『考える力』 


初瀬基樹
 

 進級、新入園おめでとうございます

 いよいよ新年度が始まりました。新入園児さんも登園し始めて、賑やかな4月です。


 毎朝、新入園のお母さん方は特に、泣いているお子さんを園に置いてお仕事に行かれる時は、不安で心配で胸を痛めておられることでしょう。

 でも、ご安心下さい。私たち保育者が、しっかりとお子さんの気持ちに寄り添い、受け止めていきます。お子さんは、きっとすぐに慣れて、保育園って楽しい!と思えるようになりますから・・・。

 お母さん方の不安は、お子さんにも伝染します。どうぞ、私たち保育者を信頼して、お母さん方はどっしり構えて、お子さんに「大丈夫!ちゃんとお迎えに来るから。保育園でいっぱい遊んでおきなさい。」言ってあげてくださいね。


 さて、年度末の職員園内研修では、毎年、その年度の反省を踏まえ、次年度の方針や計画を検討したりしています。今回は、日本だけでなく、世界の保育にも目を向け、これからの保育に必要なことを考えてみようということで、フランスの幼稚園で行われている4、5歳児の哲学の時間を2年間にわたって追ったドキュメンタリー映画を見ました。


 4歳児クラスの最初のころは、みんなで話しているのに、先生対一人の子どもといった感じで、それぞれとの会話という形になることが多かったのですが、5歳児クラスの後半、卒園間近には、子どもたちは、まわりの友だちの意見をちゃんと聞き、その意見に対して賛成か反対か、その理由について、しっかりと自分の意見を言えるまでに育っていました。しかも、話のテーマが、「大人とは、子どもとは」とか「リーダーとは」「法律とは」「自由とは」「愛とは」「死とは」・・・と4,5歳児クラスの子どもたちが、こんなテーマで話せるのか?と驚くようなテーマなのですが、子どもたちなりに考え、ちゃんと自分なりの意見を持って発言しているのです。

 哲学の授業を行っている幼稚園の先生が映画のなかで言っていました。「大人は、相手がなぜこんな質問をするのかと考えて答えるけれど、子どもは尋ねられたことに対して先入観なく問題を熟考する。そこが違う。」

 なるほど、と思いました。大人が持っている知識を教える、あるいは、子どもたちの意見を正しい、間違ってると判断するのではなく、丁寧に子どもたちの感じたこと、考えたこと、知っていることを聞き出してやる。そして、それらを聞いて、また、考えさせていくのです。


 ちなみに、哲学の時間に、子どもたちがどんな会話をしているのかというと・・・

子ども 「貧しい人はなぜ貧しいの?」

先生 「いい質問ね」

子ども 「貧しい人は外に住んでいる。家がないの」

子ども 「何もない。水とパンだけ」

子ども 「貧しい人を知ってる。ごみ箱の残飯を食べるの」

子ども 「貧しい人は嵐のときでも外で寝る」

子ども 「金持ちはいい」

先生 「なぜ?」

子ども 「何でも買える」

先生 「そう?」

子ども 「食べ物も車もバイクも…テントも」

先生 「みんなはどっち?」

子ども 「ぼくは貧乏」

先生 「豊かってお金だけ?ほかにも豊かになれる?」

子ども 「もし私がお金持ちでもそれは意味がない。でも友達といると楽しい」

子ども 「ホームレスは、友達はいても食べ物はない。それで彼らは食べ物をねだるんだ。」

子ども 「彼らに何もあげないと死んでしまう・・・もし何かちょっとしたものをあげると、そのせいで彼らは時々怖い態度になる。私たちの友達なのに何もあげないでいると彼らは意地悪になる・・・何かあげると怖くしない」

子ども 「貧しい人にお金をあげて優しくすると天国にいける。私はこの間あげたわ。おばさんとサンドイッチを買ってあげたの」

子ども 「やることない、もらった金で物を買ってる」

子ども 「意地悪!!」

子ども 「自分の金で買えばいい」

子ども 「他人に意地悪よ」

先生 「助けるべき?」

子ども 「自分で買えばいい」

子ども 「物乞いをしてる人を見たけど入れ物はカラだった」

子ども 「駅で女の人がみんなにお金を恵んでくださいと言ってた。パパもママもあげなかったから、わたしは何でお金をあげないのと聞いた。そしたらパパは、どうでもいい。急がないと遅れるといった。」

子ども 「当然だね」

子ども 「もし私が貧乏だったら・・・何も買えなくなる」

先生 「自分に置き換えて考えたのね・・・」


 日本で、同じ4,5歳児クラスの子どもたちが、これだけの議論ができるでしょうか?

 わが園の子どもたちだけでなく、日本の子どもたちにぜひともつけてほしい力だと思います。自分の頭で考え、自分の意見を言い、人の意見を聞いて、また考える・・・

 これまでの日本の教育のように教師から生徒への一方的な指導、暗記中心、テストの成績だけで評価されてしまうようなものではなく、本当に必要な教育とは、そもそもこういう「自分で考える力」をつけていくことなのではないかと強く感じました。

 哲学の時間とまではいかなくても、園でも朝の集まり、帰りの会など、子どもたちとの会話を楽しみつつ、「考える力」を育んでいきたいと思っています。

 今年度もどうぞよろしくお願いいたします。





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