人はなぜ2本足で歩くようになったのか?
初瀬基樹
私が保育士として働き始めて間もなくのころ、ある研修会で東京大学名誉教授の大田尭(おおた たかし)先生のお話しを聞く機会がありました。もうかれこれ20年ぐらい前なので話の内容は確かではないのですが、当時、とても感銘を受け、今でも私が保育を考える上で大きな指針となっているお話しを紹介したいと思います。
大田先生が、授業中に生徒から「人間はなぜ2本足であるくようになったのですか?」と質問されたことがあったそうです。大田先生は即答することが出来ずに「調べてくるから少し時間をくれ」と生徒に言ったそうです。
それまで4つ足で歩いていた人間がなぜ2本足で歩くようになったのか。体重を後ろ脚に乗せることで上体が立ちあがり、前足(手)が自由に使えるようになります。手を使うことによって大脳の機能が発達し、道具を扱うようにもなり、言語も使うようになったということはわかっていましたが、そもそも「なぜ立って歩くようになったか」という本質的な問いに対する答えを見つけることはできなかったのだそうです。
そして、いろいろ調べ、考えても答えがわからず、後日、その質問した生徒に対し「申し訳ないが答えはわからない」と言おうと思って教室に向かっていたのだそうです。しかし、いざ、その生徒に「わからない」と言おうとした瞬間に、ふとその答えが閃いたそうなのです。その答えは・・・「人間が『その気』になったから。」
2本足で立って歩くためには、「2本足で立ってやる!」という強い意志と、2本足で歩き続けるためには「その気」になり続けていなければ、倒れたり、つまづいたりしてしまうのです。裏を返せば、いくら条件が整っていようとも、人間が「その気」にならなければ、人間は2本足で立って歩くようにはならなかっただろうということです。
「その気になったから・・・」そんな当たり前のことのようでありながら、見落としてしまいがちなとても大切なことだと思うのです。
保育でも、子どもたちに「あんな力をつけてやりたい」、「こんな力も必要だ」、「どうやったら子どもたちがそういった必要な力を身に付けることができるか」を職員同士で話し合い、保育の方法を考えます。しかし、いくらわかりやすく、丁寧に伝え、環境を整えたところで、肝心の子どもが「その気」にならなければ、子どもはその力を身に付けることは出来ません。「出来るようになりたい!」「わかるようになりたい!」まずはこうした気持ちを育てることが何より大切だと思います。
先月の「からたち」で書いたことにも通じることですが、今の子どもたちには「遊び」を通して、「意欲、好奇心」といったものをしっかり育てておきたいのです。
小学校に入学したばかりのときには、多少、字の読み書きで遅れがあったって構わないと思います。それよりも人の話を「おもしろそう!」ってしっかり聞けることや、「自分の思いをちゃんと伝えよう」って思えること。世の中の様々な現象に「不思議だな」、「なんでこうなるのかな?」「どうなってるんだろう?」って、好奇心たっぷりに物事を見ることができることのほうがよっぽど大切だと思うのです。
そうした意欲、好奇心があれば、必ず後になって自分にとって必要な知識や能力を身に付けていくことが出来ると思いますし、その子にとって「本物の力」になっていくと思うのです。
余談ですが、先日の「父の日の集い」で来られた親子体操の講師の先生や、一緒に来られていた子育て支援課の方からも、「この園は、保護者の方々の出席率がとても良いですね。そして雰囲気がとてもいい。さらに子どもたちもとても集中して話を聴いてくれる」ととても感心しておられました。さらに集いに参加されたお父さんがた数人からも、「今日は来て良かった。子どもたちの姿を見て、『遊ぶ時は遊ぶ、集中するときは集中して人の話を聴く』っていうのはこういうことだってわかった。」とおっしゃって頂きました。わたしたちにとって、とてもうれしい一言でした。
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