子どもたちに育てられて


初瀬基樹
  

 先日の「劇場ごっこ」には、たくさんの方々に見に来ていただきまして本当にありがとうございました。

 「園児の数は減っているのにお客さんは多くなっている」という現象が、本当に嬉しい驚きでした。劇場ごっこ前日のリハーサルには、ご近所の方々やわんどう(デイサービス)の方を招いて本番同様に劇を行いました。それがとても大好評で、子どもたちも自信をつけることができましたし、見に来て下さった人が「明日は仕事を休んででも見に行った方がいいよ。本当に感動した。」と宣伝して下さったおかげもあってのことかと思います。

 当日も、子どもたちの成長が本当に実感できた「劇場ごっこ」だったと思います。


 さて、担任が毎日記録している保育日誌を通して、取り組みの様子や当日の様子を振り返ってみますと、子どもたちの成長とともに、その成長を支えている保育者の実践も見えてきます。記録だけでなく、きらきら(3歳以上児)の方には、私自身も取り組みの中で実際に子どもたちとかかわったり、保育の様子も見たりしてきたわけですが、いろんな発見がありました。当初、「わらしべ王子」のお話は、3・4・5歳で取り組むには少し難しいかなと思っていましたが、私たち保育者の予想以上に子どもたちは内容を理解し、イメージを膨らませていました。そして、実に意欲的に劇づくりに参加しており、自分の分だけでなく友だちの分までセリフを覚えていたり、「ここはこうした方がいいんじゃないの?」「こんなものがあったらいい」などと自ら提案したり、踊りの振り付けを考えたりと、子どもたちの可能性は本当に果てしないことを感じましたし、「大人と子どもが一緒に創る劇」というのも実感した取り組みでした。


 すみれ(3歳未満児)に関しても、当日の朝、何人かは登園してお家の方と離れた際に「おかあさんがいい~」と泣いてしまったにもかかわらず、幕が開く頃までにはすべての子が機嫌を直し、いつも通り、いや、それ以上に目を輝かせて、ノリノリで出てきて楽しんでいたこと。しかも、担任が記録していたその日の日誌には「当日になって大人の動きを変えたりしたので、いつものように出来るか心配だったが、子どもたち1人1人としっかりアイコンタクトをとって、動揺することなく、いつものように出来た。」という記述があり、日ごろから、保育者と子どもたちとの信頼関係がしっかり築けていること、その信頼関係をベースに日々の取り組みが無理のないものであり、これまでの取り組みが楽しかったからこそ、当日も、子どもたち自身が意欲的に参加出来、心から楽しめたのだろうと感じました。まさに「日常の保育の延長上に行事がある」ということを再確認することができました。


 劇そのものの出来も良かったのですが、それ以上に「日ごろの保育の成果」として、うわべだけでなく、保育者と子どもの信頼関係など、保育の根底がしっかりできていることを確認できたこと、それが今週、開催している「作品展」にもしっかり表れていて、とてもうれしく思っています。


 なかには、取り組みの段階では非常に楽しそうにやっていたのに、本番が近付くと「お客さんがいるから出たくない」という子もいました。特に珍しいことではありません。毎年、その度合いは違っても、よくあることです。これは成長の過程であり、誰もが通る道です。「先のことを予測する力」が育ってきたこと、そして「周りのことが見えるようになってきた」という成長の表れであり、心が成長しているからこそ「お客さんの前では失敗できない」(本当は失敗してもいいのですが・・・)という強い責任感を感じるようになったという証拠でもあります。その責任感がプレッシャーとなり、プレッシャーが強いほど尻込みしてしまう時期というのが、多かれ少なかれ、どの子にもあります。そして、これを「なんとか乗り越えさせてあげたい」というのが大人の願いですが、こんなとき、下手に無理強いすると返ってマイナスになることもありますので慎重な対応が必要になります。かといって、この先ずっと避けて通るわけにはいきませんので、いつかは乗り越えなくてはいけません。その見極めは非常に難しいことですが、今回「この子なら出来る!」「今なら出来る!」という判断を下した担任の目は、正に日頃の保育のなかで子どもたちをしっかり見つめてきた「保育という専門性を備えたプロの目」だったと私は思いました。論より証拠、当日、どの子も本当に堂々と、そして演じることを楽しんで舞台に立つことが出来ました。子どもたちの成長も嬉しかったのですが、それだけでなく、それを支えてきた保育者たちの成長もまた、誇らしく、頼もしく思いました。
 

 年長児の卒園記念金峰山登山も終わり、あとひと月足らずで、年長児たちはこの園を巣立っていきます。うれしいことですが、正直なところ、さみしい気持ちの方が大きいです。今の子どもたちに必要な力をちゃんとつけてあげることができたのか、もっともっと出来ることがあったんじゃないかと、これまでの保育を振り返りながら、ひとりひとりの成長を確認していくときでもあります。


 まだまだ未熟な職員集団かもしれませんが、その都度、みんなで考え、みんなで取り組んできました。今の私たちが持てる力を可能な限りに注ぎ込んできたつもりです。さまざまな姿を見せてくれる子どもたちを通して、育てているはずの私たちもまた、子どもたちによって育てられているんだなと感じています。こうした「ともに育ち合う関係」はこれからも大事にしていきたいと思いますし、見せかけではなく、「本当の保育を追求していきたい」そんな思いをこれからも持ち続け、職員一丸となって取り組んでいきたいと思います。



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