スーホの白い馬




初瀬基樹
 

 先日の「劇場ごっこ」には、お忙しいなかに、たくさんの方々にご来園いただきまして、本当にありがとうございました。少々緊張していた子もいたようですが、日ごろの保育の様子や、子どもたちが自ら意欲的に取り組んできた様子をご覧頂けたのではないでしょうか。劇場ごっこが終わった今でも子どもたちはスーホの白い馬の歌を口ずさんでいます。

 
 数年前までのわが園の「劇場ごっこ」では、「子どもたちの中から生まれてくる“子どもらしい表現”を大切に」と考えて取り組んできました。それはそれで良い取り組みだったと今でも思っていますが、近年、もっと大人が「文化を伝える」ということを考えてよいのではないか、教え込むのでなく、子どもたちの感じ方、表現も大切にしながら、「大人と子どもが一緒に創っていく、そんな劇にしてもよいのではないか」と考えるようになり、この数年は、それまでの取り組みを変え、『森は生きている』、『わらしべ王子』、『魔笛』など、内容、音楽等にも気を配り、子どもたちに伝えていきたい文化として題材を選び、取り組んできました。

 そして今年度のきらきら(2~5歳児)は『スーホの白い馬』に取り組みました。このお話は、小学校の教科書にも掲載されていますので、多くの方がご存知だったことと思います。

 私自身、この絵本(大塚勇三 再話 ・ 赤羽末吉 画 『スーホの白い馬』 福音館書店 刊)は、小学校に上がる前に読んでもらった記憶があり、絵本の絵とともに話の内容も、大人になってからでもしっかりと覚えていた絵本でした。悲しいお話ですが、いつまでも心に残る感動的なお話で、ぜひ子どもたちにも伝えていきたいと考えていた絵本の一つでした。

 
 しかし、昨年末の会議のなかで、担任が今回の「劇場ごっこ」で、この『スーホの白い馬』をやりたいといった時には、正直、悩みました。まず、登場人物が少ないこと、狭い舞台のなかで広いモンゴルの草原をどう表現するのか、そして、何よりハッピーエンドではない、悲しいお話であり、年長児だけならまだしも、2~5歳児の異年齢児混合クラスで、子どもたちがこの話をどのように受け止め、どのように表現するのかなど、「劇にするには課題が多いのでは」と感じたからです。
 
 
 とはいえ、子どもたちにこの絵本を紹介するいい機会かもしれないという思いや、担任の強い思いもあり、どうなるかわからないけど、とにかくやってみようということになりました。まずは、劇にするかどうかの前に、この絵本を子どもたちに紹介し、お話の世界を伝えてみて、子どもたちの反応を見ることにしました。劇場ごっこで行うかもしれないということも視野に入れ、絵本をもとに、おおまかな台本も作成しました。

 
 きらきらでこの絵本が紹介されると、すぐに3、4歳の子たちが、テラスや保育室で「パカラッ、パカラッ・・・」と言いながら馬になりきって走り回る姿が見られるようになりました。きっと馬が草原を走る場面を子どもたちなりに想像して再現しているんだろうなあと思いました。

 幸いなことに、丸山亜季さん(数年前にわが園の劇場ごっこで行なった『わらしべ王子』などの歌を作った方です。)が、このスーホの白い馬の楽譜集を出しておられるのを見つけたので、すぐにそれを手に入れて、きらきらの子どもたちと歌い始めました。

 子どもたちは、歌もすぐに覚え、いろんな場面で口ずさむようになっていきました。
 
 
 しばらくたったある日のこと、4歳児のみくちゃんが、「わたし、つくし(5歳児)になったら、スーホの白い馬のパズルがいい!」と言いに来てくれました。うれしいひとことでした。(わが園では、年長児になると誕生会のときに、その子の今一番好きな絵を職員が手作りのパズルにして、プレゼントしています。みくちゃんは、今のうちから来年度のプレゼントに「スーホの白い馬」のパズルが欲しいと思ってくれたのです。)それだけ、このお話が心に響いたんだなあと感じました。
 
 
 絵本のすばらしさ、歌のすばらしさ、やはり、良質なものは子どもたちもしっかりと感じとる力を持っていると感じました。少し難しいかと思ったこのお話でしたが、子どもたちなりに、しっかりと理解し、受け止めていたようです。
 
 わが園の「劇場ごっこ」の取り組みは、ただ単に絵本を劇にして、おうちの方々にやって見せるというだけのものではありません。歌やセリフを覚えるだけでなく、場面を想像し、場面ごとに登場人物のそれぞれの気持ちになってみたり、それをどのように表現したらよいかとか、自分はどの役をやりたいのか、誰がどの役をしたらいいかなど、クラスの中で話し合いながら進めていきます。劇の出来栄えよりも、むしろ、こうした出来上がるまでの過程を大事にしたいと考えています。今年もいい取り組みができたのではないかと思います。
 
 年長さんは卒園まで、あとわずか。残り少ない園生活を思いっきり楽しんほしいものです。









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