“困ったちゃん”


初瀬基樹
 

 突然ですが、みなさんは、子どもの頃に「こだわり」ってありましたか?

 多くの方が何かしらの「こだわり」を持っていたと思います。もちろん、私にもありました。私は幼稚園に通っていたのですが、冬はもちろん、夏でも絶対に長ズボンしかはかない子どもでした。自分でもはっきりした理由は覚えていませんが、おそらく「半ズボンはカッコ悪い」というイメージがあったのだと思います。親から「半ズボンにしなさい」と言われれば言われるほど、「半ズボンはいやだ」と長ズボンにこだわっていたように思います。

 半ズボンをはくようになったきっかけは、これもはっきりとした記憶ではありませんが、おそらく年長になって、それもだいぶ経ってから、担任の先生に「もときくんって、いつも長ズボンだよね。もときくんが半ズボンをはいてるところ、見てみたいな。」というようなことを言われて、仕方なく・・・というか、その頃にはもう自分のなかで「半ズボンは嫌だ」というこだわりはすでに薄らいでいたのだと思いますが、それよりも、これまで長ズボンしかはいていなかった自分がある日突然、半ズボンをはいて登園したら、みんながどんな反応を示すか不安で、恥ずかしいというか、ドキドキしながら半ズボンをはいて行った記憶があります。いつもと違う自分を見せることに対しての抵抗があったのだと思います。今考えるとそんな大げさに考える必要などなかったのでしょうが、当時の私にとっては一大決心だったのだと思います。でも、いざ行ってみたら、たいして周りは私の姿など気にも留めていなくて、なんということはなく、先生からは「半ズボンも似合うよ、かっこいいね。」とほめられて気分を良くして、それから半ズボンもはくようになったのだと思います。


 子どもって、いろんな「こだわり」を持っていたりしますよね。「みんなちがって、みんないい」とは言うけれど、なかなかそう思えないのが親心。ついつい、「なんでこの子は・・・!」と思ってしまいますよね。

 でも、人と違う部分を持っているということ、自分の意見をしっかり持っているということはとても大切なことだと思います。こだわりが強いと、一見“困ったちゃん”に見えますが、そういう子の方が個性的で魅力のある人に育つということもよくあります。反対に親や周囲の気持ちを敏感に感じ取って周囲の期待に応えようとする子は、“いい子”に育っているように見えますが、実は、自分の個性を抑え込み続けていて、いずれ爆発して荒れてしまったり、反対に何事にも意欲をなくしてしまったりすることも少なくありません。

 人の性格というのは生まれ持ったものなので、変えようと思ってもなかなか変えられません。自分の性格であっても、変えようと思ってそう簡単に変えられるものではないですよね?ましてや人の性格を変えるなんてまず無理だと考えた方がいいでしょう。まずは「この子はこういう個性を持った子なんだ。」とありのままを受け入れることが大切です。


 そうは言っても、好ましい個性なら伸ばしてあげたいけど、好ましくない個性は何とかしたいというのもわかります。でも、好ましくないと思える個性も、たいていの場合は、見方を変えることによって好ましい個性と考えることができるようになるものなんですよね。

 気を付けたいのは、「おまえは本当にグズだ。」とか「泣き虫で困る。」などと(おまえはダメな子だ)というメッセージを子どもに与えてしまうことです。大人同士の会話でも、子どもに聞こえているにも関わらず、どうせわからないだろうからと「この子、グズで困るのよね。」とか「この子は恥ずかしがり屋で人前では何にもできない。」などと言ってしまうと、子どもはそのニュアンスをしっかり感じ取ってしまいます。否定的な言葉をかけ続けられた子どもは、そのマイナスのイメージを刷り込んでしまい、「どうせ私はグズよ。」とか「私は人前では何もできない。」と自分で思い込むようになり、ますますそうした姿を強化していくことになってしまいます。

 スローペースな子どもには「この子はきっと自分で納得してからじゃないとやらない子なんだ。」「ひとつひとつを丁寧にやらないと気が済まない子なんだ。」人前に出るのが苦手な子には「周りが見えているからこそ、失敗しちゃいけないと思える、責任感の強い子なんだ。」と気持ちを切り替えて、「それでいいよ、待っててあげるから最後までやってごらん。」「失敗しても大丈夫。しっかりと見守っているよ。」とプラスのイメージを与え続けてあげればよいのです。「早くしなさい」「恥ずかしがってないで、ちゃんとやりなさい。」なんて言わなくても、「さっさとやらなきゃ自分が困る」、「自分がやらなきゃ周りのみんなが困る」などという場面は、大きくなるまでに幾度となく経験するはずです。そうした経験を通して、こういうときは素早くやった方がいいなとか、やるべき時はやらなきゃということを学び、自ら気を付けて行動するようになっていくはずです。

 
 私が子どもの頃、「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く」というスローガンが流行したことがありました。これは交通安全標語ですが、なんだか今の日本は、いつも、せかせかしていて、「早いことが良いことだ」的なイメージが強すぎるような気がしています。「早くしなさい」って言い続けて、本当に行動が早くなった子どもが、果たして世の中にどれだけいるのでしょうか?

 本人の意思を無視して、無理やりさせて良い結果を生み出すことはありません。それよりも、温かく見守ってもらえた。自分がやろうと思った時に応援してくれた。支えてもらった。子どもたちにはそんな経験を記憶として残してあげたいものです。


 「長い目で見て、ゆったりと構える。 細かいことは気にせず、おおらかに楽しみながら育てる。」これが“困ったちゃん”を育てる極意なのだと思います。







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