TVが子どもの脳を壊す

初瀬基樹

 以前にも、テレビ、ビデオを小さな子どもに長時間見せるのは危険だというお話を紹介したことがありますが、最近、さらにそれを裏付ける研究が発表されたので、それをご紹介したいと思います。

テキスト ボックス: 警告「ゲーム脳」(毎日新聞2002,7,9)
人間らしい感情や創造性をつかさどる大脳の前頭前野(大脳の最前部の額のあたりに位置し、人間の「個性」を決める場所といわれる。本能をつかさどる視床下部や古い皮質などの働きを抑制する機能がある。イヌやネコには見られず、サルにもわずかにあるだけで、前頭前野が未発達だったり損傷を受けると、行動が子どもっぽくなったり、感情のコントロールができなくなる。)の活動が、テレビゲームをするときに目立って低下することを、日本大学文理学部の森昭雄教授(脳神経科学)が脳波測定実験で突き止めた。今秋、米オークランドで開かれる米神経科学学会で発表する。ゲーム時間が長い人ほど低下の程度が大きく、ゲームをしない時も活動レベルが回復しないこともわかった。森教授は「ゲーム脳」と名づけ、「情操がはぐくまれる児童期にはゲームの質や時間に気を配ってほしい」と警告している。
 昨年から今年にかけ、6〜29歳の男女240人を対象に実験した。脳波のうち前頭前野の活発さや緊張度合いを示すベータ(β)波と、安静時によく出るアルファ(α)波の2種類を調べる電極を額につけてテレビゲームをさせ、その前後の波形の現れ方を調べた。ベータが健全(活発)な方から、ノーマル脳⇒ビジュアル(視聴依存)脳⇒半ゲーム脳⇒ゲーム脳、に分類した。
 ほとんどゲームをしない人は、ベータ波が常にアルファ波よりも強く出て、ゲームを始めても二つの波はほとんど変化しなかった(ノーマル脳)。週3〜4日、1回1〜3時間ゲームをする人は、ゲーム前は二つの波の強さがほぼ同じで、ゲームを始めると、ベータ波の活動レベルが極端に下がり、アルファ波を下回った(半ゲーム脳)。毎日2〜7時間ゲームをする人は、ゲームをしなくてもベータ波は常にゼロに近く、前頭前野がほとんど働いていないことを示した(ゲーム脳)。
 240人の内訳は「半ゲーム脳」がもっとも多く約40%、他の3タイプは10%ずつだった。
 背景について森教授は@ゲームでは視覚と運動の神経回路だけが働き、「考える」ことが抜け落ちる。Aゲームを長く続けると、前頭前野の活動低下が慢性化する。Bテレビなどの視覚刺激になれた人(ビジュアル脳)は「ゲーム脳」に移行しやすい、と考察した。
 また、実験対象者に対する聞き取り調査で、「ゲーム脳」の人に、「キレやすい」「集中できない」「友達づきあいが苦手」という自覚が多いことも判明した。森教授は「テレビゲームは緊張や恐怖心をあおるものが多く、自律神経などへの影響も心配だ」と話している。

 また、「AERA」(朝日新聞WEEKLY 2002,7,15)にも同様の記事が掲載されていましたので、おおまかに内容を紹介致します。

 現在、小学校の年間授業時間は実質約700時間。もしも家でテレビを1日2時間見たとすると、年間で730時間見たことになり、授業よりテレビ視聴時間の方が長いことになります。実際は1日2時間以上テレビを見ている家庭が多いことを考えると・・・。

例え、教育用であろうと何であろうと、「内容」よりも、テレビやビデオ、ゲーム、パソコンなどの電子メディアの画面に向かう「時間」に問題があるようです。脳は、特に脳構造が決まる8歳〜10歳までの間は、「双方向の刺激(多くの場合、母親とのコミュニケーション)」によって健全に発達していきます。しかし、こうした電子メディア等からは「一方的な、それも強い刺激」しか得られません。さらに、そうした一方的な刺激を受け続けることで、脳は先ほど述べた「ゲーム脳」になっていき、前頭前野の働きが低下、すなわち「考える力」が低下し、攻撃的になったり、言葉の発達が遅れたりして人とのコミュニケーションがうまく取れなくなったりするようです。

最近は学校でもADHD(注意欠陥・多動障害)の急増が騒がれています。また、乳幼児においても自閉的傾向を示す子が増えているというのも、遺伝的要因だけでは説明がつきません。今やテレビ漬け環境が何らかの影響を及ぼしていると考えざるを得ないようです。見ている、見ていないに関わらず、テレビがつけっぱなしのご家庭も多いのではないでしょうか?

 ではどうすればよいのでしょうか?答えは、単純に「テレビ等を見すぎないこと。」テレビを見るなら、その3〜5倍の「外遊び」をすること。

 現に、福岡の保育園等で1年間、月に1日だけの「ノーテレビデー」を実施したところ、効果はてきめんに現れ、叩く、蹴るといった攻撃的な行動が減ったり、「ヤダッ」「死ね」と単語でしか話せなかった子が文章の形で話せるようになったりなどの報告が寄せられているそうです。当初、「テレビがないとうちの子はパニックになる」と心配していたのは親の方で、いざ実施してみると、子どもはあっけないほど簡単に順応できたそうです。要は、私達大人自身が「テレビから離れる力」をつけることが大切なようです。

 過剰な音や光の刺激がない空間や「退屈する自由」を経験すると、子ども達は始めて自分で自発的に考え遊びを始めます。ゲーム脳になっていた大学生が3ヶ月間お手玉を続けた結果、脳波が正常に戻ったという実験結果もありました。

まずは試しに1日だけでもテレビなどのスイッチを切ってみませんか?




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