してみる勇気がありますか?」と保育園の現状を知らずに経済のことばかりを考えて政策を決めていく政治家に聞いてみたいものです。私達保育に携わる者は、こうした状況を少しでも改善していきたいと考えているのに、子どもの育ちを無視した経済効率優先の制度改革が進められていくことには納得がいきません。これらの保育をめぐる危機的な状況については、いずれ、何かの折にもう少し詳しくご説明できればと思います。
しかし、一方では「次世代育成支援対策法案」というのも出されています。これは「次代を担う子どもや、子どもを育てる家庭を社会全体で支援する取り組み」を指します。これまでも保育所、幼稚園の整備や、児童手当の拡充などが行われてきましたが、次世代育成支援は、このように子育てを直接支援することだけでなく、より広い範囲での支援を含めた言葉といえます。
例えば、地域における子育ての支援、母性並びに乳児及び幼児の健康の確保及び増進、子どもの心身の健やかな成長に資する教育環境の整備、子どもを育成する家庭に適した良質な住宅及び良好な居住環境の確保、職業生活と家庭生活との両立の推進(子どもを持つ親、特に父親に焦点を当てた働き方の見直し)など、社会全体を見直し、子どもを生み、育てやすい環境作りをしていこうとするものです。こうした動きがあることはとてもうれしいことです。この次世代育成支援についても、もう少し勉強してから詳しくお知らせしたいと思います。
政治や経済に使われる用語は難しく、私達も何がどうなっていくのか見極めるのが困難ですが、少なくとも現場にいる私達は保育の目的を見失わずに、保護者の方々と共に「子どもたちの健やかな育ち」を何よりも大切なことと考え、保護者の方々にとっても、子ども達にとっても「安心して預けられるもう一つの家庭」そして「地域の誰でも利用しやすく、みんなの『夢語り場』のような場所、『まちのみんなの保育園』」にしていけたらと思います。
今後もどうぞよろしくお願い致します。