昼食の風景
初瀬基樹
今回はわが園の昼食の様子を少しご紹介したいと思います。
まず、配ぜんの用意は年長さんがします。きらきら(3・4・5歳児)には6,7人の縦割りのグループが3つあり、昼食は基本的にそのグループで食べるようにしています。グループにはそれぞれ担任や主任、園長と大人も入っています。グループのリーダーである年長さんが、毎日、その日の自分のグループの子どもの数と大人の数を考えて器を運びます。全員出席のときはいいのですが、「1人お休みで、1人は別のグループで食べたいと言っていて、園長は出張でいない」などとなるとちょっと複雑です。算数というより、イメージする力なのでしょうか、頭のなかで自分のグループの子の顔を一生懸命思い浮かべながら数えているようです。
配ぜんの用意ができると、保育室で待っているみんなを呼びに行きます。待ちかねていた年中、年少さんたちが手を洗って食事ルームにやってきます。だいたい、ここでひともめします。席決めです。早く来た子から自分のグループの好きな席に座りますが、「○○ちゃんの隣がいい!」とか、「大人の隣の席で食べたい!」という子たちが、早く来て座っている子たちと席を代わってもらえるかの交渉(?)を始めます。大人の隣も2人までならすんなりいくのですが、3人以上になると、誰と誰が大人の隣に座るか決まるまで、なかなか「いただきます」ができません。「前の席はどう?いつでも顔が見えるし、手も届くし・・・」と提案されても、「いやだ。隣がいい」ということがほとんどです。顔が見える真向かいよりも、隣で同じ景色を共有したいのでしょうか?子どもの心理的には真向かいよりも、隣の方がより近くにいるように感じるようです。「じゃあ、明日隣で食べよう」とか「おやつは隣で食べよう」となんとか席が決まります。
そして、盛り付け。わが園では「食事は楽しく」を一番に考え、また、「『全部(きれいに)食べた』という満足感でごちそうさまをしたい」と思い、盛り付けの際に1人ひとりに「どれぐらい食べられる?」と聞きながら、自分で食べられる量を予測させて盛り付けをしています。もちろん、あんまり多すぎるようなときは「他の人も食べたいから、全部食べてからお替りしてね」と調整することもありますが、「これは苦手だから少しにして」というものに関しては、ほんの一切れなんてこともあります。「偏食指導」という観点から見ると「小さいうちから嫌いなものでも食べさせなきゃ好き嫌いが治らない」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、実は逆なのです。「無理強いされて余計に嫌いになる」というケースがいかに多いことか。現代の日本で栄養失調になったなんてほとんど耳にしませんよね?普段、元気に活動が出来ていて、最低限の栄養が摂れていれば、かなりの小食、偏食が続いても結構平気なものなのです。それよりも、楽しい雰囲気のなかで、一緒に食べている人が出されたものを何でも「おいしい、おいしい!」って食べて見せることが重要なのです。そうやって、おいしそうに食べる姿を見ているうちに「あんなにおいしそうに食べてるから、自分もちょっと食べてみようかな?」という気になるのです。わが園では、卒園する頃には、量を加減すれば、だいたい何でも食べられるようになる子がほとんどです。
また、同時に一日の活動を見直すことも大事にしています。「体を動かしていっぱい遊べたか?」とか「何かに集中して取り組めたか?」など、活動が意欲的に出来たときは自然と食欲もわき、「がんばって何かが出来るようになった」などというときは、嫌いなものでも「食べてみようかな」という気になりやすいものなのです。
さて、盛り付けが終わったグループから「いただきます」をして食べ始めるわけですが、食べ始めてすぐに「おしっこ」と席を立ったり、おしゃべりが多くて一向に食事が進まない子、好きなものだけ先に食べてしまってお替りを要求する子、山のようにお替りして、やっぱり食べきれなくて残してしまったり、体が横を向いていたり、片足を椅子の上にあげたり・・・。いちいち注意ばかりしていると気まずい食事になってしまうので、職員間でも4月5月の間は少々のことは大目に見ていこうと確認し合い、さりげなく声をかけたりしながらも、楽しい話題、楽しい雰囲気を心がけてきました。
「ごちそうさま」も基本的にグループごとにします。早く食べた子が片付け用のお盆を取りに行くことが多いのですが、お盆を取りに行きたくて早く食べる子、自分が取りに行くはずだったとすねる子、おしゃべりが多すぎて1人だけ食べるのが遅くなり、みんなが待ちくたびれて「先にごちそうさま」をしようとすると「待って~!」と慌てて食べようとする子などなど・・・。
このように4月、5月はなかなか落ち着いた食事にはなりませんでしたが、このところ、ようやく少しずつ落ち着いて食べることが出来るようになってきました。やっぱりみんなで一緒に食べる食事は嬉しく、楽しいものです。
さて、昼食の様子をご紹介しましたが、「結構大変そうだな」と感じられたかもしれません。確かに、最初から、子どもたちの座る場所や大人の隣で食べる順番もあらかじめ決めておき、準備や片付けも大人がやってしまえば、もっと効率的にスムーズに昼食の時間が流れるのかもしれません。3歳未満児であれば、そうした配慮も必要ですが、3歳以上になってくると、大人の都合で子どもを動かすのではなく、敢えてそのように子どもたちに「考える場」、「経験する場」を用意することも必要になってきます。「子どもたちに育てておきたい力」を考えれば、やっぱり、時間はかかっても、面倒くさくても、子どもたちに自分たちで考える機会を多く作ってあげたいと思うのです。経験を通して学ぶこと、考える力を育むこと、自分の思いと相手の思いが違ったときに話しあってお互いの納得のいく結論を導き出すことなどなど、昼食の時間一つとっても、その要素をたくさん含んでいるのです。他のときでも同じです。こうした毎日の一つ一つの積み重ねを大事にしていきたいと考えています。
面倒くさいこと、大変なことを避けたいと思うのは、当然かもしれません。しかし、その先にあるものを見失わないようにしたいと思います。「大変だけど楽しい」、「面倒くさかったけど、じっくり丁寧にやったほうが、最後には充実した満足感、達成感が得られる」ということを私たち大人ももっと経験していきたいし、子どもたちにも伝えていきたいなと思っています。
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